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1章

かんばるぞぉぉぉぉぉぉ!!

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1.「グォォォォォォォ!」
 狂ったように木々を倒しながら、二匹の火龍ファイヤー・ドラゴンが突き進んでくる。
「ああああ! ヤバイ! これマジでヤバイ! 逃げましょうイザベル!」
 裕次郎は、大声でイザベルに向かって叫ぶ。
「騎士が背を向けるときは死ぬときだけだ! 全部まとめてぶっ殺してやる!!」
 イザベルは、目を爛々らんらんと輝かせながら、突っ込んでいく。
 一頭はイザベルに向かって突進している。もう一頭は、魔力が尽き倒れているルイーゼに向かって突進してくる。
「ガァァァァ!」
 どうしよう! このままじゃルイーゼが食べられちゃう! 裕次郎は泣きながらシャルロットを探す。
「シャルロット! どのにいるの! 助けて! ルイーゼが死んじゃう!!」
 しかし、返事は返ってこない。ちくしょう! はぐれてしまったのか?
「・・・ちょっと失敗したかしら・・・」
 倒れているルイーゼが弱々しく呟く。
「イザベル!!! ルイーゼを助けてください!!!」
 裕次郎の叫びは、夢中で闘っているイザベルの耳には届かなかった。その間にも、火龍ファイヤー・ドラゴンは、ルイーゼにどんどん近づいている。
・・・これはもう、俺の手には負えない。どうせ魔法も使えないし、ここにいても足手まといになるだけだ。幸いまだ、俺は火龍ファイヤー・ドラゴンに見つかっていないし、急いでシャルロットを探しに行った方がいい。
 そう思い、イザベル達に背を向けるように体をひねると、地面に倒れているルイーゼが視界に入った。  構わず背を向け、走り去ろうとする・・・しかし。
 ・・・俺は本当に、これでいいのか?
 裕次郎は自分自身に問いかける。
 俺は、魔法も使えない。魔術も使えない。だからシャルロットを呼びにいって助けてもらう。間違ってはいない。
 間違ってはいない? 本当にそうか?
 そもそも俺は、モテモテになって、ハーレムを作る為に転生した。
 じゃあ、目の前で倒れて動けない女の子を置いていくような奴は、モテるのか? ハーレム作れるのか?
 そんなわけないだろう。誰が、そんな女の子を見捨てるような奴に、好意を持ってくれるんだ。
 できないのは魔法だけにしとけや。裕次郎オレ
「うわぁぁぁぁ!」
 向きを変えた裕次郎は、雷刀を握りしめ、叫びながら火龍ファイヤー・ドラゴンに突っ込んでいく。 
「グォォォォォォ!!」
 裕次郎に気づいた火龍ファイヤー・ドラゴンはうなり声をあげ、一直線に向かってくる
 これで大丈夫だ。一匹はイザベルが闘っている。俺はもう一匹をルイーゼから出来るだけ離さなければ。
 裕次郎は、木々の間に必死に逃げ込む。
「バキバキバキ!」
 木々をなぎ倒しながら火龍ファイヤー・ドラゴンが、突っ込んでくる。このままでは追い付かれてしまう。裕次郎は、ギリギリでかわし、逃げることにした。あの巨体では木が邪魔で、素早く方向転換できないはずだ。
「グォォ!」
 火龍ファイヤー・ドラゴンは、唸りながらどんどん近づいてくる。
「うわあ!」
 大きな口を開け、突進してきた火龍ファイヤー・ドラゴンを、裕次郎はギリギリでかわした。そのまま全力で逃げようとする。しかし、無理矢理方向転換しようとした火龍ファイヤー・ドラゴンの尻尾が、鞭のように飛んできた。
『バシィ!』
 まともにくらった裕次郎は、吹っ飛ばされ、すごい勢いで木に衝突する。 
『バキィ!』
 あまりの衝撃に息が出来なくなり、その場に座り込む。体中が痛い。
「ゲホッ・・・」
 裕次郎は意識を失いそうになりながらも、逃げようとする。しかし、体が動かない。思ったよりダメージが大きいようだ。
「グルルル・・・」
火龍ファイヤー・ドラゴンは、動けない裕次郎の目の前まで来て、ゆっくりと口を開ける。『ムワッ』と獣臭い息が鼻をつき、よだれにまみれた鋭い牙が見える。
 どうやら俺はもうダメみたいだ。やっぱり、カッコつけずにシャルロットを探してきたほうがよかったかなぁ。
 裕次郎はそう思いながら、死を覚悟した。





続く。
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