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1章

いたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

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1.裕次郎は憂鬱だった。昨日、なにも知らずに対人戦闘の練習を頼んでしまった。今から行くクエストで死にかけて、その後イザベルからボコられる。カッコつけて変なこと言わなきゃ良かった・・・
「わんわん!」
 落ち込んでいた裕次郎の胸にいきなり豆芝が飛び込んできた。その姿を見た瞬間、言葉を失う。
 何故かド派手なピンクの服を着て、ボンボンの付いた帽子を左右の頭に被っている。なんだこれは。
「豆芝ちゃん! 待って下さい!」
 走ってきたのか、息を荒くしながらシャルロットがやって来た。
「・・・えっと、この服はなに?」 
 裕次郎は豆芝を持ち上げながら、聞いてみる。
「かわいいでしょう?」
 にっこりと笑うその顔には、何故か文句を言うことができなくなる不思議な力が宿っていた。
「・・・そうだね」
 へたれてしまった裕次郎は、特に文句も言わずに流すことにした。
 これで四人一組パーティーが全員揃った。イザベルは今クエストを選んでいるし、ルイーゼは少し離れた所に座っている。
「クエストを持ってきたぞ!」 
 イザベルが左手にクエスト用紙を持ち、右手にはサキを抱きながらやって来る。
 実は今日家を出るときに、どうしても一緒に学校に行くと付いてきてしまった。どうやら俺を護るつもりらしく、属性剣を小さな手でしっかりと握りしめている。
「今回は、あまり良い物が無くてな・・・」
 イザベルがそう言いながら用紙を裕次郎に見せる。シャルロットとルイーゼも覗き込むようにして確認する。
 クエスト用紙には『未確認生物発生の為、探索』と書いてあった。裕次郎は、初めて見るタイプのクエストに首をかしげる。
「イザベル? このクエストは何をするの?」
「このクエストは未確認生物を発見し、報告するだけだ。今回は皆で手分けするとしよう。すまんが裕次郎を鍛えることにはならないと思うぞ。」 
 イザベルは残念そうにそう言った。
「それならしょうがないですね!」 
 裕次郎は痛い思いしなくてすむと、ほっとする。
「よし! それでは行くとするか! 危ないから、サキは私の近くにいるようにするんだぞ」
 イザベルは、サキの手をしっかりと握った。
「わかった!」
 元気よく返事をすると、サキはイザベルを引っ張るようにして裏庭ガーデンへ入っていった。

2.裕次郎達は裏庭ガーデンへ入ると、手分けして未確認生物生物を探すことにした。一応写真が撮られているようだが、不鮮明な上、ぶれている。唯一わかるのは、空を飛ぶ魔物らしいということだけだ。
「それでは、私とサキは山を右回りに、シャルロットと豆芝は左回り、裕次郎とルイーゼは、山を登ってくれ。山の裏で合流しよう」
 イザベルが皆にてきぱきと指示を出す。
「ちょっと! 何で私が裕次郎となのよ!」
 ルイーゼが、顔を真っ赤にしながら反論する。
 ・・・そんなに拒否しなくてもいいじゃん。
 裕次郎は心が少し傷ついた気がした。
「・・・別に嫌な訳じゃないわよ?」
 ルイーゼが裕次郎をチラリと見ながらそう言った。
「よし! それでは決まりだな!」  
 イザベルはサキと手を繋ぎながら、歩いていった。
「豆芝ちゃん! 私たちも行きますよ!」
「わんわん!」
 シャルロットと豆芝もキャッキャと嬉そうに走っていく。
「俺たちも行こうよ」
 裕次郎がそう言うと、ルイーゼはゆっくりと山を登り始めた。

3.裕次郎とルイーゼはなだらかな山を登りながら話をしていた。
「裕次郎、今日クエストが終わった後時間ある?」
 ルイーゼが裕次郎の隣にやって来てそう聞いてくる。
「いや、今日はクエストの後イザベルと約束があるんだ」
 裕次郎は、対人戦闘の練習があることを思い出す。
「・・・そうなの。イザベルと仲が良いのね」 
 何故か少し不機嫌になり、登るスピードが早くなる。
 「まあ、一緒にいる時間が長いからね」
 裕次郎も登るスピードを上げる。
「え? そうなの?」  
「うん。だって一緒に住んでるし」
「え?」
 ルイーゼがそう言うと、動きを止める。
「同棲してるの?」 
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「聞いてないわよ! 裕次郎、もしかしてイザベルと付き合ってるの?」
 ルイーゼが怒ったように聞いてきた。
「・・・違うけど」
 裕次郎は、狼狽えながらもそう答えた。
「ならなんで、一緒に住んでるの?」
「住む所が無くて成り行きで・・・」
「そう・・・」
 ルイーゼはそう言うと、山を登り始めた。 
 裕次郎も置いていかれないように急いで付いていった。

4.裕次郎が頂上付近にたどり着くと、不思議な音が聞こえた気がした。耳をすませてみると、
「ギィギィギィ」
 どこからか、何かが擦れるような変な音が聞こえてくる。
「ルイーゼ、何か聞こえない?」
 裕次郎はルイーゼの肩をぐいっと引っ張る。
「きゃっ! なによ!」
 前にいたルイーゼが慌てて振り返る。と、擦れるような音に気付いたようだ。辺りの様子をうかがっている。すると、場所がわかったのか突然歩きはじめた。裕次郎も慌ててついて行く。擦れるような音は歩くたびどんどん大きくなっていき、少し開けた場所に大きなハエの形をした魔獣が地面に座っていた。





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