異世界人事部アリアさん

はしもと

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3話 異世界から人間を選ぼう

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「おーすアリア・・・・・・っておわ!」

「レナさん、おはようございます」

朝8時、社員食堂へ向かうと同期で昔からの仲よしさん、レナさんにお会いしました。

レナさんは私の顔を見て驚いているようです。

「あんたその隈どうしたの?すんごいことなってんだけど」

「睡眠不足で、今日はまだ眠ってないんです」

「眠ってないって、あんた帰ってないの!?」

「シャワー浴びたいので9時になる前には帰りたいと思ってるんですが」

あまり食欲がないのでサラダだけ注文して席に着くと、トーストとコーヒーのセットを頼んだレナさんが正面に座りました。

「あんた、異動したの二日前よね?何がどうなったらそんな隈ができるわけ?」

「レナさんはおバカですね、眠らなかったらってさっき言ったじゃないですか」

「哀れそうな顔で見るな!私が聞いてるのはなんで眠れない状況になってるかってこと!そもそもあんた今何やってんの?」

目的を言うわけにはいかないので、やっていることだけ端的に言います。

「異動前と変わらないですよ、世界の観測です。ただ以前より細かく見る必要が増えたので大変になったというだけで」

どこかのお茶目日記に書いてあったように、チキュウの人口はドル・ワードの人口の100倍以上あります。母数が増えていますので、単純に管理が大変になります。

それだけなら大した苦労ではないのですが、一番厄介なのはドル・ワードに連れてくる人間を選定すること。各大陸や地域がどういう特性を持っているかも完全に把握できていないのに、ドル・ワードにふさわしい人間を連れてくるというのは不可能に近いです。完璧を望むのであれば、時間はどれだけあっても足りません。

「だからといって初日から頑張りすぎよ、可愛い顔が台無しじゃない」

そう言ってパンを一口食べると、説教スイッチが入ったのか急に真面目な顔になるレナさん。

「だいたいアリアは昔から真面目すぎるのよ、納得するまで他のことは全部あと回し。妥協しないからいつまで経っても終わりが見えないし。そんなだから可愛くておっぱいも大きくて髪だって長くて綺麗なのに男の一人もできないのよ」

「下品な口ですね、タバスコ放り込んで唇縫って差し上げましょうか?」

「怖いわ!要するに手抜きを覚えろってこと、二日でそんなじゃあんた保たないわよ」

「頑張ってる人に手を抜けだなんてよく言えますね、天使の所業とは思えません。最低の鬼畜です」

「そこまで言う!?あんたの為を思って言ってんの!」

ものすごく不本意ではありますが、レナさんの言うことも一理あるようです。二日ですでに寝不足では、一週間生きていけるかも不安になります。なんで異動早々生死を彷徨わなければいけないのでしょうか。

レナさんに一つ、相談してみましょう。

「レナさん、膨大な選択肢からただ一つの最適解を選ぶとしたらどうしますか?」

「はあ?朝っぱらから何言ってんの?」

「聞いた私が馬鹿でした。コーヒー飲んで爆発してください」

「ごめんなさいごめんなさい!ちゃんと聞くから立ち上がらないで!」

サラダも食べ終えたので家に帰ろうかと思ったのですが、レナさんが袖を引っ張って帰してくれませんでした。ものすごく勝手な人です。

「で、何がどうだって?」

「はあ、教養がないレナさんの為にもう一度言いますけど膨大な――」

「覚えてるので!そこちゃんと覚えてるので!」

「では何が知りたいんですか、バストアップ体操ならしてませんよ?」

「ぐぬぬ・・・・・・ならどうしてそんなに大きく・・・・・・」

「聞く気ないなら帰ってもらっていいですか?」

「あんたが話逸らしたんでしょうが!」

コロコロ表情が変わるレナさん、とても面白いです。

「まあ今の話でなんとなく察せるけど、最適解探すのに苦労してるってことね。でもそれってはっきりした答えがあるわけ?」

「・・・・・・」

不意を突かれた問いに、思わず口をつぐんでしまいました。確かに、異世界人事部規則というアルゴリズムから選択肢を狭めることはできますが、ただ一つに絞ることはできません。絞れているのなら、こんなに苦労はしていないでしょう。

「アリアは分かりやすいわね、そういうところも可愛いんだけど」

「それで、はっきりとした答えがなかったらどうするんですか?」

「ああもう、アリアが頼ってきてくれてものすごく嬉し・・・・・・そんな不快そうな顔やめてくれる?」

おかしいですね、完璧な笑顔を決めていたはずなのですが。

一度コーヒーに口をつけると、レナさんは指を一本立てて言いました。

「答えがないなら答えを決めるしかないでしょ、それが最適解でなくても。一つの基準を決めてそれより良いものを探求していく方がよっぽど楽よ、その方がいくらか楽しいだろうし」

確かに、そういう考えはありかもしれません。人間に迷惑をかけてしまうということで慎重になっていましたが、異世界という言葉に肯定的な人間に絞れば、一人を基準対象に選ぶというのは悪くないと言えます。私も、基準対象の生の声を聞いてみたいですし。

「ありがとうございますレナさん、なんとなく視界が開けてきました」

素直に気持ちを伝えると、レナさんは照れくさそうに頭をかきました。

「まあまあ、あたしたち友達だし?」

「そうですね、後で指定の口座にお金振り込んでもらっていいですか?」

「友達料金!?」

「冗談です、ホントは私が払わなきゃいけないくらいですね」

レナさんはお友達がたくさんいますが、私には数えるくらいしかいません。レナさんがいなければ幼い頃からひとりぼっちは免れなかったでしょう。

「なーに言ってんだか、あたしはアリアが一番の友達だって思ってるんだから」

「はい、嬉しいです」

そう言って笑い合う私たち二人。ずっとこんな風に笑い合える関係が続けばと思うばかりです。

しかし、どうしましょうか。適当に一人を選ぶと言われても、その一人を選ぶのに悩んでしまいます。こういうのは私の感情が入らない、それこそ適当に選ぶのが一番だと思うのですが。

そのことをレナさんに伝えると、名案と言わんばかりに両手を合わせて言いました。

「実はね、今天界で流行ってるゲームがあって、どうやらチキュウって世界からもってきたものらしいんだけど――」







「なるほど、確かにこれなら運任せですね」

一度家に帰ってシャワーを浴びてから異世界人事部のホームに戻ると、私はチキュウの地図を壁一面に貼り付けました。できるだけ大きなものを四方に貼り付け、私はその中心で小型の矢を一本構えます。

ダーツという娯楽のようですが、これが刺さった相手をドル・ワードに呼ぶという方向で話を進めましょう。

しかしこれでは壁の一面しか狙えませんので、自身を回転させる魔法をかけます。これで適当に投げれば四面のどこかに刺さるはずです。

なんだか魔法の無駄遣いな気もしますが、優先すべきは遊び心。できるだけ仕事を楽しくするためのスパイスみたいなものです。

「パ・ジェ・ロ、パ・ジェ・ロ」

こう言うと盛り上がるというらしい言葉を口ずさみながら、私は渾身のフォームで矢を投げました。

「おお、刺さりました!」

連れてくる人間が決まったことより矢が壁に刺さったことを喜んでしまう私。年不相応な気がして少しずつ恥ずかしくなってきました。

一旦気持ちを落ち着かせ、刺さった矢を見にいきます。



さて、記念すべき私が呼ぶ一人目の人間は――――


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