一心君は、人狼です!

清澄 セイ

文字の大きさ
4 / 33
第一章「この世界は、ヒトとジンロウが暮らしている」

しおりを挟む
 ♢♢♢

「キャンキャンッ!」
「ココアただいま~。ちゃんと良い子にしてた?」
「キャイン!」

 学校からまっすぐ家に帰宅したわたしは、足元に寄ってきた愛犬のココアを抱き上げる。

 ふわふわのしっぽを嬉しそうに振りながら、一生懸命抱っこされようと前足を動かす仕草が、可愛くてたまらない。

 ココアは小さめで、よく《ティーカッププードル》と言われるサイズのトイプードルだ。ウチにやってきたのは生後三か月の頃で、お母さんの知り合いのブリーダーさんから紹介してもらった。

 それから約半年が経ち、ココアは九か月になった。犬の成長はとても早くて、人間でいうともう十一歳らしい。

 それでもまだ子犬のココアは、人懐っこくて甘えん坊。わたしのことが大好きだと、全身から伝わってくる。

 名前の通りの濃い茶色の毛と、くりくりでうるうるの瞳がとっても可愛い、わたしの大切な家族だ。

「今日は雨降ってないから、一緒にお散歩行けるよ」
「キャンキャン!」
「そっかぁ、そんなに嬉しいのか。君はホントに可愛いなぁ~」

 ココアが特に喜ぶのは、アゴの下を触ってやること。わたしはそこを指でウリウリと触りながら、抱いていたココアを床に下ろした。

「着替えてくるから待っててね」
「キャン!」

 ココアは、まるでわたしの言葉を理解しているかのように元気よく返事をする。そんな姿に笑いながら、わたしは部屋に通じる階段を勢いよく駆け上がった。



 ココアとの散歩を終えたわたしは、お母さんの用意してくれた夕ご飯を食べる。素早く片付けを済ませると、“いつもの定位置”にちょこんと座った。

 ウチの家は一階がお店で、二階と三階が家族の住む居住スペースになっている。厨房の端に二階へ続く階段があるんだけど、営業中は扉がピッタリ閉まっている。

 そこを少しだけ開けて厨房を覗くのが、わたしの日課だった。

【キッチン サニープレイス】

 日本語に訳すとヒナタ、つまりわたしの名前になる。小さな洋食屋だけど予約だけで席が埋まることもあるくらい、ウチのお店は地元で人気だ。

「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
「二名です。予約をしていないのですが」
「構いませんよ、こちらへどうぞ」

 パキッとした白のシャツと、黒のカフェエプロン。長い黒髪をポニーテールにまとめているウェイトレスが、慣れた動作でお客さんを席に案内している。

 背筋がピンと伸びていて堂々としていて、笑顔がステキでカッコいい、わたしの自慢のお母さんなのだ。

「おーい、三番テーブルのパスタあがったよ」
「はーい!」
「すみませーん、追加でオーダー入りました!」

 今日は金曜日の夜だから、特にお客さんが多い。

 お父さんがシェフでお母さんがウェイトレス、それからパートさんやバイトさんが十人くらい居て、交代で働いてくれている。

 わたしはこの空間が大好きだった。二人の働く姿も、きらきら輝くお店の中も、世界一美味しい料理も。

 それから、ここに集まるお客さん達の幸せそうな顔も。

「こーら。また覗いてる」
「わっ!」

 急にドアを開けられて、わたしは驚いて思わず後ろに下がる。お母さんがこっちを見下ろしながら、呆れたように笑っていた。

「日向はそこで店を見てるのが本当に好きだね」
「うん!だってみんな、本当にかっこいいんだもん。早くわたしも、お店に立ちたいなぁ」
「そのうち手伝ってもらうから、今は学校や友達を優先しないとね」
「分かってるもん」

 中学一年生になったばかりのわたしは、まだ一度もお店に立たせてもらったことがない。

 それが少し不満なんだけど、お母さんの言っていることも分かるから、強く反論したりはしない。

 今は勉強を頑張って、家から近い高校にちゃんと受かって、そうすればここでバイトとして雇ってもらえるかもしれないから。

 それまでは見ているだけでガマンしなさいと、毎日自分に言い聞かせている。

 その代わり、家のキッチンはわたしの場所。

 本や動画を見ながら料理を作るのが大好きで、たまには失敗することもあるけど、どうして上手く出来なかったのかを考えるのも、実は楽しかったりする。

「あっ、倉橋さん!パフェにミントを乗せるの忘れてます!」

 ドルチェ担当の倉橋さんに向かって、わたしは声を張り上げる。彼はハッとしたようにわたしとパフェを交互に見て、ペロッと舌を出した。

 倉橋(クラハシ)優牙(ユウガ)さんはチラッと見える八重歯が可愛い、お店のムードメーカーみたいな明るくて楽しい人だ。

「さすが日向ちゃん。俺よりずっとコックに向いてるよ」
「えへへ」
「倉橋。ミスをごまかすな」

 横から倉橋さんを叱るのは、スーシェフの神山(カミヤマ)心吾(シンゴ)さん。お父さんの次にキッチンを取り仕切る人で、ずっと昔からうちで働いてくれている。

 ちなみにレストランでは、シェフがリーダーで、スーシェフが副リーダーみたいな感じらしい。って言っても、ウチは小さなお店だしそういうのに厳しくないから、あんまり関係ないみたいだけど。

 神山さんは、海外を転々としながら料理の修行をしてたんだって。

 真面目で少し厳しいけど、普段はおだやかで優しい人だ。

 料理やお客さんと真剣に向き合うみんなの姿を眺めながら、わたしもいつか絶対こんな風になるぞって思うと、胸が熱くなった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...