22 / 23
21
しおりを挟む
「とりあえずさっさとバラそう。デカイし」
「ああ、そうだね。我々も手伝うよ」
そう言いながらターミンがさっとマントを脱ぎ、腰につけていた革の鞄から鹿角のグリップがついたシンプルなナイフを取り出した。
「ターミン。あまり手を出しすぎるな。解体も重要な技術だ。ハルトにやらせろ。私は観察させてもらう」
そう言いながらエルクは近くの木にもたれかかって腕を組み、早くしろと言いたげな目つきでハルトを睨め付ける。
2人の後ろにいたサンバーは、いつの間にか鹿の近くに行ってしゃがみ込んでいる。どうやら近くで見るらしい。
ターミンはエルクの指示に肩を竦め、
「すまないハル。必要最低限程度の手伝いはさせてもらうよ」
「しゃーないね。じゃあ始めよう」
春人はゴム手袋をつけ、普段から解体で使っているBUCKのハンティングナイフを手に鹿の解体に取り掛かる。
デカくても身体の作りはそんなに日本の鹿と変わらないだろう。
いつもどおり、鹿の胸骨の上に刃を入れて毛皮を切り裂き取っ掛かりを作る。
そこにガットフックを引っ掛けて腹の方に向けて皮を裂いていく。
春人の使うアイテムに興味津々そうにしつつも黙っていたターミンだったが、ガットフックの登場でかなりテンションが上がったようで、
「おお!それは便利な道具だね!今度使わせてもらいたい!」
「ああ、これは中身を傷つけないからいいよ。いくつか持ってるから戻ったら一つあげるね」
「いいのかい⁉︎いやあ嬉しいね!ハルが使う道具は他にも気になるものがありすぎる!今度時間がある時に色々みせてくれ」
「もちろんいいよ」
そんな会話をしていると、嗅ぎ慣れた臭気に鼻を突かれた。どうやら腹の中の臭いもニホンジカとほぼ変わらないようだ。
胃腸や膀胱を傷つけないようにお尻の方まで皮を裂いたら、今度は胸から喉にかけて皮を裂き、食道と気管を引っ張り出して結束バンドで胃の中身が漏れ出てこないように締め、ナイフで切断する。
それからが一番苦手な作業だ。切断した食道を引っ張って、胃、肺、心臓、肝臓、胆嚢、腸などの内臓を全てを引き摺り出すのだが、色んなところが筋膜でくっついている上に血塗れでどこがどうなってるのかわかりにくいし、血で滑るので刃物を扱うのも難しい。
引っ張っては膜を切ってを繰り返し、大凡の内臓を外したら今度は直腸の辺りを結束バンドで締め、糞が出てこないようにして肛門の内側で切断する。これで漸く全てが外れた。
ドゥルンっと鹿の中身を全て外に出し、そこからハツとレバーを外し、血抜きの切り込みを入れてからミニゲームバッグ替わりの出汁袋にしまう。
内臓を抜いてがらんどうになった胴体の中に溜まっていた血を捨てた時、血と一緒に潰れた鉛がコロッと出てきた。
おそらく一発目の弾頭だ。見るに、左前脚の付根辺りから入って肺を破壊して背中側の肋骨で止まっていたようだ。
しっかりバイタルに撃ち込んでいたのにあんなに動いていたとは驚きの生命力。
ターミンは気がつかなかったようなので、血塗れのままそっとポケットに仕舞い込んだ。なんとなく見せない方が良い気がした。
取り出した他の内臓をどうするか一応聞いたが、大きい鹿の肺と胃腸は食べないらしい。
今のところエルクが文句を言ってこないので、やり方は彼らの流儀からそんなに外れてもいないのだろう。
チラリとエルクを見やると割と興味深そうに見ているようではある。
「ハル、あまり時間がない。少し急ごう。エルク、皮剥くらいは手を出してもいいだろ?」
鹿の脚を持ったりちょっとしたサポートをしてくれているターミンが立ち上がって伸びをしながら言う。確かに少しづつ日が陰ってきてしまっていた。
「その程度なら好きにしたらいい」
「了解。じゃあハル、とりあえず吊り上げている前脚から頼むよ。僕は後脚からやる」
「オッケー。じゃあサクッと剥いちゃおう」
鹿の皮剥は春人の好きな作業だ。皮下脂肪の少ない鹿の皮は、最初の切れ込みさえ入れれば極端な話し素手でも剥ける。
まず人間で言うところの足首の関節の周りにグルッと一周切り込みを入れ、そこから脚の付け根に向けてナイフで皮を割いていく。
毛皮も取るらしいので出来るだけ丁寧に切り込みを入れて剥ぎ、片側の脚と背ロースを切り出し、吊っていたロープを外しても反対側も同じように剥皮して脚と背ロースを取る。
これで大切な所はほとんど終わりだ。普段なら後は内ロースを外して完了だが、ターミン曰く肋骨も背骨から外して持ち帰るとのことなので、首を切断し(頭もそのまま持ち帰るらしい)肋骨の付根をブッシュマンナイフと折畳みノコギリで落とした。彼らダークエルフ達はこの作業を短剣で行うようだ。
正直、獲物がデカい上に内臓と背骨を除いて全てバラして持ち帰るのはかなりの重労働である。
やっと解体が終わった時、森の中はすっかり暗くなっていた。
「ああ、そうだね。我々も手伝うよ」
そう言いながらターミンがさっとマントを脱ぎ、腰につけていた革の鞄から鹿角のグリップがついたシンプルなナイフを取り出した。
「ターミン。あまり手を出しすぎるな。解体も重要な技術だ。ハルトにやらせろ。私は観察させてもらう」
そう言いながらエルクは近くの木にもたれかかって腕を組み、早くしろと言いたげな目つきでハルトを睨め付ける。
2人の後ろにいたサンバーは、いつの間にか鹿の近くに行ってしゃがみ込んでいる。どうやら近くで見るらしい。
ターミンはエルクの指示に肩を竦め、
「すまないハル。必要最低限程度の手伝いはさせてもらうよ」
「しゃーないね。じゃあ始めよう」
春人はゴム手袋をつけ、普段から解体で使っているBUCKのハンティングナイフを手に鹿の解体に取り掛かる。
デカくても身体の作りはそんなに日本の鹿と変わらないだろう。
いつもどおり、鹿の胸骨の上に刃を入れて毛皮を切り裂き取っ掛かりを作る。
そこにガットフックを引っ掛けて腹の方に向けて皮を裂いていく。
春人の使うアイテムに興味津々そうにしつつも黙っていたターミンだったが、ガットフックの登場でかなりテンションが上がったようで、
「おお!それは便利な道具だね!今度使わせてもらいたい!」
「ああ、これは中身を傷つけないからいいよ。いくつか持ってるから戻ったら一つあげるね」
「いいのかい⁉︎いやあ嬉しいね!ハルが使う道具は他にも気になるものがありすぎる!今度時間がある時に色々みせてくれ」
「もちろんいいよ」
そんな会話をしていると、嗅ぎ慣れた臭気に鼻を突かれた。どうやら腹の中の臭いもニホンジカとほぼ変わらないようだ。
胃腸や膀胱を傷つけないようにお尻の方まで皮を裂いたら、今度は胸から喉にかけて皮を裂き、食道と気管を引っ張り出して結束バンドで胃の中身が漏れ出てこないように締め、ナイフで切断する。
それからが一番苦手な作業だ。切断した食道を引っ張って、胃、肺、心臓、肝臓、胆嚢、腸などの内臓を全てを引き摺り出すのだが、色んなところが筋膜でくっついている上に血塗れでどこがどうなってるのかわかりにくいし、血で滑るので刃物を扱うのも難しい。
引っ張っては膜を切ってを繰り返し、大凡の内臓を外したら今度は直腸の辺りを結束バンドで締め、糞が出てこないようにして肛門の内側で切断する。これで漸く全てが外れた。
ドゥルンっと鹿の中身を全て外に出し、そこからハツとレバーを外し、血抜きの切り込みを入れてからミニゲームバッグ替わりの出汁袋にしまう。
内臓を抜いてがらんどうになった胴体の中に溜まっていた血を捨てた時、血と一緒に潰れた鉛がコロッと出てきた。
おそらく一発目の弾頭だ。見るに、左前脚の付根辺りから入って肺を破壊して背中側の肋骨で止まっていたようだ。
しっかりバイタルに撃ち込んでいたのにあんなに動いていたとは驚きの生命力。
ターミンは気がつかなかったようなので、血塗れのままそっとポケットに仕舞い込んだ。なんとなく見せない方が良い気がした。
取り出した他の内臓をどうするか一応聞いたが、大きい鹿の肺と胃腸は食べないらしい。
今のところエルクが文句を言ってこないので、やり方は彼らの流儀からそんなに外れてもいないのだろう。
チラリとエルクを見やると割と興味深そうに見ているようではある。
「ハル、あまり時間がない。少し急ごう。エルク、皮剥くらいは手を出してもいいだろ?」
鹿の脚を持ったりちょっとしたサポートをしてくれているターミンが立ち上がって伸びをしながら言う。確かに少しづつ日が陰ってきてしまっていた。
「その程度なら好きにしたらいい」
「了解。じゃあハル、とりあえず吊り上げている前脚から頼むよ。僕は後脚からやる」
「オッケー。じゃあサクッと剥いちゃおう」
鹿の皮剥は春人の好きな作業だ。皮下脂肪の少ない鹿の皮は、最初の切れ込みさえ入れれば極端な話し素手でも剥ける。
まず人間で言うところの足首の関節の周りにグルッと一周切り込みを入れ、そこから脚の付け根に向けてナイフで皮を割いていく。
毛皮も取るらしいので出来るだけ丁寧に切り込みを入れて剥ぎ、片側の脚と背ロースを切り出し、吊っていたロープを外しても反対側も同じように剥皮して脚と背ロースを取る。
これで大切な所はほとんど終わりだ。普段なら後は内ロースを外して完了だが、ターミン曰く肋骨も背骨から外して持ち帰るとのことなので、首を切断し(頭もそのまま持ち帰るらしい)肋骨の付根をブッシュマンナイフと折畳みノコギリで落とした。彼らダークエルフ達はこの作業を短剣で行うようだ。
正直、獲物がデカい上に内臓と背骨を除いて全てバラして持ち帰るのはかなりの重労働である。
やっと解体が終わった時、森の中はすっかり暗くなっていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
備蓄スキルで異世界転移もナンノソノ
ちかず
ファンタジー
久しぶりの早帰りの金曜日の夜(但し、矢作基準)ラッキーの連続に浮かれた矢作の行った先は。
見た事のない空き地に1人。異世界だと気づかない矢作のした事は?
異世界アニメも見た事のない矢作が、自分のスキルに気づく日はいつ来るのだろうか。スキル【備蓄】で異世界に騒動を起こすもちょっぴりズレた矢作はそれに気づかずマイペースに頑張るお話。
鈍感な主人公が降り注ぐ困難もナンノソノとクリアしながら仲間を増やして居場所を作るまで。
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる