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1章

四面楚歌ぁぁぁぁぁぁぁ!!

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1.裕次郎はヘンリーが激怒し、肘掛けを握り潰した事にビビりまくる。
「本当なんです! 違うんです!」
 裕次郎は焦るあまり、ちゃんと説明が出来ない。
「裕次郎・・・なぜそんな事を言うのだ・・・」
 イザベルが、悲しそうな表情で裕次郎を見つめてくる。
 これはマジでどうしよう。ヘンリーさん絶対俺のこと、子供作って責任取る気がないゲス野郎と思ってる。
 裕次郎は真実を分かってもらおうと、ヘンリーに話しかけようとするが、
「パパ~、いつまでここにいるの?」
 最悪のタイミングで、サキが裕次郎の袖を引きながら、パパと呼んで来る。
「......なるほど。貴様はその子供に、そこまで言われても認めんのか。もうよい。イザベル、成り行きを説明しろ」
 ヘンリーは、炎も凍るような視線を裕次郎へ向け『次はお前だ』と言わんばかりに、握り潰した肘掛けを床に落とした。
「はい。裕次郎が住むところがないというので一緒に暮らしていました、そしたら子供が出来たのです」
 イザベルは簡潔に説明する。
「......そうか......イザベルよ。お前はこの男を愛しているのか?」
 ヘンリーは、視線だけで殺せそうなほど裕次郎を睨む。
「そうですね・・・裕次郎は、大切な仲間で友達です。しかし愛しているとは違うと思います」
 イザベルは少し考えながら、そう言った。
「そうか......なら殺すか......」
 ヘンリーは、顔を伏せ、呟くようにそう言った。
 どうしよう!!! 今ヘンリーさん、『殺すか・・・』て言った! まだ俺死にたくない!!
 裕次郎が命乞いをしようとした次の瞬間、扉が勢いよく開く。
「わんわんわん!」
「あ、本当に裕次郎さん達いましたね! 豆芝ちゃん凄いです!」
「ちょっと! 裕次郎どこにいたの! 探したじゃない!」
 なぜかルイーゼとシャルロットが、急いだ様子で入ってきた。
「......ルイーゼか。今取り込み中だ。用件を簡潔に答えろ」
 ヘンリーが不機嫌そうにルイーゼを睨み付ける。
「・・・はい。おじさま。実は昨日そこにいる裕次郎から、その、いきなり人気のない所へ連れ込まれて『子供の作り方を教えて』と言われ・・・」
 ルイーゼが赤くなりながら、そこまで言ったところでヘンリーが口を挟む。
「......裕次郎貴様、本当なのか?」
 ヘンリーは、確実にぶちギレていた。裕次郎は、必死に真実を話そうとする。
「違います! 昨日のことは・・・」
 裕次郎は、誤解を解こうと必死に弁解しようとするが、邪魔が入った。
「はあ?裕次郎昨日言ったじゃない! しかも逃げようとした私を捕まえようとまでしたくせに! 今日学校来なかったから心配して来てあげたのに、サイテー!」
 ルイーゼが割り込むようにそう言いながら、裕次郎を責めた。
「そうなのか? 私だけではなく、ルイーゼとも子供を作ろうとしていたのか?」
 イザベルが悲しそうな顔をする。
「え!! 裕次郎、イザベルにも言い寄ってたの!?」
 ルイーゼが驚きと、軽蔑が混ざったよう視線で裕次郎を見る。
「流石に最低すぎますよ・・・裕次郎さん・・・見境無さすぎです・・・」
 シャルロットは、ゴミを見るような目で裕次郎を見ながら、後退る
「わん・・・」 
 豆芝も、シャルロットと一緒に裕次郎から離れていく。
 ・・・もうこれどうしても無理だろ。つーかそもそも、これ俺が悪いのか? 誰も俺の話を聞かないで好き勝手言いやがって。挙げ句、『サイテー』だの『殺すか』だのこいつらマジでふざけんなよ。
 裕次郎は、段々とイライラしてきていた。こいつらもう知らん。サキだけ連れて帰ろう。
煙煙スモーキー・スモーク!」
 裕次郎は目眩ましの為の煙を部屋に充満させ、サキの手を握ると急いで扉の方へ向かう。
「逃がすと思うのか! 鎌鼬エア・カッター!」
 ヘンリーは、呪文を唱えると風の刃を裕次郎へ向かって、打ち出す。
 しかし煙のせいで手元が狂ったのか、裕次郎から逸れた風の刃は、サキに直撃する。
「パパ・・・いたい・・・」
 サキはその場へ座り込む。傷口を確認すると重症ではないが、刃物で切りつけたような傷ができている。ふいに、裕次郎の視界が歪み、赤く染まった。
「お、お前が逃げようとするからだ」
 ヘンリーが赤い煙の向こうでそう言っているのが見えた。
 裕次郎は誰のせいで、サキが傷ついたのか考える。
 それは俺のせいだ。俺がサキと一緒に出ていこうとしなければ傷つきはしなかった。
 しかし。
 魔法を使い俺のサキむすめを傷つけたのはあいつだ。断じて許すことはできん。確実に殺す。全て破壊する。
「殺す」
 裕次郎はそう呟くと、本能の導くままに呪文を唱える。
ふざけるなザケル
     
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