死に戻りぽっちゃり双子、悪役お姉様を味方につける。

清澄 セイ

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「第二章 この状況を、有効活用することにしました」

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 それからペンを取ったリリアンナは、ルシフォードとケイティベルの話を一字一句漏らすことなく羊皮紙に書き留めた。実は彼女の頭もまだ混乱してはいるのだが、それ以上に今は二人を安心させることが先決だと考えている。
 現にこの子達は、まだ聞いていなかった外国の王子との婚約話を知っていたのだ。しかも、ルシフォードとケイティベルが揃って同じ記憶を持っている。
 それがただの偶然かどうかは、調べてから決めても遅くはないはずだ。
「お姉様かっこいい!」
「とっても素敵よ!」
 と、そんな風にいちいち褒めてくれる超絶可愛い弟妹に「ぐへへ……」と淑女らしからぬ不気味な笑い声が漏れてしまうのは、リリアンナ自身もコントロール不可能だった。
「犯人の顔ははっきり見ていないというわけね」
「僕達、シーツを被ってたから……」
「でも、もしかしたら声を聞けば分かるかもしれないわ!」
 夢というにはあまりにも鮮明で、生々しく耳にこびりついている。若い男女が二人、特に女性の方は特徴的なきんきんと響く声だった。

――無理よ、もう我慢出来ない!私がこの手で、今すぐに殺してやる!

 冗談でもなんでもなく、明らかに自分達に向けられた殺意。それが、ルシフォードとケイティベルのどちらかなのか、あるいは両方なのかそれは分からない。
「貴方達が恨まれるなんて、何かの間違いとしか思えないけれど……。私ならまだしも」
「うん、そうだね」
「確かにそうね」
 三人は至極当たり前であるように、うんうんと深く頷いた。
「初めて聞いた声だったから、知り合いじゃないと思うけど……」
「生誕パーティーは招待制よ。強固な警備を掻い潜ったにしては、若い女性というのが気にかかる。何者かに雇われた暗殺者である線も完全には捨て切れないけれど、直接ではないにしろ間接的な知人から調べた方が建設的かもしれないわ」
 リリアンナの言葉に、二人は瞼の裏にあの時の光景を映した。殺意と憎しみの込もった雰囲気は、とても依頼された第三者とは思えない。
「可哀想に、そんなに怯えて。私が絶対に、貴方達を守るから」
「お姉様……」
 可愛い可愛い弟妹をそんな目に遭わせた人間がいるならば、絶対に許すものか。自身の不遇な環境を恨んだことなどないリリアンナは、生まれて初めて激しい怒りの感情に心を支配される。
 もう二度と悲しまなくて済むように、徹底的に調べ尽くさねばと。
「それはそうと、お姉様ってやっぱりレオニル殿下とあまり仲が良くないの?」
 ずばり、なんのためらいもなくケイティベルが問いかける。ルシフォードの方が、はらはらとした表情で姉二人を交互に見つめた。
「まぁ……、そうね。私達の間には、政略に基づいた信頼関係以上のものはないわ」
「じゃあ、エドモンド殿下と婚約し直したのは一目惚れとか?」
「いいえ、それはあり得ないわ」
 今度はリリアンナが、はっきりとそう口にする。まだ一度も顔を合わせたことのない相手だが、そんな理由で愛する妹の未来の婚約者を横取りはしないと、神に誓えるほど自信があった。
「ケイティベルは、外国に輿入れするのを嫌がったのよね?」
「ええ、すごく駄々をこねたわ。泣いても喚いても、お母様は撤回してくれなかったけれど」
 唇を尖らせた妹の頭を、リリアンナが優しく撫でる。
「私はきっと、貴女の代わりになろうとしたのね。王族との婚約をこちらから断ることは不可能だけれど、姉妹の入れ替えなら出来るかもしれないと」
「私の為に、悪役になってくれたの……?」
「といっても、決して妙手ではないわ。ケイティベルに何も言わずにそんなことをしたのは、ただの自己満足ですもの」
 派手な見た目とは裏腹に自己肯定感の低いリリアンナは、覚えのない自身の行動に酷く落ち込み肩を落とす。そんな彼女を、ケイティベルはぎゅうっと抱き締めた。
「ああ……、マシュマロ……」
 そう呟くリリアンナは、恍惚とした表情で天を仰いだ。
「お姉様は本当に優しいわ。やり方なんて関係ない、頭ごなしに否定しないでちゃんと聞いてくれたんだから」
「ケイティベル……」
「だから、そんなに落ち込まないで!」
 天使に励まされたリリアンナは、たちまち力をみなぎらせた。ルシフォードは、女同士のやり取りをぽかんと見つめているだけ。自分にはまだ婚約話がないので、あまりピンと来ていない。
「犯人探しと並行して、そちらも探ってみましょう。なぜ両殿下が私の話に乗ったのか、そこには必ず利害が発生しているはずだから」
 色仕掛けも泣き落としも、リリアンナには出来ない芸当。であればなんらかの交渉をしたことは明らかで、上手くいけばそこに「不穏分子の排除協力」も追加してもらえるかもしれないと、彼女は考えた。
「話してくれて、本当にありがとう」
 弟妹に向かってふわりと微笑んだ彼女は可愛らしく、とても悪役には見えない。ルシフォードとケイティベルは互いに見つめ合いながら、この選択は間違いなく正しかったと深く頷いたのだった。
 
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