上 下
7 / 91
1章

パーティー結成だぁぁぁぁ!

しおりを挟む
1.裕次郎は、ルイーゼが意識を取り戻すまで待つことにした。イザベルから聞いた話だと、悪い奴ではなさそうだ。たぶん・・・ そう思いながら、裕次郎はうつむく。
 ・・・ん? なんか足元が寂しい気がする。何だろう。こう、癒し? じゃなくて温かさ? モフモフ感?
『わん! わんわん!』
 裕次郎の頭の中で、豆芝の鳴き声が響き渡る。
「ああああああ!!!! 豆芝教室に忘れたあああああ!!!!」
 立ち上がった裕次郎は絶叫し、辺りを見回す。しかし、『お前うるせぇよ』と言わんばかりの視線以外、何もない。
「どうしたのだ? いきなり大声を出して?」
 イザベルが心配そうに裕次郎を見つめる。
「豆芝教室に忘れて来ちゃった・・・」
 裕次郎は、呟くようにそう言う。あの、化け物みたいなのしかいない、二年F組キラー・ルームに忘れてきたんだ。今頃どうなっているか分からない。食べられてるかもしれない。裕次郎は絶望した。
「何を言っている? 豆芝ならしっかり着いてきていたではないか。今も魔力を感じるぞ」
 イザベルは、呆れながら首を振る。
「えっ、どこ? どこ? どこ?」
 裕次郎は必死に探すが、見つからない。
「まったく。豆芝の魔力を感じればいいのだ。・・・今は医療病棟の裏にいるようだぞ。あそこは芝生のスペースがあるからな。遊んでいるのだろう」
 イザベルがそう言った。裕次郎は急いで医療病棟を出ると、裏に回る。するとそこには・・・
「わん! わん!」
 そこには、二つの頭、黒い毛並み、可愛らしいしっぽ。豆芝がそこにいた。
「まめしばぁぁぁぁぁ!」
「わん! わ~ん!」
『ガシィ!』
 裕次郎と、豆芝はしっかりと抱き合った。そのままくるくると回りながら地面に倒れる。
「あの、その子あなたのワンちゃんですか?」
 すぐ近くで女の子の声がする。イザベルが『ワンちゃん』なんて言うわけないし・・・
 倒れたまま首だけで声の方を見ると、女子生徒が裕次郎の前に座っていた。
・・・あ。パンツ見えそう・・・じゃなくて!
 裕次郎は慌てて起き上がる。
「えっと、豆芝と遊んでくれていたんですか?」
 裕次郎はその女子生徒に尋ねる
「豆芝・・・ああその子のことですね。はい。そうです。あなたが飼い主ですか?」
 その女子生徒は少し笑いながら尋ねた。
「そうです。あ、俺の名前は裕次郎=石神です。よろしく」
 裕次郎はそう言いながら女子生徒を見つめる。なんか、どこかで見た気がする。髪は茶色で、肩ぐらいまで。イザベルや、ルイーゼみたいに派手じゃないが、整った、可愛い顔をしている。うん。かわいい。
「私は、二年A組、シャルロット=ウインターです。えっと、私の事、覚えていませんか?」 
 そのシャルロットと名乗った生徒は、少し残念そうに尋ねた。
「すいません・・・」
 ダメだ。二年F組キラー・ルームの生徒たちが強すぎて、頭から離れない。 
「えっと、今朝、イザベルさんから助けていただいたんですけど・・・」
「ああ!あのときの!」
 裕次郎は思い出した。あの、イザベルの剣を落としてしまって、ビビりまくっていた生徒だ。
「イザベル、ああ見えて悪い人じゃないはずだから許してあげてね」
 裕次郎は続けてそう言った。
「分かりました。それで、あの、実はお願いがあるんですけど・・・」
 シャルロットは、もじもじしながらそう言った。
「何ですか?」
「はい・・・私と、三人一組パーティーを組んでほしいんです!」
 シャルロットは、顔を真っ赤にしながらそう言った。
 ・・・ん? これはもしかして、もしかする? イザベルという悪魔から、か弱い女の子を助けた俺。ああ。これはモテる。
「えっと、理由を聞いていいかな?」
 裕次郎は確証が欲しかった。もし勘違いだったら恥ずかしすぎる。
「はい。実は初めて見たときに、いいなと思って、二回目の再開で、運命的というかなんというか・・・」
 シャルロットは顔から湯気が出そうになるまで、赤くなっている。
 ・・・これ来たわ。俺の時代来ましたよ。あの魔術を教えてくれた老人、俺の事見てるかな。やったよ。
「えっと、どんなところが好きなんですか?」
 裕次郎は思わずにやけながら尋ねる。
「えっと、まず、目が印象的でしたね。綺麗な目をしていたから」
「うんうん」
「それと、さわり心地です」
「うん?」
「それから毛並みもいいですよね」
「・・・」
「頭が二つあるのも個性的ですし」
 ・・・マジかよ。俺、毛並みもそんなに良くないし、頭も一つしかねえよ。誰かなそれは。
「裕次郎さんは、そう思いませんか?」
 シャルロットはそう言いながら、裕次郎の手から離れていた豆芝を抱きかかえた。
 ・・・ふざけんなよ! マジでふざけんなよ! もうこれ立ち直れないよ。俺、豆芝に女の子を奪われた・・・そもそも俺が持っていたわけでもなかった・・・
 裕次郎は心が折れかけていた。しかし、折れるその寸前、中学時代の記憶が甦る。
「裕次郎くん。ずっと前から好きでした! 付き合ってください!」
「えっ、ありがとう。じゃあこれからよろしくね」
「・・・バーカ、嘘だよ。これはドッキリです~本気で付き合うわけないじゃん!」
「裕次郎と付き合ってくれる女の子なんていないよ。じゃあね」
 ・・・そうだ。あのときに比べれば、今回の事なんて何でもない。ちょっとした勘違い。ノープロブレム。
「・・・そうだね!!すごく可愛いと思うよ!!」
 裕次郎は困難を乗り越え、また一つ、強くなった。
「それじゃあ、三人一組パーティーの話は・・・」
 シャルロットがそこまで言った時に、イザベルと、ルイーゼがやって来た。
「裕次郎。豆芝はいたか?で、それは誰だ」
 イザベルが、シャルロットを見ながらそう言った。

2.裕次郎たちは、三人一組パーティーについて、話し合う為、医療病棟の近くの喫茶店に来ていた。
「それで、貴様は裕次郎と三人一組パーティーを組みたいのだな。」
 イザベルは腕を組み、シャルロットを見下ろす。
「はははい・・・そう思っています・・・クラスが違っても三人一組パーティーは組めるはずです・・・」
 シャルロットは、豆芝を胸に抱き、びびりまくりながらそう答える。
「そうだ!いい考えが浮かんだわ! まず裕次郎が、私の三人一組パーティーに入りなさい。シャルロット・・・でしたっけ? 貴方も来なさい。これで三人。問題ないはずよ」
 ルイーゼは、イザベルを横目で見ながらニヤニヤしている。
「裕次郎、お前は本当にそれでいいのだな?本当だな?」
 イザベルが裕次郎を睨んでくる。怖い。
「大体、イザベルは、三人一組パーティー組めないでしょう?」
 ルイーゼが相変わらずニヤニヤしながら、そう言った。
「なに!どういう事だ!」
 イザベルが狼狽えた。
「イザベル、貴方許可証を校長先生に貰っていたわよね?」
「・・・ああ」
「それを貰ったイザベルは、町のクエストは受けることは出来ない、つまり、町でのクエストを受注することが出きる三人一組パーティーを組むことは出来ないの。」
「・・・校長に確認してくる」
 イザベルはそう言うと全力で走り去っていった。
「さあ、これで邪魔物はいなくなったわ。この三人で三人一組パーティーを組みましょう」
 ルイーゼは、裕次郎と、シャルロットに手を差しのべながら、そう言った。
「・・・分かりました。よろしくお願いします」
 シャルロットはそう言うと、豆芝を左手で抱きかかえながら、右手で握手をした。
「そうですね・・・イザベルとは組むことが出来ないらしいし、しょうがないですよね」
 裕次郎はそう言うと、ルイーゼの手を握ろうとしたその時。
『ドガァァァァァン!!』
 物凄い轟音が響き渡った。音がする方に目をやると、校舎から垂直に火柱が立っている。
 裕次郎は、教室でこれに似たものを前にも見た気がしたが、知らないふりをした。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
 誰も話そうとしない。流石のイザベルも規則を曲げることは出来ないだろう。その時、裕次郎はイザベルの言葉を思い出していた。
『私も制服を着せられそうになったが、騎士道を見せつけると、特別に免除されたのだ』
 ・・・『騎士道』ってなんだろうか?何か、とてつもなくヤバイものの気がしてきた。そんな事を裕次郎が考えていると、イザベルが走って戻ってきた。
「すまん。みんな待たせたな。校長には話をつけてきた」
 イザベルは嬉しそうにそう言うと、許可証を見せた。みんなで覗きこみ、確認する。
『一、この許可証を持つものは、単独での裏庭ガーデン侵入を許可する』
『二、この許可証を(イザベルさんの三人一組パーティー加入を認める。バイオン校長)クエストを紹介してはならない』
『三、この許可証を(四人一組も認める。バイオン校長)クエストを紹介した者は厳罰する』
 その許可証には、明らかに上から手書きで書いたと思われる文字が追加してあった。裕次郎は震える声で、イザベルに質問する。
「・・・何をしたんですか?」
「なにもしていないぞ。ただ、『騎士道』を見せつけただけだ」
 イザベルは、胸を張ってそう言った。裕次郎はそれ以上、怖くて聞けなかった。
「よし!それではこの四人で頑張るとしよう!よろしく頼む」
 イザベルはそう言うと、まだ手を繋いでいなかった裕次郎と、ルイーゼの間に入り手を握った。






しおりを挟む

処理中です...