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真にこの場を統べる者
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さらりと、黒髪が揺れる。金の瞳がじっとこちらを捉えて離さず、私は金縛りにあったかのように動けなくなった。
「イザベラ、大丈夫だ。俺達はお前を傷付けない」
「嘘よ、そんなはずないわ」
「嘘じゃない」
(そんなこと信じない)
少し優しくされただけで、絆されるなどあってはならない。私は一刻も早くここから抜け出し、民の元へ帰らねばならないのだから。
そうしなければ、そうしなければ…
(要らないと、言われてしまう)
民から見放された聖女は、この世から消え去る。大神官様から見せていただいた古い文献には、確かにそう書かれていたのだ。
それにきっと、皆困っているはずだ。私に笑顔を向けてくれた、あの小さな女の子。彼女の輝かしい未来を奪うようなことになっては、私は耐えられない。
「こんな意味の分からないことばかりするのなら、今すぐ私を解放してください」
「それは無理な相談だな」
「何故ですか」
やっぱり、油断した所で殺すか懐柔するか。何かしらの思惑があるのだと、私は確信する。
「貴方の目的は分かりませんが、私は絶対に…」
「目的?だから何度も言ってんだろ?俺がお前に、幸せを教えてやるって」
「…だから、そんな戯言はもう要りません!」
はぁはぁと肩で呼吸を繰り返しながら、私はそう言いきった。金の瞳がぎらりと輝きこちらを睨めつけた瞬間、ぞくりと身体が粟立つ。
(…怖い)
やはりこの男は“深淵の魔王″と呼ばれるだけの存在なのだ。
「おいイザベラ。お前さっきからいい加減にしろよ?あれは嫌だこれは嫌だとガキみてぇなことばっか言いやがって」
「は、はぁ…?」
「俺がしてやりたいっつったらそうなんだよ!黙って大人しく世話されとけや!」
(な、なぜ私が怒られなくちゃならないの!?)
ただでさえ攫われた身分であるのに、その上こんな風に詰られるなんて。
魔王という存在は確かに怖いけれど、それ以上に割私の頭にはかあっと血が上っていく。
「私を家に帰して!」
「嫌だ!」
「帰してったら!」
「い、や、だ、ね!」
お互いに顔を突き合わせ、同じことを繰り返す。もしも私達が猫ならば、きっと今全身の毛が逆立っていることだろう。
ゴツン!
その時、鋭い音とともに真横からおどろおどろしい空気が流れ込んできて、私達はぴたりと言い争いをやめた。
「いい加減にしてください、お二人とも。幼稚で不毛な争いは聞くに耐えない」
イアンが、それはそれは綺麗な笑みを浮かべている。そして彼の側にあるテーブルには、フォークが突き刺さっていた。
「一体誰がこの料理を作ったと思っているんです?貴方方が非常に頭の悪いやり取りをしているその一分一秒の間に、この尊い料理達の質は落ちていく。それがどれだけ非道の所業か、分かってやっているならば私もそれ相応の対応をしますけど」
早口で言葉を紡ぎながら彼は新たなフォークを手に取り、もう片方の掌にぺしん、ぺしん、と音を鳴らしながら打ち付けている。
「さぁ、どうされます?」
「「…」」
(やっぱり、魔王よりもこの人の方がずっと怖いわ)
決して柔らかくはない素材のテーブルにまっすぐに突き刺さったフォークを眺めていると、なぜか身体中がちくちくと痛くなるよう気がした。
「イザベラ、大丈夫だ。俺達はお前を傷付けない」
「嘘よ、そんなはずないわ」
「嘘じゃない」
(そんなこと信じない)
少し優しくされただけで、絆されるなどあってはならない。私は一刻も早くここから抜け出し、民の元へ帰らねばならないのだから。
そうしなければ、そうしなければ…
(要らないと、言われてしまう)
民から見放された聖女は、この世から消え去る。大神官様から見せていただいた古い文献には、確かにそう書かれていたのだ。
それにきっと、皆困っているはずだ。私に笑顔を向けてくれた、あの小さな女の子。彼女の輝かしい未来を奪うようなことになっては、私は耐えられない。
「こんな意味の分からないことばかりするのなら、今すぐ私を解放してください」
「それは無理な相談だな」
「何故ですか」
やっぱり、油断した所で殺すか懐柔するか。何かしらの思惑があるのだと、私は確信する。
「貴方の目的は分かりませんが、私は絶対に…」
「目的?だから何度も言ってんだろ?俺がお前に、幸せを教えてやるって」
「…だから、そんな戯言はもう要りません!」
はぁはぁと肩で呼吸を繰り返しながら、私はそう言いきった。金の瞳がぎらりと輝きこちらを睨めつけた瞬間、ぞくりと身体が粟立つ。
(…怖い)
やはりこの男は“深淵の魔王″と呼ばれるだけの存在なのだ。
「おいイザベラ。お前さっきからいい加減にしろよ?あれは嫌だこれは嫌だとガキみてぇなことばっか言いやがって」
「は、はぁ…?」
「俺がしてやりたいっつったらそうなんだよ!黙って大人しく世話されとけや!」
(な、なぜ私が怒られなくちゃならないの!?)
ただでさえ攫われた身分であるのに、その上こんな風に詰られるなんて。
魔王という存在は確かに怖いけれど、それ以上に割私の頭にはかあっと血が上っていく。
「私を家に帰して!」
「嫌だ!」
「帰してったら!」
「い、や、だ、ね!」
お互いに顔を突き合わせ、同じことを繰り返す。もしも私達が猫ならば、きっと今全身の毛が逆立っていることだろう。
ゴツン!
その時、鋭い音とともに真横からおどろおどろしい空気が流れ込んできて、私達はぴたりと言い争いをやめた。
「いい加減にしてください、お二人とも。幼稚で不毛な争いは聞くに耐えない」
イアンが、それはそれは綺麗な笑みを浮かべている。そして彼の側にあるテーブルには、フォークが突き刺さっていた。
「一体誰がこの料理を作ったと思っているんです?貴方方が非常に頭の悪いやり取りをしているその一分一秒の間に、この尊い料理達の質は落ちていく。それがどれだけ非道の所業か、分かってやっているならば私もそれ相応の対応をしますけど」
早口で言葉を紡ぎながら彼は新たなフォークを手に取り、もう片方の掌にぺしん、ぺしん、と音を鳴らしながら打ち付けている。
「さぁ、どうされます?」
「「…」」
(やっぱり、魔王よりもこの人の方がずっと怖いわ)
決して柔らかくはない素材のテーブルにまっすぐに突き刺さったフォークを眺めていると、なぜか身体中がちくちくと痛くなるよう気がした。
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