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前語 リア充、異世界へ行く
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『本当にうらやましい』、『龍と入れ替わりたい』
俺――火ノ山龍は、こういうことを何度も言われたことがある。
運動が得意だからか、脚は速いし持久力にも自信はある。スポーツだって何でもそつなくこなすことができる。もちろんベラボーに上手というわけではないが。
頭脳明晰――かは分からない。成績は優秀だったけど、それはただ予習復習を欠かさなかったからであり、努力の賜であると思っている。
だとしたら容姿――これこそ俺には判断がつかない。今の評価は知らないけど、幼い頃はよく近所のおばさんから可愛いと言われていたらしい。・・・・・・なんか今は全然可愛くないみたいな説明だ。
人当たり――これは自分でも少しは誇れるかもしれない。友人の多さには自信はある、体育会系の人とも文化系の人とも、分け隔てなく仲良くしている。期末テスト前の勉強会なんてちょっとしたパーティだ。
・・・・・・それに、一年前から付き合っている彼女もいる。俺にはもったいないくらい可愛い女の子だ。小さくて、笑顔が眩しくて、お菓子作りが趣味で、高校だって俺に合わせるために一生懸命勉強して・・・・・・もうやめよう止まる気がしない。
それなりに話すようになったのは中学二年生の頃で、その頃から彼女は男子からの人気はあって、今思うと高嶺の花のような存在だった。告白する勇気なんてなかったけど、受験で忙しくなる前に、中学を卒業する前に想いを伝えようと奮起したら、了承の返事をもらえたのだ。あんなに舞い上がったのは生まれて初めてだったかもしれない。
そうか、俺のようになりたいというのは彼女と付き合いたいってことか、そう言われれば非常に納得のいく話だ。
今日だって、付き合って一年記念デートがある。服装だって一週間前から考えてたし、プレゼントだって準備はした。行く場所のルートに関しても第三候補くらいまでは考えてある。
彼女を喜ばせる準備に余念はない。
そ、それで、できれば今日で、プレゼント渡していい雰囲気になったらそれで・・・・・・
き、キスができればって、思うんだけど・・・・・・
うわあやばいやばい俺キモい俺キモい!そんなことしようとして嫌われたらどうするんだ、手を繋いだのだって受験が終わってすぐのデートだったのに、あれから三ヶ月しか経っていないのに!
・・・・・・うん、キスはやめよう。今日はせっかくの一年記念だし、彼女を喜ばせることに全力を尽くすのだ。
家から出て、待ち合わせ場所に向かう俺。こんな馬鹿なことでも、考えるのが楽しいのはデートの醍醐味だと思う。
間違いない、俺が第三者だったら俺になりたいと思う。だって俺、今こんなに幸せじゃないか。
友達も多く、彼女もいて、何不自由なく日常を満喫できている。
これ以上はない、こんな日々が続けばそれで――
「あれ・・・・・・?」
住宅街の2メートルほどある塀。コンクリート調で統一されているはずが、一部が黒色の大きな楕円によって塗りつぶされていた。
「なんだ、落書きか?」
見事な石垣を汚したい愉快犯の犯行だろうか、それにしても綺麗に塗られている。下地がまったく見えない。
「えっ?」
そのとき、その楕円が動いたように見えた。気のせい、だよな?ただの絵の具かペンキか知らないけど、それが動くわけ――
喉がゴクリと鳴る。
こんな昼間からホラーなんてさすがにあり得ないだろう、ホラーと言えば夜。これが定番。
だとしたら、この黒色はいったい・・・・・・
恐怖心より、好奇心を優先した。黒い壁に、ゆっくりと指を近づけていく。
塗り立てのペンキだったらそれでいい、後で手を洗って、彼女に笑い話でもすればいい。
もし、そうじゃなかったら――
ペチャ。
「へっ?」
明らかに、壁の感触ではなかった。水に触れたような、実際指は黒い壁に包まれている。
普通ではない。液状化した黒壁に指が沈み込んでいる、いったい誰が信じるというのか。
異変は、それだけではない。
「はっ!?なんで!?」
指が壁から離れない。それどころか徐々に吸い込まれている。手が、腕が、黒い楕円の中に入り込んでいく。
「ちょ、誰か!」
辺りを見回すも、人除けがされているかのように誰もいない。休日の昼間、誰かいたっておかしくはないのに。
やがて、全身が壁に吸い込まれ、よく分からないまま死を覚悟した。
おかしいな、ホラーって一瞬の恐怖とかじゃないのか、テレビ番組とかじゃいつもそうじゃん。
これって神隠しかなんかなのか、それとも本当に死ぬんだろうか。ああ、せめて急用ができたって彼女に連絡したかったなあ。ずっとあそこで待たせるの、心配だな。
そんなことを考えながら、俺はゆっくり、意識を失った。
俺――火ノ山龍は、こういうことを何度も言われたことがある。
運動が得意だからか、脚は速いし持久力にも自信はある。スポーツだって何でもそつなくこなすことができる。もちろんベラボーに上手というわけではないが。
頭脳明晰――かは分からない。成績は優秀だったけど、それはただ予習復習を欠かさなかったからであり、努力の賜であると思っている。
だとしたら容姿――これこそ俺には判断がつかない。今の評価は知らないけど、幼い頃はよく近所のおばさんから可愛いと言われていたらしい。・・・・・・なんか今は全然可愛くないみたいな説明だ。
人当たり――これは自分でも少しは誇れるかもしれない。友人の多さには自信はある、体育会系の人とも文化系の人とも、分け隔てなく仲良くしている。期末テスト前の勉強会なんてちょっとしたパーティだ。
・・・・・・それに、一年前から付き合っている彼女もいる。俺にはもったいないくらい可愛い女の子だ。小さくて、笑顔が眩しくて、お菓子作りが趣味で、高校だって俺に合わせるために一生懸命勉強して・・・・・・もうやめよう止まる気がしない。
それなりに話すようになったのは中学二年生の頃で、その頃から彼女は男子からの人気はあって、今思うと高嶺の花のような存在だった。告白する勇気なんてなかったけど、受験で忙しくなる前に、中学を卒業する前に想いを伝えようと奮起したら、了承の返事をもらえたのだ。あんなに舞い上がったのは生まれて初めてだったかもしれない。
そうか、俺のようになりたいというのは彼女と付き合いたいってことか、そう言われれば非常に納得のいく話だ。
今日だって、付き合って一年記念デートがある。服装だって一週間前から考えてたし、プレゼントだって準備はした。行く場所のルートに関しても第三候補くらいまでは考えてある。
彼女を喜ばせる準備に余念はない。
そ、それで、できれば今日で、プレゼント渡していい雰囲気になったらそれで・・・・・・
き、キスができればって、思うんだけど・・・・・・
うわあやばいやばい俺キモい俺キモい!そんなことしようとして嫌われたらどうするんだ、手を繋いだのだって受験が終わってすぐのデートだったのに、あれから三ヶ月しか経っていないのに!
・・・・・・うん、キスはやめよう。今日はせっかくの一年記念だし、彼女を喜ばせることに全力を尽くすのだ。
家から出て、待ち合わせ場所に向かう俺。こんな馬鹿なことでも、考えるのが楽しいのはデートの醍醐味だと思う。
間違いない、俺が第三者だったら俺になりたいと思う。だって俺、今こんなに幸せじゃないか。
友達も多く、彼女もいて、何不自由なく日常を満喫できている。
これ以上はない、こんな日々が続けばそれで――
「あれ・・・・・・?」
住宅街の2メートルほどある塀。コンクリート調で統一されているはずが、一部が黒色の大きな楕円によって塗りつぶされていた。
「なんだ、落書きか?」
見事な石垣を汚したい愉快犯の犯行だろうか、それにしても綺麗に塗られている。下地がまったく見えない。
「えっ?」
そのとき、その楕円が動いたように見えた。気のせい、だよな?ただの絵の具かペンキか知らないけど、それが動くわけ――
喉がゴクリと鳴る。
こんな昼間からホラーなんてさすがにあり得ないだろう、ホラーと言えば夜。これが定番。
だとしたら、この黒色はいったい・・・・・・
恐怖心より、好奇心を優先した。黒い壁に、ゆっくりと指を近づけていく。
塗り立てのペンキだったらそれでいい、後で手を洗って、彼女に笑い話でもすればいい。
もし、そうじゃなかったら――
ペチャ。
「へっ?」
明らかに、壁の感触ではなかった。水に触れたような、実際指は黒い壁に包まれている。
普通ではない。液状化した黒壁に指が沈み込んでいる、いったい誰が信じるというのか。
異変は、それだけではない。
「はっ!?なんで!?」
指が壁から離れない。それどころか徐々に吸い込まれている。手が、腕が、黒い楕円の中に入り込んでいく。
「ちょ、誰か!」
辺りを見回すも、人除けがされているかのように誰もいない。休日の昼間、誰かいたっておかしくはないのに。
やがて、全身が壁に吸い込まれ、よく分からないまま死を覚悟した。
おかしいな、ホラーって一瞬の恐怖とかじゃないのか、テレビ番組とかじゃいつもそうじゃん。
これって神隠しかなんかなのか、それとも本当に死ぬんだろうか。ああ、せめて急用ができたって彼女に連絡したかったなあ。ずっとあそこで待たせるの、心配だな。
そんなことを考えながら、俺はゆっくり、意識を失った。
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