成長する殺人鬼1(完結)

一二の三太郎

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六章 被害者さんへのお手紙

『六人目』

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 母さんへ

  最近会っていないけど、元気にしていますか?
 俺は元気です。心配はいらないよ。
 そういえば、母さんはいっつもみんなの心配していたよね。
 お父さんの帰りが遅いと、時計をチラチラ確認しながら料理の準備をしていたっけ。それで、帰ってきたら嬉しそうに玄関まで出迎えていたよね。
 俺や葵にも、
『今日は寒いから暖かくしなさい』
 とか、
『今日は暑いから水筒を準備したよ』
 なんて言っていたよね。
 でも、俺も葵も鬱陶しそうに返事をするだけだったよね。
 親の心子知らず。
 でも、今はどれだけ子供達の事を気にかけていたか分かってるつもりだよ。
 大学に進学して独り暮らししていた時も、色々と栄養があるものを送ってくれたよね。ありがとう。
 口には出さないけど、感謝してたんだよ。
 だから。
 本当は殺す価値の無かった母さんも、家族と一緒に殺してあげたんだよ。今までの恩返しだね。
 だって、一人だけ生き残っても意味無いでしょ?
 俺は、葵を殺せれば後はどうでも良かったんだよ。女として終わっている母さんには、殺す魅力は無いからね。
 やっぱり初々しい未成年じゃなくっちゃ。
 もし人生をやり直せるなら、産婦人科の先生になりたいなあ。なんてね。冗談だよ。
 殺すなら、未熟であればあるほど良い。何も知らない分、殺で心を埋め尽くせるからね。
 母さんは恋愛もしているし、結婚も出産もしている。経験しすぎていたんだよ。どうしても殺人の感動が薄れてしまうよね。
 結果、『毒殺』してしまったんだ。芸術の欠片もない、ただの殺し。
 母さんは俺にではなく、毒に殺されたんだよ。
 まあ、いくら程度が低くても殺しは殺し。中々できない経験だとは思うから、恥じることは無いよ。
 母さんの事だから、
『葵には愛情をもって接したのに、母さんにはそうじゃ無かったのね』
 とか思っていそうだね。
 ちゃんと家族全員愛していたから、変な心配しなくて良いよ。俺はまだそっちに行けないけど、家族三人仲良く暮らしていてね。地面の下で。

 そうだ、母さんには言っていなかったんだけど、彼女ができたんだよ。
 俺にはもったいないくらいの良い子で、とても楽しくて愉しい子だったよ。
 そっちにいるはずだから、仲良くしていてね。
 言いたい事はまだあるけど、ここらへんでやめておくね。
 それじゃあ、頑張ってね。

 明弘





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