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「はぁ・・・はぁ・・・」
そんなに激しい運動をしたわけではないのに、心拍と息があがる。
狩猟中に獲物と遭遇して射掛けた時、緊張と興奮で春人はよくこうなる。
春人は次の獲物を求め、木々の間に視線を彷徨わせていた。
何匹落としたかな。7つは落としたはずだけど。
と考えながら、おそらく8つめになる成果を探していた時、
「お、おい、ハルト・・・」
控えめな呼びかけと共に、トン、と肩を少し叩かれ、春人はトリガーから指を離して首だけで振り返った。
「もう、いい。十分だ。キツネは十分減った」
「あ、あぁ、そうか。わかったよ」
あれほど威圧感のあったエルクが、なんとなく小さくなっていた。
「お前のその魔法の矢は恐ろしいモノだな・・・」
「・・・まあ、実際危険な物ではあるよ。だから少し離れて、みんなを背にしたんだ。矢先が向かなければ危なくないし。それは弓矢もこの世界にある魔法も一緒でしょ」
少し威勢の削がれたエルクは、見た目通りただの可愛らしい女の子だった。
「くれぐれも私たちには向けるなよ」
「勿論。それは銃を持つ人間全ての義務だからね」
「あと、煩すぎるぞ!お前の矢!今日狩るのは狐だけじゃないんだ!そんな音を立てたら他の獲物たちがいなくなるだろ!」
春人が銃を下ろしたのを見てふと我に帰ったのか、元の調子を取り戻したエルクが目を吊り上げて捲し立てた。
「うーん、経験上意外と大丈夫だと思うけどね。獲物撃ったすぐ近くの場所で別のやつが呑気にしてる事あるし。ここの動物がどうかはわかんないけど」
「今日獲物が獲れなかったらお前のせいだからな!」
エルクはそう言い残し、ビシッと踵を返してスタスタ行ってしまった。
「キツネを拾って早くこい!次は大物四つ脚を狩る。お前が仕留めるんだ。獲れなきゃ追放だからな!」
「はぁ、りょーかいですよー」
手厳しいエルクに段々と慣れてきた春人は、ため息をつきながら落とした獲物の回収に向かう。
エルクの言うように、もうキツネの気配は全くなくなっていた。
リュックから45リットルのゴミ袋を取り出して、討ち取った獲物を拾う。
食べないらしいのでとりあえず血抜きもせずにキツネを袋に入れる。確かに毛皮は上等そうだが、そんなに食べるところは無さそうだ。
実際手にしてみると、トビギツネは痩せて野性味のある小型犬と言った感じの生き物だった。
「まさかここでの初猟果が空飛ぶキツネとはね・・・」
自分で殺した命だ。食わないにしても、苦労して藪漕ぎしながら全部拾い集める。
回収したところ、数えた通り7匹落としていた。
落ちていた空薬莢も全部で7発分。
M1100の薬室と弾倉に1発ずつ残っていた弾を脱砲してポケットにしまい、他の皆と合流する。
「ハル、お疲れ様。すごいな君の弓矢は」
獲物の詰まっているであろうボロ袋を担いだターミンが労ってくれる。
その隣では足元に同じようなボロ袋を置いたサンバーが微動だにせず突っ立って春人を興味深げに見ているようだが、フードをすっぽり被っているせいで顔はほぼ見えない。
「遅い。日が高くなればなるほど獲物は山奥に行って出会いが少なくなる」
「7匹獲れた」
相変わらずのエルクをガン無視して、春人は獲物の入ったゴミ袋を足元に置いた。
「初めてのキツネ狩りで7匹。やるなハルト!。それにその透明の袋、すごいな。みせてくれないか」
春人にとってはただのありふれたビニールに過ぎないが、彼らには縫い目もない透明の袋は珍しいようだ。
「ふーん。ずいぶん薄いんだね。これはすごい。魔法の品かい?」
「いや、俺の世界ではビニール袋っていうありふれたただの袋だよ。欲しければまだたくさんあるから後であげるよ」
「いいのかい!頼むよ!イガリからも聞いてはいたけど、君の世界はやっぱり凄いところだな」
対人スキルの高いターミンのおかげで、ずっとピリピリしているエルク由来の居心地の悪さが紛れている春人であった。
そんなに激しい運動をしたわけではないのに、心拍と息があがる。
狩猟中に獲物と遭遇して射掛けた時、緊張と興奮で春人はよくこうなる。
春人は次の獲物を求め、木々の間に視線を彷徨わせていた。
何匹落としたかな。7つは落としたはずだけど。
と考えながら、おそらく8つめになる成果を探していた時、
「お、おい、ハルト・・・」
控えめな呼びかけと共に、トン、と肩を少し叩かれ、春人はトリガーから指を離して首だけで振り返った。
「もう、いい。十分だ。キツネは十分減った」
「あ、あぁ、そうか。わかったよ」
あれほど威圧感のあったエルクが、なんとなく小さくなっていた。
「お前のその魔法の矢は恐ろしいモノだな・・・」
「・・・まあ、実際危険な物ではあるよ。だから少し離れて、みんなを背にしたんだ。矢先が向かなければ危なくないし。それは弓矢もこの世界にある魔法も一緒でしょ」
少し威勢の削がれたエルクは、見た目通りただの可愛らしい女の子だった。
「くれぐれも私たちには向けるなよ」
「勿論。それは銃を持つ人間全ての義務だからね」
「あと、煩すぎるぞ!お前の矢!今日狩るのは狐だけじゃないんだ!そんな音を立てたら他の獲物たちがいなくなるだろ!」
春人が銃を下ろしたのを見てふと我に帰ったのか、元の調子を取り戻したエルクが目を吊り上げて捲し立てた。
「うーん、経験上意外と大丈夫だと思うけどね。獲物撃ったすぐ近くの場所で別のやつが呑気にしてる事あるし。ここの動物がどうかはわかんないけど」
「今日獲物が獲れなかったらお前のせいだからな!」
エルクはそう言い残し、ビシッと踵を返してスタスタ行ってしまった。
「キツネを拾って早くこい!次は大物四つ脚を狩る。お前が仕留めるんだ。獲れなきゃ追放だからな!」
「はぁ、りょーかいですよー」
手厳しいエルクに段々と慣れてきた春人は、ため息をつきながら落とした獲物の回収に向かう。
エルクの言うように、もうキツネの気配は全くなくなっていた。
リュックから45リットルのゴミ袋を取り出して、討ち取った獲物を拾う。
食べないらしいのでとりあえず血抜きもせずにキツネを袋に入れる。確かに毛皮は上等そうだが、そんなに食べるところは無さそうだ。
実際手にしてみると、トビギツネは痩せて野性味のある小型犬と言った感じの生き物だった。
「まさかここでの初猟果が空飛ぶキツネとはね・・・」
自分で殺した命だ。食わないにしても、苦労して藪漕ぎしながら全部拾い集める。
回収したところ、数えた通り7匹落としていた。
落ちていた空薬莢も全部で7発分。
M1100の薬室と弾倉に1発ずつ残っていた弾を脱砲してポケットにしまい、他の皆と合流する。
「ハル、お疲れ様。すごいな君の弓矢は」
獲物の詰まっているであろうボロ袋を担いだターミンが労ってくれる。
その隣では足元に同じようなボロ袋を置いたサンバーが微動だにせず突っ立って春人を興味深げに見ているようだが、フードをすっぽり被っているせいで顔はほぼ見えない。
「遅い。日が高くなればなるほど獲物は山奥に行って出会いが少なくなる」
「7匹獲れた」
相変わらずのエルクをガン無視して、春人は獲物の入ったゴミ袋を足元に置いた。
「初めてのキツネ狩りで7匹。やるなハルト!。それにその透明の袋、すごいな。みせてくれないか」
春人にとってはただのありふれたビニールに過ぎないが、彼らには縫い目もない透明の袋は珍しいようだ。
「ふーん。ずいぶん薄いんだね。これはすごい。魔法の品かい?」
「いや、俺の世界ではビニール袋っていうありふれたただの袋だよ。欲しければまだたくさんあるから後であげるよ」
「いいのかい!頼むよ!イガリからも聞いてはいたけど、君の世界はやっぱり凄いところだな」
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