一心君は、人狼です!

清澄 セイ

文字の大きさ
12 / 33
第四章「キケンな男の子と、二人の思い出」

しおりを挟む
「いや、俺は覚えながないなぁ」
「その場にはいない人を思い出しながら描いたんじゃないの?例えばお父さんとか」

 お父さんとお母さんに絵を見せても、手がかりになりそうな情報はもらえなかった。一心君は「もういい」って言ったけど、わたしはあれから毎日古ぼけた日記帳と睨めっこしてる。

 お母さんが言ってた言葉も、あながち間違いじゃないかもしれない。なにも覚えてないってことは、想像で描いた人って可能性もある。

「ダメだ、いいアイディアが浮かばない。ココアと散歩でも行こうかな」

 リビングのソファでわたしが呟くと、すぐさまココアが足元に飛び寄ってくる。

「キャンキャン!」
「アハハ、聞いてたの?ココアは賢いなぁ」
「クゥン!」
「よし、お散歩行こうか」

 ココアのアゴの下を指で撫でながら、わたしは立ち上がってリードを手に持った。

 日曜の午後、河川敷にはわたし以外にもいろんな人がいる。同じように犬の散歩してる人、虫取り網を持って楽しそうに走り回ってる男の子、優しい表情でベビーカーを推してるお母さん。みんながそれぞれ、幸せそうに過ごしてる。

「…この中に、人狼はいないのかな」

 誰にも聞こえない声で、ポツリと呟く。心さんを思う一心君の気持ちを考えると、一刻も早くなんとか力になりたいって思うのに。

 わたし一人じゃ、なんにもできない。

「あの、すみません」

 リードの先で楽しそうに走ってるココアをボーッと見つめていると、ふいに後ろから声をかけられた。

 振り向くと、わたしより少し背が高くてスラッとした金髪の男の子が、色素の薄い瞳でこっちを見つめてる。目が合うと、ニコッと微笑んだ。

「急に声かけてごめん。俺と同い年くらいかなって思って」

 聞き取りやすい、ハキハキした喋り方だ。

「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「あ、はい」
「この辺りに洋食屋ってあるかな」
「洋食屋、ですか?」

 それならウチと、他にももう何軒かある。

「名前は分かりますか?」
「それが聞くの忘れちゃって」

 アハハ、と笑いながら頭の後ろに手をやる。

「うーん、どこのことだろう…」
「恥ずかしい話なんだけど、俺凄い腹減っててさ。できれば今すぐ何か食べたいんだ」
「でもこの時間って、どこもランチタイム終わっていったん閉まってると思います」
「そっか、そうだよね。どうしよう、困ったな」

 怪しいまではいかないけど、ちょっと不思議な人だなとは思う。だけどお腹が空いてるなら、それを無視するのも可哀想だし…

「もし良かったらうちに来ますか?この近くで洋食屋をやってるので、開店時間にはまだ少し早いけど、言えばお店開けてくれるはずですから」
「えっ、いいの!」

 途端にその人の瞳がキラキラ輝く。最初は大人びた印象だったけど、どうやらそんなこともないみたいだ。

「ありがとう、マジで助かる!腹減って死にそうだったんだ!」
「い、いえ。探してるお店じゃなかったらごめんなさい」
「全然!あ、俺のことはロンって呼んで?君はなにちゃん?」
「ロンさん、ですか?わたしは三ツ星日向です」
「さんはいらないし、敬語もなしでいいから!俺も日向ちゃんって呼ばせて」

 ロン君(でいいのかな)は明るい口調でそう言うと、しゃがんでココアと目線を合わせる。

「散歩のジャマして悪いね、フワフワちゃん」
「グゥゥゥ…ッ」
「あーらら、嫌われたみたい」
「ごめんね、ロン君」
「いやいや、それは俺のセリフだし」

 ココアがこんな風に警戒するなんて、ちょっと珍しい。普段は誰にでも懐くタイプなのに。

「じゃあ、行こっか」

 ロン君は大して気に留めてない様子で、さっさと前を歩きだす。案内する側のわたしが、慌てて彼を追いかけた。

 ロン君と一緒に店の前までやってくると、一心君が怖い顔でそこに立っていたからわたしはビックリして彼に駆け寄る。

「い、一心君!?どうしたの…」

 グイッ

 言い終わる前に、勢いよく腕を引かれる。バランスを崩したわたしは、ポスッと彼に寄りかかってしまった。

「ご、ごめ…っ」
「…なにしに来た、ロン」

 一心君はわたしを離さないまま、目の前の金髪の彼を鋭い瞳で睨みつけた。

「おおっと、もうバレたか。さすが鼻が効くね」

 ロン君は両手を広げてやれやれ、というポーズをしてみせる。全く怯む様子もなく、目を細めて笑っていた。

「あ、あの…二人は…?」
「日向ちゃんはもちろん知ってるでしょ?一心が人狼だってこと。俺もその仲間って言えば、分かってもらえる?」
「仲間…ってことは」
「そ。俺も人狼なんだ」

 彼が薄く唇を開くと、チラッと尖った歯が顔を覗かせる。わたしは思わず、一心君の腕をキュッと掴んだ。

「日向ちゃんさ、ちょっとお人好し過ぎない?いつか変なヤツにだまされそうで心配なんだけど」
「…それをお前が言うな」
「ハハッ、確かに」

 相変わらず警戒してる一心君と、ピリピリした空気感にそぐわない笑顔のロン君。二人が知り合いだったことにもロン君が人狼だったことにも驚かされて、言葉が出てこない。

 それでも、わたしは奥歯を噛み締めながら一心君を庇うように一歩前に出た。

「お、おい…っ」
「い、一心君になにか用ですか!」

 わたしの行動に、一心君が動揺してるのが分かる。だけど彼の事情を知ってるから、譲るわけにはいかない。

 ロン君が何者なのか分からないけど、一心君の雰囲気からして友達には見えない。もしかしたら一心君を連れ戻しにきた【ウルフマン】の一員かもしれない。

 だったら、このまま彼を渡すわけにはいかない。

「やめろ、お前は関係ないだろ」
「でも、一心君に行ってほしくない!」
「……」

 再びロン君に視線を戻すと、グッと背筋を伸ばして胸を張った。

「日向ちゃん分かってる?アンタが俺に勝てるわけないってこと」
「…ひ、人を呼びます」
「やってみろよ、人間」

 笑顔を崩さないまま、ロン君の雰囲気が変わる。無意識にあとずさりしそうになるのを、必死に踏ん張ってたえた。

「ロン。コイツになんかしたら、俺はお前を許さない」
「キャンキャンキャン!」

 一心君の言葉に合わせるようにして、ココアがロン君に向かって思いきり吠える。わたしは思わず、その小さな体をリードごと抱きかかえた。

「まあいいや、一心がここにいるって確認できただけでも今日はよしとするよ。俺は別に、一心と争いたいわけじゃないし。あ、言っとくけど“上”に報告する気もないから」
「お前一体、なにがしたいんだ」
「いつも言ってんじゃん。俺はただ、一心の力なりたいだけだって。アンタはこんな場所にいていい存在じゃない」

 ロン君はニコニコしながらそう言うけど、一心君は険しい表情のまま。

 わたしは視線を交互に二人に向けながら、ロン君はもしかしたら敵じゃないのかもしれないと、思いはじめていた。

「じゃ、日向ちゃんもまた今度ね」
「あ、あの。お腹空いてるんじゃ…」
「そんなの口実に決まってるでしょ?バカだなぁ日向ちゃん」
「…ロン」

 一心君が、聞いたこともないような低い声でロン君の名前を呼ぶ。

「…そんな人間の、どこがいいんだか」

 ほんの一瞬、冷ややかな瞳がわたしに向けられた気がしたけど、ロン君はすぐににこやかな表情を浮かべる。

「まぁ、いいや。拜拜(バイバイ)」

 そしてヒラヒラと手を振りながらどこかへ去っていく。

「今ココアの吠える声が聞こえたけど、大丈夫なの?」

 店のドアが開いて、中からお母さんが顔を出す。

「あ…う、うん。なんでもない」

 そっか。ロン君はココアが吠えたから、人が集まるかもしれないと思って引いたんだ。

 お店の前で騒動が起こるのも良くないから、とりあえずは良かったのかな…

 お母さんに当たり障りのない返事をしつつ、チラッと一心君に視線を向ける。

「…ちょっと話せる?」

 難しい表情のままそう問われたわたしは、コクンとうなずいた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...