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課金令嬢はしかし傍観者でいたい
属性検査5
しおりを挟むコンコンコン。
「失礼します」
ノックの意味ないだろってくらいのタイミングでドアが開いた。こういう人って形だけで、最初からこちらの許可は求めていないんだろうな。
入ってきたのは……誰?見覚えのない男の人だ。初対面だから、もちろんどんな人か分からない。けど。それでも。私とは反りが合わないだろうということは本能で察知した。あのスンと澄ました顔。あれは拳じゃなく、口で語るタイプだ。
それにしても、なんだってこの世界はイケメンが多いんだろう。部屋に我が物顔で入ってきた男の人は、それはそれは端正な顔立ちだ。やっぱり恋愛ゲームのシステムが入ってるから、攻略対象者である人物はイケメンになってるのかしら。てことは、この人も攻略対象だよね、絶対。横目でちらりと盗み見る。
ロイが王道イケメンだとすれば、この人はクールメガネ枠だな。
……ネーミングセンスのなさは自覚してるからね、私。
あれだ、レンジャーならブルー、生徒会なら会長を支える副会長って感じの雰囲気。武闘派ではなく、完全に頭脳派だろう。この雰囲気で勉強ができなかったら、もはや詐欺と言えるレベルで知性が溢れている。
メガネの奥に光るアイスブルーの瞳は切れ長で、色のせいか感情が読み取れない。血色はあまり良くなく、色白というより青白い。絶対に低血圧。薄い唇からは、今にもペラペラときついセリフが出てきそうだ。前世で仲の良かった友人が好きそうなドSキャラクってやつだろうと、勝手に判断した。
「会長、よろしいでしょうか」
抑揚のない声は、ひんやりと冷気を感じるほどに無機質なものだった。
「すまないクイラックス、少し待ってくれるか」
会長と呼ばれたロイが待機を促すが、クイラックスと呼ばれた男が歩みを止めることはなかった。やっぱり副会長なのかよ、そしてロイ会長なのかよという驚きはさておき、ホント人の意見とタイミングは無視だなこいつ。クイラックスはちらり聖杯と魔方陣を見たあと、すぐにロイを見た。私とは目が合いませんでしたけど。ねぇ、私魔方陣のセンターに突っ立ってましたけど。
「属性検査ですか?そんなものより重要な話ですので、すぐにこちらへお願いします」
は?そんなもの?
1カチン
「待て、クイラックス」
「何でしょう。ただの一般生徒に目をかけている暇はございませんよ」
ただ一般生徒?ため息ついたな?
2カチン
「ただの生徒ではない、私の婚約者だよ。それに、生徒会は生徒を大切にしなければいけない。その言い方は改めるように」
「先日もお伝えした通り、契約で結ばれただけの婚約者に時間を割く必要はありません。無駄です。実力が全てのこの学園では、会長の婚約者だろうと親族だろうと、優先する理由などなく須く一般生徒と同等に扱うべきです」
契約で結ばれただけの婚約者?時間の無駄?
「はい来ました3カチンー!」
「マナリエル様!」
私の堪忍袋の緒が切れたと同時にナディアが制止した。ナディアにはキレるタイミングを把握されているようだ。目の前に立たれたおかげで、私の右手はクイラックスの胸ぐらを掴むことはなかった。
「なんだ、野生の猿でもいるのか。キーキーと甲高い声、で───」
悪態をつきながら私を見たクイラックス。やっと目が合ったよこの野郎。しかも猿とか言いやがって4カチンだぞ。てか、私よりもさらに猿な人がそこにいるだろうよ!マンドリル先生が!ほら、猿とかいうから、自分のことかと思って首かしげちゃってるじゃんマンドリルが!
こちらを見たクイラックスがさらに悪態をつくのかと身構えていたが、それは聞こえなかった。彼は何やら目を丸くして、固まっている。
「な、なによ」
私が警戒するような声を出すと、ハッと肩を揺らしてメガネの位置を正した。まさか本当に猿がいるとでも思ってたのか?いやいや、いるけどね、そこに。マンドリルが。
「ロイ、行ってきなよ。私マンド──ごほん、エンダー先生にさっきのこと詳しく聞きたいから時間かかるだろうし」
「え、でもやっとマナリエルに会え─「仕事の遅い男は嫌いだから」すぐ行こうクイラックス」
すぐ行くと言ったロイだけど、出口に向かわずに私に近付いてくる。
「じゃぁ、また後でね、マナリエル」
優しく微笑み、額にキスを落とした。そしてクイラックスを引き連れ、名残惜しげにこちらを見ながら、静かに部屋を出ていった。
さて、と。
くるりとエンダー先生を見る。
「詳しく教えてくれますか?さっきの炎について」
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