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ミイラ取りがなんとやらで
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(この人の感情が動くポイントが分からないわ)
本当に、私が伝え聞いていた人物像とこんなにも違うのはどうしてなのだろう。こうして話していると、目の前のこの人は本当にあの“深淵の魔王″なのかと問いたくなるほどだ。
そんな私の疑問など知ったことかとでも言いたげに、彼はぐぐっと顔を近づけてくる。
(それから、距離感もおかしいのよ…!)
思わず熱くなる顔を見られたくなくて逸らしたのに、あろうことか魔王はがしっと頬を掴んで無理矢理自分の方に向かせようとする。
「ち、ちょ…っ!」
「イザベラ!今すぐ俺の名を呼べ!」
「は、はぁ?」
今すぐに離してほしいのに、力が強くて動かせない。それどころか物凄く真剣な瞳で、私のことを食い入るように見つめている。
「何でイアンだけ名前で呼んでんだ!しかも呼び捨てで!」
「え、え?」
「ズルすぎるだろうが!」
(意味が分からない!)
言われていることも、されていることも、私の頭で理解できる範疇を超えている。真っ赤になって首を振っても離してもらえず、羞恥心から涙が溢れそうになった。
「貴方達は一体何をやっているのですか。全く付き合いきれませんね」
「私もですか!?」
「当たり前でしょう」
イアンの冷ややかな赤い瞳がこちらに突き刺さる。私は助けてほしいのに、彼にはその気がないらしい。ふいっとそっぽを向いて、どこかへ行ってしまった。
(嘘でしょう…誰か助けて!)
「おいイザベラ!早く!名前呼べって!」
「な、なんでそんな!」
「アズって目ぇ見て言って!」
そんなもの、無理に決まっている。別に名前を呼ぶことは簡単だけれど、こんな風に頬を掴まれて顔を詰められては、呼べるものも呼べないのは当たり前だ。
というよりも、なぜそんなに名前を呼ばれることに拘るのかやはり全く理解ができなかった。
「よっ、呼びます!呼びますから今すぐ離して離れてください!」
「呼んだら離す」
「そんな…」
少しでも顔を動かせば涙がぽろりと溢れてしまいそうだ。きっともう、私は顔だけでなく全身紅く染まっている気がする。
「イザベラ」
「ぁ…ぅ…」
「なぁイザベラ」
金色の瞳が、今度は懇願するようにうるうると輝きはじめる。あの子の羽と同じ色のそれでそんな顔をされたら、どうしようもできない。
「あ…」
「あ?」
「アズ…様…」
今にも消え去りそうな声で口にすれば、彼は私の望み通りにぱっと手を離した。
「…」
「あ…あの…」
「…」
恥ずかしくて堪らないのはこちらの方なのに。自分が無理矢理、頬を掴んであんな至近距離で名前を呼ばせたくせに。
「なっ、なのにそんな…真っ赤だなんて、ぜっ、絶対におかしいです…っ!」
「う、うっせぇ馬鹿やろう!」
「意味分からない!」
馬鹿はそっちだ!と言いたいのに、熟れたトマトのように真っ赤な顔を見ていると私まで更に顔が熱くなる。
結果二人で俯きながらもじもじと無言で向かい合うという、なんとも奇妙な空間が出来上がってしまった。
「…馬鹿過ぎる」
離れた場所でこちらを見ている赤髪の彼のそんな呟きは、私達の耳に届くことはなかった。
本当に、私が伝え聞いていた人物像とこんなにも違うのはどうしてなのだろう。こうして話していると、目の前のこの人は本当にあの“深淵の魔王″なのかと問いたくなるほどだ。
そんな私の疑問など知ったことかとでも言いたげに、彼はぐぐっと顔を近づけてくる。
(それから、距離感もおかしいのよ…!)
思わず熱くなる顔を見られたくなくて逸らしたのに、あろうことか魔王はがしっと頬を掴んで無理矢理自分の方に向かせようとする。
「ち、ちょ…っ!」
「イザベラ!今すぐ俺の名を呼べ!」
「は、はぁ?」
今すぐに離してほしいのに、力が強くて動かせない。それどころか物凄く真剣な瞳で、私のことを食い入るように見つめている。
「何でイアンだけ名前で呼んでんだ!しかも呼び捨てで!」
「え、え?」
「ズルすぎるだろうが!」
(意味が分からない!)
言われていることも、されていることも、私の頭で理解できる範疇を超えている。真っ赤になって首を振っても離してもらえず、羞恥心から涙が溢れそうになった。
「貴方達は一体何をやっているのですか。全く付き合いきれませんね」
「私もですか!?」
「当たり前でしょう」
イアンの冷ややかな赤い瞳がこちらに突き刺さる。私は助けてほしいのに、彼にはその気がないらしい。ふいっとそっぽを向いて、どこかへ行ってしまった。
(嘘でしょう…誰か助けて!)
「おいイザベラ!早く!名前呼べって!」
「な、なんでそんな!」
「アズって目ぇ見て言って!」
そんなもの、無理に決まっている。別に名前を呼ぶことは簡単だけれど、こんな風に頬を掴まれて顔を詰められては、呼べるものも呼べないのは当たり前だ。
というよりも、なぜそんなに名前を呼ばれることに拘るのかやはり全く理解ができなかった。
「よっ、呼びます!呼びますから今すぐ離して離れてください!」
「呼んだら離す」
「そんな…」
少しでも顔を動かせば涙がぽろりと溢れてしまいそうだ。きっともう、私は顔だけでなく全身紅く染まっている気がする。
「イザベラ」
「ぁ…ぅ…」
「なぁイザベラ」
金色の瞳が、今度は懇願するようにうるうると輝きはじめる。あの子の羽と同じ色のそれでそんな顔をされたら、どうしようもできない。
「あ…」
「あ?」
「アズ…様…」
今にも消え去りそうな声で口にすれば、彼は私の望み通りにぱっと手を離した。
「…」
「あ…あの…」
「…」
恥ずかしくて堪らないのはこちらの方なのに。自分が無理矢理、頬を掴んであんな至近距離で名前を呼ばせたくせに。
「なっ、なのにそんな…真っ赤だなんて、ぜっ、絶対におかしいです…っ!」
「う、うっせぇ馬鹿やろう!」
「意味分からない!」
馬鹿はそっちだ!と言いたいのに、熟れたトマトのように真っ赤な顔を見ていると私まで更に顔が熱くなる。
結果二人で俯きながらもじもじと無言で向かい合うという、なんとも奇妙な空間が出来上がってしまった。
「…馬鹿過ぎる」
離れた場所でこちらを見ている赤髪の彼のそんな呟きは、私達の耳に届くことはなかった。
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