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そわそわ、してしまう
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私の為に用意された部屋は、とても素敵だった。魔物に攫われた人間がこんな部屋に案内されるなんて、本当におかし過ぎる。
(これは…きっとあれね。油断させておいて、その後殺すんだわ)
どちらにしても、彼らに私が必要な理由なんてそのくらいだ。それとももっと、私が想像もできないような残忍なことを考えているのだろうか。
(このまま舌を噛んで自害したら、この国に聖女がいなくなってしまう)
それは最終手段、人質や交渉材料にでも使われそうになった時に考えればいい。とにかく今は、冷静にならなければ。
「他の人達に怪我がなくてよかったわ…」
私以外誰もいない部屋の椅子に浅く腰掛け、先程の出来事を思い出す。魔王は、私以外の人達には手を出していなかったはず。攫われたのが私だったことは、考えようによっては良かったのかもしれない。
(大神官様にまた迷惑をおかけしてしまう)
きっと今頃、大神官様は心を痛めておられることだろう。とても慈悲深い方だから。
鉄格子も何も嵌められていない窓に近づき、そっと下を覗く。二階か三階だろうか、落ちても即死ではなさそうな高さだ。
ふぅと溜息を吐き、私は再び椅子にちょこりと腰掛ける。魔王にどんな酷いことをされようとも絶対に屈したりしないと、決意を新たにぐぐっと拳を握り締めた。
その時ごんごんとドアを叩く音が聞こえ、間髪入れずに開かれた。
「腹減っただろ?飯用意したから下に…」
黒髪を揺らしながら、魔王がこちらを見つめる。一体何なのかと身構えていると、彼は意味の分からないことを真顔で口にした。
「イザベラ、椅子の座り方わかんねぇのか?」
「…は?」
「いや、そんなはずねぇよな。前は普通に座ってたし」
(この人、何を言ってるの…)
つかつかと私の側にやってきた魔王は、ぐいっと私の腕を引く。突然のことで前につんのめりそうになった私の体を、彼はしっかりと抱きとめた。
「…っ」
戸惑う私を他所に魔王は私の両肩を掴むと、再び椅子に座らせる。
「椅子はこうやって座んだよ」
「…はい?」
「何でさっきは、あんな浅く座ってたわけ?」
どうして、そんなにどうでもいいことが気になるのだろう。けれど彼の表情は真剣で、私は言葉に詰まる。
「なぁ、何で?」
「それは…」
恥ずかしさから、顔が熱くなる。私は俯きながら、ぽそりと呟いた。
「こんなに素敵な椅子に座るの、慣れていなくて…」
(ああ、きっと馬鹿にされるわ)
そう身構えていた私に返ってきたのは、予想外の言葉。
「イザベラお前、可愛いな」
「っ」
思わずパッと顔を上げると、優しげな金の瞳と視線が絡む。
どうしようもなくむず痒い気持ちになって、私はまたすぐに俯いたのだった。
(これは…きっとあれね。油断させておいて、その後殺すんだわ)
どちらにしても、彼らに私が必要な理由なんてそのくらいだ。それとももっと、私が想像もできないような残忍なことを考えているのだろうか。
(このまま舌を噛んで自害したら、この国に聖女がいなくなってしまう)
それは最終手段、人質や交渉材料にでも使われそうになった時に考えればいい。とにかく今は、冷静にならなければ。
「他の人達に怪我がなくてよかったわ…」
私以外誰もいない部屋の椅子に浅く腰掛け、先程の出来事を思い出す。魔王は、私以外の人達には手を出していなかったはず。攫われたのが私だったことは、考えようによっては良かったのかもしれない。
(大神官様にまた迷惑をおかけしてしまう)
きっと今頃、大神官様は心を痛めておられることだろう。とても慈悲深い方だから。
鉄格子も何も嵌められていない窓に近づき、そっと下を覗く。二階か三階だろうか、落ちても即死ではなさそうな高さだ。
ふぅと溜息を吐き、私は再び椅子にちょこりと腰掛ける。魔王にどんな酷いことをされようとも絶対に屈したりしないと、決意を新たにぐぐっと拳を握り締めた。
その時ごんごんとドアを叩く音が聞こえ、間髪入れずに開かれた。
「腹減っただろ?飯用意したから下に…」
黒髪を揺らしながら、魔王がこちらを見つめる。一体何なのかと身構えていると、彼は意味の分からないことを真顔で口にした。
「イザベラ、椅子の座り方わかんねぇのか?」
「…は?」
「いや、そんなはずねぇよな。前は普通に座ってたし」
(この人、何を言ってるの…)
つかつかと私の側にやってきた魔王は、ぐいっと私の腕を引く。突然のことで前につんのめりそうになった私の体を、彼はしっかりと抱きとめた。
「…っ」
戸惑う私を他所に魔王は私の両肩を掴むと、再び椅子に座らせる。
「椅子はこうやって座んだよ」
「…はい?」
「何でさっきは、あんな浅く座ってたわけ?」
どうして、そんなにどうでもいいことが気になるのだろう。けれど彼の表情は真剣で、私は言葉に詰まる。
「なぁ、何で?」
「それは…」
恥ずかしさから、顔が熱くなる。私は俯きながら、ぽそりと呟いた。
「こんなに素敵な椅子に座るの、慣れていなくて…」
(ああ、きっと馬鹿にされるわ)
そう身構えていた私に返ってきたのは、予想外の言葉。
「イザベラお前、可愛いな」
「っ」
思わずパッと顔を上げると、優しげな金の瞳と視線が絡む。
どうしようもなくむず痒い気持ちになって、私はまたすぐに俯いたのだった。
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