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2章

クエスト終了????

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1.裕次郎は、三匹の水龍ウォーター・ドラゴンを倒し、クエストは終わりを告げた。
「裕次郎が、あんなに強くなってたとは知らなかったぞ!」
 クエストを終え、カウンターに報告しにいった後、イザベルが見直したように笑いかけてきた。
「夢中だったから・・・」
 裕次郎はそう言いながら、戦闘を思い出す。自分でも不思議なくらい冷静だった。
 今までは魔獣を見ると、恐怖を体が支配していたが、今回は思い通り以上に体が動いてくれた。
「そんなに戦えるなら、最初からそうしなさいよ」
 ルイーゼは裕次郎を睨み付ける。しかし、別に怒っている訳では無さそうだ。
「ゆ、裕次郎、この後暇なら・・・」
 ルイーゼが何かを言いかけた時、シャルロットが豆芝を抱きかかえながら、全速力で駆け寄ってきた。
「裕次郎さん! 大事な話があるんですけど、この後時間ありますか? 今日でクエストも最後ですし・・・」
「うん。大丈夫だけど?」
 裕次郎は平静を装いながらも、ある可能性を期待し、心の中は荒れ狂っていた。
 もしかしてこれ、告白されるんじゃね?
 ありえない話じゃない。今日の俺は、自分で言うのも何だが、結構カッコ良かったはずだ。
 そもそも、シャルロットの『豆芝』が好きアピールも、俺と四人一組パーティーを組むための口実なんじゃないかな?
 休みの日によく会うのも、俺の事が好きだからじゃないの! 絶対そうだ!
 裕次郎の妄想は止まらない。
 もしかして、シャルロット、家では、
『はぁ。今日も裕次郎さんと上手くお話できなかった・・・』
 とか言ってるんじゃないの! うん! 間違いない!
 裕次郎は顔の緩みを必死に抑え、ヤコに話しかける。
「俺、この後シャルロットと話があるから、ベルを連れてイザベルと一緒に帰っててくれない?」
「わかったニャ!」
 ヤコは、ベルの首根っこをくわえると、ぐいっと持ち上げた。
「ウジウジ! ウジ!」(裕次郎さん! 信じてます!)
 裕次郎は内心、ドキッとしながらも、不安そうなベルに話しかける。
「ちょっと話をするだけだよ。すぐに帰ってくるから」
 それを聞いたベルは安心したようにうなずく。
「話があるなら、先に帰るぞ」
 イザベルが、眠る寸前のサキをおんぶしながら裕次郎を見た。
「ヤコちゃんも帰るニャ!」
 そう言うと、ベルをくわえたまま、イザベルについていった。
「・・・私も帰る」
 ルイーゼは裕次郎を睨み付け、帰っていった。
 さっきとは違い、ガチでキレているようだった。裕次郎は、なぜ怒っているか意味が分からず、首をかしげた。

2.「・・・・・・」
 シャルロットは、無言で裕次郎の前にやって来る。しかし、気まずいのか視線をそらし、右手で眉に掛かってきた髪を、耳に戻した。
 シャルロットの仕草に、裕次郎はドキッとしながらも考える。
 やっぱり告白は、男の方からするべきではなかろうか。うん。絶対そうだ。
「俺も、好きですから!」
 裕次郎は、生まれて初めて自分から告白した。心臓が必死に鼓動している。
「私も、好きなんですよ?」
 シャルロットは、裕次郎の瞳をじっと見つめる。その宝石のような瞳に、自分の顔が映っていた。
「じゃあ、どうしようか?」
 裕次郎は真面目な顔で、シャルロットを見つめる。
 この子が、俺の初彼女か。絶対幸せにしよう。
「それで、できれば私の家で、一緒に暮らしたいと思ってるんです・・・」
 シャルロットは、少し恥ずかしそうに俯く。
「え、それは少し急すぎない? イザベル達にも聞いてみないと・・・」
 裕次郎は慌てたように、後ずさる。流石にグイグイ来すぎじゃないかな?
「・・・そうですよね・・・分かりました」
 シャルロットは、悲しそうに俯く。その目には、涙が光っているように見えた。
 ・・・俺は何をやってるんだ。ついさっき、幸せにしようと誓ったばかりじゃないか。
「分かった! イザベル達は何とか説得してみせる!」
 裕次郎は、力強くうなずいた。
「本当ですか! ありがとうございます!」
 シャルロットは、嬉しそうに笑った後、いきなり背を向け、いつからいたのか、豆芝を抱き上げた。
「それじゃあ、豆芝ちゃんは連れて帰りますね。本当にありがとうございます!」
 シャルロットはそう言い残し、帰っていった。

3.「・・・・・・」
 裕次郎は呆然と立ち尽くしていた。
 意味が全く分からない。いや、本当は分かっている。シャルロットが一緒に暮らしたいのは俺じゃなくて、豆芝・・・
「オェェェェェェェ!」
 あまりのショックと絶望に、しゃがみこみ、吐いてしまう。辺りにツンと、すえた臭いが漂った。
 これはキツい・・・マジでキツい・・・・・・
 これは、あれだ。宝くじが三億円当たって、交換所で
「これ、ミニじゃないですか~違うくじですよ~」
 って言われるぐらいキツい・・・
 裕次郎はこの時、ヤコに心の底から感謝していた。
 もし、仮にあの時何千回も殺されていなかったとしたら、今ごろ俺は極度のストレスで、心臓麻痺か、精神崩壊を起こしていた。絶対起こしてた!
 裕次郎は、生まれたての子牛のように、足をプルプルしながら立ち上がり、壊れそうな精神を守るため、自己暗示をかけようと目をつぶった。
『はい。息を大きく吸って』
『はい。次は吐いて』
『吸って、吐いて、吸って、吐いて。はい。どんどん周りが暗くなっていきます。貴方も暗闇に溶け込んでいきます。暗い闇に貴方の心と体は、溶けて混ざり合います・・・』
『あら・・・心の中に必要のないトゲがありますね・・・抜いてしまいましょう・・・』
『ずーっと時間を巻き戻していきます・・・あら、貴方勘違いしていますね・・・告白されると思い込んでいます・・・』
『この時の貴方に教えてあげましょう・・・告白されないんだよ・・・』
『貴方も教えてあげなさい・・・さあ一緒に・・・』
『告白されないんだよ・・・』
『告白されないんだよ・・・』
『告白されないんだよ・・・』
『告白されないのか・・・』
『はい・・・これで貴方は告白されないと気がつきました・・・気がついた貴方はショックを受けることも、悲しむ事もありません・・・貴方は知っていたのですから・・・ほら、今も告白されない事を、貴方は知っているでしょう?』
『うん・・・知ってる・・・』
『確かに知ってる・・・』
『俺は告白されない事を知っていた・・・』
『はい。心に刺さっていたトゲは抜けました・・・あら? 周りがどんどん明るくなっていきます・・・どんどんどんどん明るくなって、貴方は目を開けます・・・目を開けろ!!』
 裕次郎は、はっと目を開けた。辛かった気持ちも、いくらかましになっていた。
 確かによく考えてみたら、俺が勝手に告白されたいって思ってただけで、本当は違うって知ってた気がする。
 うん! そんな気がする!
 元気になった裕次郎は、イザベル達が待っている家へ帰ろうと、歩き始めた。

 続く。







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