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第一章「愛されぽっちゃり双子と悪役令嬢の姉」
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「結婚なんかしないで、ずっとルーシーといられたらいいのに」
彼女が何を言っても、ベルシアは悲観的な方向に捉える。
「あの子は、自分がレオニル殿下に嫌われているのが気に食わなくて、エドモンド殿下に目を付けたのよ。我が娘ながら、ぞっとする行いだわ」
「お姉様は、エドモンド殿下が好きなのかしら?それなら、婚約はおめでたいことだと思う」
彼女の言葉を聞いて優しく笑ってくれたのは、ルシフォードただ一人。彼だけは、ケイティベルが本心しか話していないと分かっていた。
「ねぇルーシー。リリアンナお姉様のところに行ってみない?」
いまだに一人舞台を繰り広げている母の目を盗んで、ケイティベルはルシフォードに耳打ちをする。それを聞いた彼は、シンプルに嫌そうな顔をした。
「怖いよ、僕」
「私だって怖いわ!だから一緒に来てって、お願いしてるんじゃない」
「お姉様のところに行ってどうするの?」
お揃いのドレスとスーツに身を包んだ可愛らしい双子の密談は、周囲から見ると微笑ましい光景だ。
「私が怒ってるって誤解されたくないから、ちゃんと説明しなきゃ。それに、さっきから皆お姉様の悪口ばかりで、誰も心からお祝いしてあげてないから」
「いくらお姉様が怖いからって、確かにちょっと可哀想だね」
「でしょう?ルーシーなら分かってくれると思ってた!」
両親に説明したところでリリアンナを叱るだけだと、二人は理解している。確かに怖くて意地悪で隣にいると緊張で体ががちがちになるけれど、だからといって婚約を祝わないのは話が別なのではないか、と。
「じゃあ、行こうベル」
「ありがとう!」
主役席からぴょんと飛び降りた二人は、ベルシアに気付かれないようささっとその場から逃げ出す。先ほど見かけた場所にはいないようなので、会場外に出てうろうろと探し回ることにしたのだった。
真っ白な肌に映えるレモンイエローの衣装に身を包んだルシフォードとケイティベルは、どこへ行ってもよく目立ち声を掛けられる。これでは日が暮れてしまうと思った二人は、偶然見つけた洗濯メイドからシーツを二枚借りて、それを頭から被ることにした。
「あらあら、可愛らしい遊びだわ」
「お二人は本当に仲が良い」
「隠れているのかしら?あまり引き止めない方がよさそうね」
完璧に身を隠したつもりなのは当人だけで、通りがかる人達は温かい目でそれを見守っていた。
「これ、暑いね」
ルシフォードはふうふうと荒い息を吐きながら、シーツの下では顔を真っ赤にして玉のような汗をかいている。
「もう少し我慢して。お姉様を見つけたら、すぐにこれを脱ぎましょ」
ケイティベルも同じく、前髪が額に張り付いている。前が見えるように目元は外に出しているから、姉の姿があればすぐに気付くはずだと、一生懸命視線を彷徨わせていた。
被っているシーツのせいで足元が覚束ず、普段近寄らないような場所に足を踏み入れていることに気付かない。しばらく進むと微かに誰かの話し声が聞こえてきたので、二人はぴたりと足を止めた。
「落ち着くんだ、もう少し辛抱しろ。時が来たら必ず始末する」
「無理よ兄さん、私もう我慢出来ない!今すぐこの手で、あの白豚双子を殺してやる!」
声の雰囲気から察するに、苛立った男とヒステリックな女の会話。漂う不穏をいち早く察したのはルシフォードで、足を進めようとするケイティベルのシーツを後ろからぐっと引いた。その拍子に、真っ白なそれがぱさりと地面に落ちる。
「ちょっとルーシー!いきなり引っ張ったら危ないじゃない!」
「待ってベル、何か変だよ!引き返したほうがいい!」
不満を口にする彼女を咄嗟に宥めるルシフォードだったが、時は既に遅かった。いつの間にか辺りはしんと静まり返り、声の主は足音もないまま二人の間近に迫る。
「忌々しいデブめ……っ!死ねぇ……‼︎」
短剣の切先がぎらりと輝くのを目にした瞬間ルシフォードが咄嗟にケイティベルを庇う。あまりにも突然のことに叫び声すら出せない二人は、その異様な空気に飲まれながらぎゅうっと瞼を閉じた。
彼女が何を言っても、ベルシアは悲観的な方向に捉える。
「あの子は、自分がレオニル殿下に嫌われているのが気に食わなくて、エドモンド殿下に目を付けたのよ。我が娘ながら、ぞっとする行いだわ」
「お姉様は、エドモンド殿下が好きなのかしら?それなら、婚約はおめでたいことだと思う」
彼女の言葉を聞いて優しく笑ってくれたのは、ルシフォードただ一人。彼だけは、ケイティベルが本心しか話していないと分かっていた。
「ねぇルーシー。リリアンナお姉様のところに行ってみない?」
いまだに一人舞台を繰り広げている母の目を盗んで、ケイティベルはルシフォードに耳打ちをする。それを聞いた彼は、シンプルに嫌そうな顔をした。
「怖いよ、僕」
「私だって怖いわ!だから一緒に来てって、お願いしてるんじゃない」
「お姉様のところに行ってどうするの?」
お揃いのドレスとスーツに身を包んだ可愛らしい双子の密談は、周囲から見ると微笑ましい光景だ。
「私が怒ってるって誤解されたくないから、ちゃんと説明しなきゃ。それに、さっきから皆お姉様の悪口ばかりで、誰も心からお祝いしてあげてないから」
「いくらお姉様が怖いからって、確かにちょっと可哀想だね」
「でしょう?ルーシーなら分かってくれると思ってた!」
両親に説明したところでリリアンナを叱るだけだと、二人は理解している。確かに怖くて意地悪で隣にいると緊張で体ががちがちになるけれど、だからといって婚約を祝わないのは話が別なのではないか、と。
「じゃあ、行こうベル」
「ありがとう!」
主役席からぴょんと飛び降りた二人は、ベルシアに気付かれないようささっとその場から逃げ出す。先ほど見かけた場所にはいないようなので、会場外に出てうろうろと探し回ることにしたのだった。
真っ白な肌に映えるレモンイエローの衣装に身を包んだルシフォードとケイティベルは、どこへ行ってもよく目立ち声を掛けられる。これでは日が暮れてしまうと思った二人は、偶然見つけた洗濯メイドからシーツを二枚借りて、それを頭から被ることにした。
「あらあら、可愛らしい遊びだわ」
「お二人は本当に仲が良い」
「隠れているのかしら?あまり引き止めない方がよさそうね」
完璧に身を隠したつもりなのは当人だけで、通りがかる人達は温かい目でそれを見守っていた。
「これ、暑いね」
ルシフォードはふうふうと荒い息を吐きながら、シーツの下では顔を真っ赤にして玉のような汗をかいている。
「もう少し我慢して。お姉様を見つけたら、すぐにこれを脱ぎましょ」
ケイティベルも同じく、前髪が額に張り付いている。前が見えるように目元は外に出しているから、姉の姿があればすぐに気付くはずだと、一生懸命視線を彷徨わせていた。
被っているシーツのせいで足元が覚束ず、普段近寄らないような場所に足を踏み入れていることに気付かない。しばらく進むと微かに誰かの話し声が聞こえてきたので、二人はぴたりと足を止めた。
「落ち着くんだ、もう少し辛抱しろ。時が来たら必ず始末する」
「無理よ兄さん、私もう我慢出来ない!今すぐこの手で、あの白豚双子を殺してやる!」
声の雰囲気から察するに、苛立った男とヒステリックな女の会話。漂う不穏をいち早く察したのはルシフォードで、足を進めようとするケイティベルのシーツを後ろからぐっと引いた。その拍子に、真っ白なそれがぱさりと地面に落ちる。
「ちょっとルーシー!いきなり引っ張ったら危ないじゃない!」
「待ってベル、何か変だよ!引き返したほうがいい!」
不満を口にする彼女を咄嗟に宥めるルシフォードだったが、時は既に遅かった。いつの間にか辺りはしんと静まり返り、声の主は足音もないまま二人の間近に迫る。
「忌々しいデブめ……っ!死ねぇ……‼︎」
短剣の切先がぎらりと輝くのを目にした瞬間ルシフォードが咄嗟にケイティベルを庇う。あまりにも突然のことに叫び声すら出せない二人は、その異様な空気に飲まれながらぎゅうっと瞼を閉じた。
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