30 / 99
第三章「異性を魅了する花の話」
6
私が慣れたと判断したのか、ステップだけでなくターンやポーズと、クイネは徐々に難易度を上げていった。
「奥様、少しよろしいですか」
ほどなくしたところで、彼女がぴたりと動きを止める。何やら神妙なその様子に、どこか間違いでもあっただろうかと、はらはらしながら彼女の顔を見つめた。
「完璧です」
「へ?」
「ですから、すべてが完璧ですと申し上げました。私が指導する必要はないでしょうと、旦那様にお伝えしておきます」
柔らかな表情のクイネを見て、思わずぽぽっと頬が熱くなった。そんな風にまっすぐ褒められたら、さすがの私ももじもじしてしまう。
「マリッサ、私完璧ですって!先生に大絶賛されてしまったわ!」
「それは少し盛りすぎでは?」
「あら、そうだった?」
彼女はいつも通りの表情だったけれど、どことなく嬉しそうなのが可愛い。他の人から見たらわからないかもしれないけれど、長い付き合いの私には一目瞭然。本当のマリッサは、とても優しい人なのだ。
「とはいえ、フィリア様はやろうと思えば大抵のことはそつなくこなせる方なのです。そう思わないだけで」
「ちょっとやだ、マリッサまで褒めないでよぉ」
「別に褒めてはいませんが」
私達のやり取りを見て、クイネがぽかんとした顔で瞬きを繰り返している。
「お二人は随分と仲がよろしいのですね」
「ええ、マリッサは昔からずっと一緒ですから!」
「違いますよ、フィリア様。クイネさんは、侍女と主人の関係性があまりにもくだけていると、そうおっしゃっているのです」
言い直されても、結局よく分からない。
「つまり、私達が仲良し過ぎるってことか」
「もうそれでいいです」
「身分だけでいえばマリッサも私と同じ子爵家の出身だし、仮にそうでなかったとしても大切な家族だもの」
にこにこしながら彼女の手を握ると、意外にも握り返してくれた。
「いたたた、痛い!マリッサ痛い!」
「申し訳ございません、少々愛が強過ぎました」
涙目になりながら抗議したけれど、そう言われるとこの痛みも受け入れようと思える。愛が込められているのなら、それは仕方ない。
「クイネ先生、続きをお願いします!」
「いえ、ですから奥様は完璧で」
「久しぶりに踊ると凄く楽しくて!出来れば、もう少しお付き合いしてもらえると嬉しいです」
私の言葉にクイネは一瞬目を丸くして、それからふわりと微笑んだ。
「若旦那様は、とても素晴らしい方と結婚をなさいましたね」
「えっ、それって私のことですか⁉︎」
「ええ、もちろん。きっとお二人は、この先も良きパートナーとしてヴァンドーム家を盛り立てていくことでしょう」
その瞬間、胸の奥がぐぐっと詰まるように痛んだ。いくら政略結婚といえど、なんだか周りの人達を騙しているような感覚に陥る。本来なら私は、旦那様にもヴァンドーム辺境伯家にも相応しくない人間なのだから。
彼に事情がなければ、私に結婚を申し込むなんてことは絶対になかった。
「フィリア様」
事情を知っているマリッサが、先ほど私がしたようにぎゅっと手を握る。
「私も、そう思いますよ」
「……ありがとう」
私を慮ってくれる彼女に、心配いらないという意味を込めて笑いながらこくりと頷いた。
「奥様、少しよろしいですか」
ほどなくしたところで、彼女がぴたりと動きを止める。何やら神妙なその様子に、どこか間違いでもあっただろうかと、はらはらしながら彼女の顔を見つめた。
「完璧です」
「へ?」
「ですから、すべてが完璧ですと申し上げました。私が指導する必要はないでしょうと、旦那様にお伝えしておきます」
柔らかな表情のクイネを見て、思わずぽぽっと頬が熱くなった。そんな風にまっすぐ褒められたら、さすがの私ももじもじしてしまう。
「マリッサ、私完璧ですって!先生に大絶賛されてしまったわ!」
「それは少し盛りすぎでは?」
「あら、そうだった?」
彼女はいつも通りの表情だったけれど、どことなく嬉しそうなのが可愛い。他の人から見たらわからないかもしれないけれど、長い付き合いの私には一目瞭然。本当のマリッサは、とても優しい人なのだ。
「とはいえ、フィリア様はやろうと思えば大抵のことはそつなくこなせる方なのです。そう思わないだけで」
「ちょっとやだ、マリッサまで褒めないでよぉ」
「別に褒めてはいませんが」
私達のやり取りを見て、クイネがぽかんとした顔で瞬きを繰り返している。
「お二人は随分と仲がよろしいのですね」
「ええ、マリッサは昔からずっと一緒ですから!」
「違いますよ、フィリア様。クイネさんは、侍女と主人の関係性があまりにもくだけていると、そうおっしゃっているのです」
言い直されても、結局よく分からない。
「つまり、私達が仲良し過ぎるってことか」
「もうそれでいいです」
「身分だけでいえばマリッサも私と同じ子爵家の出身だし、仮にそうでなかったとしても大切な家族だもの」
にこにこしながら彼女の手を握ると、意外にも握り返してくれた。
「いたたた、痛い!マリッサ痛い!」
「申し訳ございません、少々愛が強過ぎました」
涙目になりながら抗議したけれど、そう言われるとこの痛みも受け入れようと思える。愛が込められているのなら、それは仕方ない。
「クイネ先生、続きをお願いします!」
「いえ、ですから奥様は完璧で」
「久しぶりに踊ると凄く楽しくて!出来れば、もう少しお付き合いしてもらえると嬉しいです」
私の言葉にクイネは一瞬目を丸くして、それからふわりと微笑んだ。
「若旦那様は、とても素晴らしい方と結婚をなさいましたね」
「えっ、それって私のことですか⁉︎」
「ええ、もちろん。きっとお二人は、この先も良きパートナーとしてヴァンドーム家を盛り立てていくことでしょう」
その瞬間、胸の奥がぐぐっと詰まるように痛んだ。いくら政略結婚といえど、なんだか周りの人達を騙しているような感覚に陥る。本来なら私は、旦那様にもヴァンドーム辺境伯家にも相応しくない人間なのだから。
彼に事情がなければ、私に結婚を申し込むなんてことは絶対になかった。
「フィリア様」
事情を知っているマリッサが、先ほど私がしたようにぎゅっと手を握る。
「私も、そう思いますよ」
「……ありがとう」
私を慮ってくれる彼女に、心配いらないという意味を込めて笑いながらこくりと頷いた。
あなたにおすすめの小説
俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。
ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。
俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。
そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。
こんな女とは婚約解消だ。
この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
家族から邪魔者扱いされた私が契約婚した宰相閣下、実は完璧すぎるスパダリでした。仕事も家事も甘やかしも全部こなしてきます
さら
恋愛
家族から「邪魔者」扱いされ、行き場を失った伯爵令嬢レイナ。
望まぬ結婚から逃げ出したはずの彼女が出会ったのは――冷徹無比と恐れられる宰相閣下アルベルト。
「契約でいい。君を妻として迎える」
そう告げられ始まった仮初めの結婚生活。
けれど、彼は噂とはまるで違っていた。
政務を完璧にこなし、家事も器用に手伝い、そして――妻をとことん甘やかす完璧なスパダリだったのだ。
「君はもう“邪魔者”ではない。私の誇りだ」
契約から始まった関係は、やがて真実の絆へ。
陰謀や噂に立ち向かいながら、互いを支え合う二人は、次第に心から惹かれ合っていく。
これは、冷徹宰相×追放令嬢の“契約婚”からはじまる、甘々すぎる愛の物語。
指輪に誓う未来は――永遠の「夫婦」。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
【完結】『運命』を『気のせい』と答えたら、婚姻となりまして
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
ヴォレッカ・サミレットは、領地の危機をどうにかするために、三年ぶりに社交界へと婚姻相手を探しにやってきた。
第一にお金、次に人柄、後妻ではなく、できれば清潔感のある人と出会いたい。 そう思っていたのだが──。
「これは、運命だろうか……」 誰もが振り返るほどの美丈夫に、囁かれるという事態に。
「気のせいですね」 自身が平凡だと自覚があり、からかって遊ばれていると思って、そう答えたヴォレッカ。
だが、これがすべての始まりであった。 超絶平凡令嬢と、女性が苦手な美丈夫の織りなす、どこかかみ合わない婚姻ラブストーリー。
全43話+番外編です。
【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ!
完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。
崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド
元婚家の自業自得ざまぁ有りです。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位
2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位
2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位
2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位
2022/09/28……連載開始
突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。
橘ハルシ
恋愛
ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!
リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。
怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。
しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。
全21話(本編20話+番外編1話)です。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。