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四章 唯ちゃんの好きな人
『唯』真理
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俺は唯を気絶させ、車に乗せた後、実家へ戻っていた。
後部座席に力無く横たわっている唯をミラーで見たが、まだ気絶していた。いいかがん目を覚ましてくれないか。
俺はそう思いながら車を走らせる。早く俺の彼女を家族に紹介してやらないと。
俺は実家に着くと、車を止めた。四人も人がいるとは思えない程、静まり返っていた。
後部座席のドアを開け、眠っている唯を背負う。
「ただいまー」
俺は玄関のドアを開け、返事を待つ。いつもなら、葵の、
『お帰り! お兄ちゃん!』と元気の良い声が聞こえてくるはずなのだが、もう絶対に聞こえてくることは無い。
だって、俺が壊したからね。
俺は、葵を妊娠させたシーンを思い出す。本当に最高の光景だった。俺の作品の最高傑作になり得る作品だ。
俺は自分の部屋に入り、ベッドに気持ち良さそうに眠っている葵を床に引きずり下ろした。
生きている状態の葵が最高傑作なのであって、死んだ葵には何の芸術的価値も無い。ただの肉塊だ。
俺は肉塊を部屋のすみに押しやり、新しい素材をベッドに寝かせた。葵にしたように、唯の手足をベッドの柱に縛りつけた。大の字になった唯は、いまだ眠ったままだった。
俺は唯が起きるまで、残骸を処理することにした。父と母と葵の残骸を蔵の地下室に隠すことに決め、葵を担ぎ、蔵に入っていった。蔵の中は、先客が美味しそうな匂いを立ち上らせていた。肉は腐りかけが旨いと聞いたことがあったが、『五人目』はどうだろう。
俺は床の扉を開け、葵を投げ入れた後、風呂敷に包んでいた『五人目』を確認した。
『五人目』には、蛆虫が沸いていた。眼球からは、米粒のような白い蛆が幾つも這い出してきていた。
椅子に縛ったままの手足は黒く変色していた。これはとても食べられない。残念だ。しかし、
俺は腐りかけた『五人目』もまた、『芸術的』だと感じていた。これは初めての感情だった。
俺が殺した『五人目』の死体が、蛆虫の命を誕生させた。蛆虫はいずれ蝿となり、また死体に卵を産み付けるだろう。そして卵はかえり、蛆虫は蝿に成長する。
まさに生命の輪。そして俺の殺人行為が、命を誕生させたのだ。奪ったはずの命が、さらに沢山の命を誕生させていたのだ。
俺は感動していた。やはり殺人は善行なのだ。正確には、より多くの命を産み出す為の犠牲は善行なのだ。
よく、『命は皆平等』といわれる。まさにその通りなのではないか。俺は確かに人間を殺した。しかし、今ここには大量の命が誕生しているではないか。一つの命で沢山の命が誕生するならば、問題は何一つ無い。
俺はさらに考える。
それ以前に、人を殺してはいけないと誰が決めたのだ? 神か? いや違う。神は沢山の人間を殺している。『ノアの大洪水』でもほとんどの人類を殺していたではないか。ならば国家か? それも違うだろう。戦時中は、敵兵を殺すことこそ国の為になる正義だと言われてきた。法律で決められているから? ならば今まで死刑執行してきた役人は犯罪者か? 車を作った開発者は大量殺人鬼として裁かれるべきなのか?
そんな事はない。発想の根本が間違っているから答えが見つからないのだ。
『なぜ人を殺してはいけないのか』
ではなく
『なぜ人を生かしておかなくてはいけないのか』
と考えるべきだ。そして答えはすぐに出てくる。それは、
『人を生かしておく必要は特に無い』
だ。牛や豚よりも人間は大量に存在している。絶滅する恐れが無い以上、殺してはいけない理由など存在しないのだ。だから俺は殺すことにしたのだ。
俺は『五人目』を見ながら考えにふけっていた。殺人の真理が見えていた気がした。
しかし、と俺は考える。
まだ八人しか殺していないひよっこが、殺人をこれ以上理解した気になるのは傲慢というものだ。
これからまだまだ、たくさん人を殺していくだろう。その度にどんどん新しい発見をしていくはずだ。
まずは百人だ。それだけ殺せば、ほぼ完全に理解できるはずだ。その為には、目の前の殺人に集中しなければいけない。『千里の道も一歩から』だ。
俺は唯で学びたい気持ちで胸がいっぱいになった。今回のテーマは『焼死』。火加減はどうしようか。強火か弱火か。塩味か。タレで食べるか。悩み所はたくさんあるけれど、まずは一緒に遊ぼうかな。
後部座席に力無く横たわっている唯をミラーで見たが、まだ気絶していた。いいかがん目を覚ましてくれないか。
俺はそう思いながら車を走らせる。早く俺の彼女を家族に紹介してやらないと。
俺は実家に着くと、車を止めた。四人も人がいるとは思えない程、静まり返っていた。
後部座席のドアを開け、眠っている唯を背負う。
「ただいまー」
俺は玄関のドアを開け、返事を待つ。いつもなら、葵の、
『お帰り! お兄ちゃん!』と元気の良い声が聞こえてくるはずなのだが、もう絶対に聞こえてくることは無い。
だって、俺が壊したからね。
俺は、葵を妊娠させたシーンを思い出す。本当に最高の光景だった。俺の作品の最高傑作になり得る作品だ。
俺は自分の部屋に入り、ベッドに気持ち良さそうに眠っている葵を床に引きずり下ろした。
生きている状態の葵が最高傑作なのであって、死んだ葵には何の芸術的価値も無い。ただの肉塊だ。
俺は肉塊を部屋のすみに押しやり、新しい素材をベッドに寝かせた。葵にしたように、唯の手足をベッドの柱に縛りつけた。大の字になった唯は、いまだ眠ったままだった。
俺は唯が起きるまで、残骸を処理することにした。父と母と葵の残骸を蔵の地下室に隠すことに決め、葵を担ぎ、蔵に入っていった。蔵の中は、先客が美味しそうな匂いを立ち上らせていた。肉は腐りかけが旨いと聞いたことがあったが、『五人目』はどうだろう。
俺は床の扉を開け、葵を投げ入れた後、風呂敷に包んでいた『五人目』を確認した。
『五人目』には、蛆虫が沸いていた。眼球からは、米粒のような白い蛆が幾つも這い出してきていた。
椅子に縛ったままの手足は黒く変色していた。これはとても食べられない。残念だ。しかし、
俺は腐りかけた『五人目』もまた、『芸術的』だと感じていた。これは初めての感情だった。
俺が殺した『五人目』の死体が、蛆虫の命を誕生させた。蛆虫はいずれ蝿となり、また死体に卵を産み付けるだろう。そして卵はかえり、蛆虫は蝿に成長する。
まさに生命の輪。そして俺の殺人行為が、命を誕生させたのだ。奪ったはずの命が、さらに沢山の命を誕生させていたのだ。
俺は感動していた。やはり殺人は善行なのだ。正確には、より多くの命を産み出す為の犠牲は善行なのだ。
よく、『命は皆平等』といわれる。まさにその通りなのではないか。俺は確かに人間を殺した。しかし、今ここには大量の命が誕生しているではないか。一つの命で沢山の命が誕生するならば、問題は何一つ無い。
俺はさらに考える。
それ以前に、人を殺してはいけないと誰が決めたのだ? 神か? いや違う。神は沢山の人間を殺している。『ノアの大洪水』でもほとんどの人類を殺していたではないか。ならば国家か? それも違うだろう。戦時中は、敵兵を殺すことこそ国の為になる正義だと言われてきた。法律で決められているから? ならば今まで死刑執行してきた役人は犯罪者か? 車を作った開発者は大量殺人鬼として裁かれるべきなのか?
そんな事はない。発想の根本が間違っているから答えが見つからないのだ。
『なぜ人を殺してはいけないのか』
ではなく
『なぜ人を生かしておかなくてはいけないのか』
と考えるべきだ。そして答えはすぐに出てくる。それは、
『人を生かしておく必要は特に無い』
だ。牛や豚よりも人間は大量に存在している。絶滅する恐れが無い以上、殺してはいけない理由など存在しないのだ。だから俺は殺すことにしたのだ。
俺は『五人目』を見ながら考えにふけっていた。殺人の真理が見えていた気がした。
しかし、と俺は考える。
まだ八人しか殺していないひよっこが、殺人をこれ以上理解した気になるのは傲慢というものだ。
これからまだまだ、たくさん人を殺していくだろう。その度にどんどん新しい発見をしていくはずだ。
まずは百人だ。それだけ殺せば、ほぼ完全に理解できるはずだ。その為には、目の前の殺人に集中しなければいけない。『千里の道も一歩から』だ。
俺は唯で学びたい気持ちで胸がいっぱいになった。今回のテーマは『焼死』。火加減はどうしようか。強火か弱火か。塩味か。タレで食べるか。悩み所はたくさんあるけれど、まずは一緒に遊ぼうかな。
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