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4章

角?

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1.裕次郎はさっちゃんを膝の上に乗せ、短くなってしまった角のかどをヤスリで削っていた。
 そのままにしておくと引っかけてしまうかもしれないし、見た目もあまり良くない。
『ギコギゴキゴ・・・』
 ひたすらにかどを削り、滑らかにしていく。さっちゃんはなされるがまま、大人しくしていた。
「・・・・・・終わった」
 ピカピカのつるつるに磨かれた角は宝石のように輝いていた。しかし、その長さは三センチ程しかない。角というよりは、たんこぶだ。
 さっちゃんはそのたんこぶを左手で触る。しばらく触り続け、がっくりと肩を落とした。
「角、なくなっちゃったのじゃ・・・・・・」
「大丈夫だって! すぐに生えてくるから!」
 裕次郎は全く根拠なく励ました。正直、生えてくるとは思っていなかった。
「・・・・・・そうじゃな」
 さっちゃんはそう言いながら立ち上がった。しかし直ぐに倒れてしまう。
「なんじゃ?」
 さっちゃんは不思議そうに首をかしげながら再び立ち上がろうとした。が、やはり倒れてしまう。
 裕次郎はここで気がついてしまった。そう。バランスだ。
 さっちゃんは角が折れてしまったせいで頭の重量バランスが崩れ、上手く立てないのだ。
「さっちゃん! 頭を左に傾けて立ってみて!」
 裕次郎はそうアドバイスした。折れた角は左側だ。頭を傾けることによって残った角を真上に向けバランスをとる作戦だ。
 さっちゃんは言われた通りに頭を傾け立ち上がった。
「おお! 上手くいったぞ!」
 首を傾けたまま部屋を歩き始めた。
 しかし、その様子は予想以上にアホっぽかった。ひどい寝違いを起こしたようにしか見えない。
「サタンさん! こっち見てください!」
 いきなりベルがさっちゃんに話しかけた。
「ん? なんじゃ?」
 さっちゃんがそう言いながら振り向いた。その瞬間バランスが崩れ、さっちゃんは派手に転んでしまった。
「ふふ・・・・・・」
 ベルは震えながら笑いを堪えてた。
 ・・・なんか、進化したベル少し性格悪くなってないか?
 裕次郎はそう思いながらもさっちゃんを起こそうと近寄った。が、その前にさっちゃんは立ち上がった。
「おお! なぜかは分からんが問題なく立ち上がれるぞ!」
さっちゃんは嬉しそうに笑い、腰に手を当てふんぞり返った。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 裕次郎とベルは無言で床を見つめていた。するとサキが、とてとてとさっちゃんに近寄った。
「これいらないならちょうだい!」
 そう言いながらにっこりとわらった。その左手にはドアに突っ込んだときに折れた角が、右手には今転んだときに折れた角が握られていた。

2.結局、右の角も左側と同じようにきれいに削り、さっちゃんの頭にはつるりとしたたんこぶが二つ出来上がった。
「はあ・・・なんかもう死にたいのじゃ・・・」
 さっちゃんは床にうつ伏せになったままぽつりと呟いた。
 裕次郎はかける言葉が見つからなかった。さっきまでかっこいい角が二本立派に生えていたのに、今ではたんこぶ二つくっつけているだけた。しかも角がないと悪魔の力は使えないらしい。
 これ、だたの幼女じゃん。サキと一緒じゃん。
 裕次郎は心の中でそう思ったが、顔には出さなかった。
 ベルは進化したことがよほど嬉しいのか、さっきからブンブンと飛び回ってる。サキは折れた角を頭にあてがい、遊んでいた。
「パパ! どう? あくまっぽい?」
 サキは嬉しそうに頭を振っていた。
「うん。似合ってるよ! 悪魔っぽい!」
 そう言いながらも裕次郎は内心、
『いやサキは夢魔サキュバスだから悪魔じゃん』
 と思っていた。
 必死に悪魔っぽく振る舞うそのようすが可愛く、頭を撫でようとした。が、角が邪魔で上手く撫でることができない。仕方なく止めようとすると、もっと撫でて欲しかったのかサキは急いで角から手を離した。
 しかし、角は床に落ちない。
「・・・・・・」
 裕次郎は無言で角を引っ張った。しかしくっついたのか噛みこんだのか、全く外れる気配がない。仕方なく全力で引っ張った。
「いたいいたい!」
 サキは裕次郎の手を振り払う。
 痛い?
 裕次郎は考える。
 痛いってことは、神経通ってるってことじゃん。神経通ってるってことは、もう完全に同化してるってことじゃん!
「ちょっと! さっちゃん! これどうやったら取れるの!」
 裕次郎はうつ伏せになったままのさっちゃんを抱えあげた。
「なんじゃ・・・今はそっとしておいて・・・・・・へ? 私の角?」
 さっちゃんは角に気がつくと、サキに走りより角を掴んだ。
「私の角返して! 返して!!」
 さっちゃんは無理矢理角を奪い取ろうと引っ張った。サキはいやいやと首を振る。
「ひっぱらないでよ!」
 サキは涙目になりながらさっちゃんを振り払う。さっちゃんは吹っ飛ばされ床を転がった。
 ん? サキ、こんなに力強かったっけ?
 裕次郎は疑問を感じながらもサキを見る。そのサキは、さっちゃんに向かって二本の角を真っ直ぐに向けていた。
 その角と角の間には、野球ボールぐらいの塊が発生している。
 裕次郎は直感的に理解していた。
 あ、これ絶対ビーム的なやつ出るパターンじゃん
 と。
 急いでさっちゃんとベルを掴み、サキの後ろに回り込んだ。次の瞬間塊は膨張し、サキの角から漆黒のビームが発射されていた。


 続く。



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