成長する殺人鬼1(完結)

一二の三太郎

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二章 明弘くんの覚醒

『五人目』誘拐

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 俺は早速『五人目』の殺害方法を考えていた。すべて違う方法で殺すのも意外と大変だ。
 調べるためパソコンを起動するが、いつもの通り起動が遅い。その間暇なのでテレビをつけ、ニュースを確認した。『四人目』のニュースはやっていないようだ。もっとも『一人目』の話題で持ちきりではあるが。
 小さかったテレビの音量をあげると、コメンテーターがちょうど『一人目』の犯人像を検証したボードを使って説明をしていた。
「......たくさんの刺し傷があります。この事から犯人は被害者の女性に恨みがあった人物である可能性が高いと言えるでしょう。高松さんはどう思われますか?」
 高松と呼ばれたその男性は犯罪心理学者のようだ。席の前にプラカードが置いてある。
「そうですねぇ。恐らく犯人は二十代から四十代、男性、もしくは力のある女性、老人の可能性もありますねぇ」
 俺は無言でテレビのスイッチを切った。やっとパソコンが起動したようだ。椅子に座り、検索をかける。
『殺人』   『仕方』  『歴史』
 そう、今回は偉人に学び過去の拷問をヒントに実行しようと考えた。色々出てくる。『頭蓋骨粉砕機』『苦悩の梨』『水攻め椅子』『鉄の処女』。しかし大掛かりな道具を使うものばかり。半ば諦めかけたそのとき。
『凌遅刑』。この言葉に興味が湧き、詳しく見てみる。
『清の時代に行われた刑罰。生身の人間の肉を少しずつ切り落とし、激しい苦痛を与えながら殺す刑罰』
 この説明を見たとき、偉人たちの偉大さを改めて感じた。この刑罰こそ『五人目』にふさわしい。早速明日にでも道具を買いに行くとしようか。


 今日は講義も休み。1日全部『五人目』準備に捧げるとしよう。足取りも軽く、スキップしそうな勢いで大型量販店の料理道具コーナへ向かった。
 たくさんの包丁に囲まれた俺は困惑していた。あまりにも包丁の量が多すぎる。訳もわからず店員に助けを求めた。
「すいません。肉を切る包丁はどれでしょうか? できるだけ丈夫なやつがいいのですが。」
「はい。それならばこの肉切り包丁はいかがでしょうか?名前の通りお肉用の包丁です」
「試し切りとかはできますか?」
「えっ!!いやそれは無理ですが......」
 まずい。うっかり聞いてしまった。ここには肉は置いていない。目の前にはあることはあるが。
「わかりました。それをもらいます」
 そう言って包丁を受け取った。
 次は刃物コーナーに行き、カッターの替刃をたくさんとサバイバルナイフをかごに入れ、タイラップも念のため買っておいた。これで道具は全て揃った。後は『五人目』だけだ。

 とりあえず車を走らせ『五人目』を探す。今時間はちょうど学生の下校時刻だ。人気のない道路を通っていると、高校生ぐらいの女の子がいた。身長は百五十センチ位、ショートカットでなんとなく唯に似ている。いわゆる元気っ子というやつだ
 俺は車を女の子の前に止めた。不思議そうにこちらを見たあと、車を避けるようにして歩いていく。俺は車を降りて、女の子に話しかけた。
「すいません、市役所へ行きたいのですが場所を教えて下さい」
 女の子は少し緊張しながらも、指を指しながら教えてくれた。
「この道を真っ直ぐ行って、左に曲がって...えっと......」
 結構複雑な場所にある市役所は口では説明しずらい。俺は計画通りに話を進めた。
「もし時間があるなら、助手席に乗って案内してくれませんか?」
 女の子は慌てながら、首を横に降った。
「知らない方の車に乗るのは危ないし......」
 俺は身分証を見せながら答えた。
「お願いします。俺も大学生なんですよ。同じ学生ですし、どうしても行かなければならないんです!」
 女の子は少し悩んだ様子だったが、結局折れた。
「......はい。市役所へ行ったらすぐ下ろして下さいね」
 そう言って『五人目』は車へ乗り込んだ。
「ありがとう。本当にありがとう」

 車に連れ込んだ後は簡単だった。乗った瞬間、車のドアをロックしてサバイバルナイフを突き付けた。
「騒いだら殺す。動いたら殺す。声を出したら殺す」
『五人目』は最初助けを呼ぼうと必死に叫んでいたが、叫んだ分だけナイフを脇腹に軽く刺すとおとなしくなった。せっかくの『五人目』が少し傷物になってしまった。残念だ。
 助手席で震えてながら必死に鳴き声をおし殺している『五人目』を乗せたままアパートに着いた。
「もし、逃げようとか叫ぼうとかしたら殺す。今ニュースにもなってるだろう。あれも俺だ」
『五人目』はぶるぶる震えながら頷いた。
 注意深く車を降り、『五人目』にナイフを突き付けた。周りから見ると俺と『五人目』が肩を仲良く組んでいるようにしか見えないはずだ。ナイフも服で隠れている。
 そのままアパートの部屋に入り、鍵をかけた。そのままキッチンに置いてあった椅子に『五人目』を座らせた。そしてまず椅子の手すりにタイラップで両手を固定した。次に椅子の前の方の足に『五人目』の足をタイラップで固定、最後に背もたれと腹を連結したタイラップで固定し、口に靴下を詰め、猿ぐつわを噛ませた。かわいそうなので靴下は新品だ。しかしこれでもう逃げられない。疲れた俺は安心して一眠りすることにした。

 半分眠りながら俺は考えていた。
 世の中の殺人のほぼ全ては『結果』の為に殺している。
 あいつがムカつく『から』殺す。
 お金が欲しい『から』殺す。
 男をとられた『から』殺す。
『殺す』事が目的であり、『殺す』為に『殺そうと』している。
 それではだめなのだ。『殺す』までの過程が全てなのだ。刺す。絞める。切る。刻む。抉る。潰す。傷つける。泣かす。蹴る。殴る。犯す。全てを堪能し、それを実行している時の感情を知り尽くし、殺す過程を経た結果、たまたま死んでしまったのだ。そして死んでしまった事に対しては何の価値も意味もない。そこに行き着くまでの過程が重要なのだ。
 俺は今四人の人間を殺している。そして気付いたのだ。『過程』こそ全て。今回の『五人目』は『過程』を知り尽くし、堪能する。今回は芸術性を極限まで高めた方法で殺そう。そう決めた。
 俺はゆっくりと起き上がり、『五人目』に近づいていった。
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