81歳の公開処刑クリスマス

ハクション中西

文字の大きさ
1 / 1

81歳の公開処刑クリスマス

しおりを挟む
ラジオの人生相談で「史上最もヤバい相談」「これ聴いた瞬間鳥肌立った」「放送事故レベル」とリスナーが総ざわした伝説の回、覚えてる人はいるだろうか。

忘れられない人生相談の中でも、僕の中で、燦然と輝くのが次のような相談だった。多分有名なやつだ。

『いつも、ラジオの人生相談のコーナーを楽しみにしています。僕の相談を聞いて、もしよろしければアドバイスをお願いできないでしょうか?僕は、女の子が「汗かいちゃった」と言った時に、「かいてかいて~」と返事をして、気持ち悪がられたことがあります。

ふざけたつもりだったんですが、気持ち悪かったということで、今では反省しています。

しかし、それは大学生の頃の話で、今、僕は81歳なのに、まだ周りからそのことをイジられます。

大学生の時に、「汗かいちゃった」に対して、一度だけ「かいてかいて~」と言っただけなのに、こんなにも言われるものなのでしょうか?

ちなみに、もうその女の子は去年亡くなりました。もういじられるのはイヤです』

もうこのハガキの段階でかなり面白いのだが、そこからの電話相談がまた空気感がすごかった。

「もしもし、ラジオ人生相談のコーナーの片岡です。佐々木さんですか?」「あー、もしもし、そうです」「えーと、おハガキ読ませていただきました」「あー、どうも。いや、お恥ずかしいんですけども、昔のことを、もう反省してるのに、まだ言われるんですよ」「今、ちなみに81歳ということですよね?」

「あ、えーと、実は今日、誕生日ですので、えーと、82歳になります」「あー、そうですかあ。それはおめでとうございます。で、なんで、そんなこと言ったんですか?」「いや、それは、ホントに若気の至りで、可愛らしい女の子で、みんなが好きな雰囲気の子だったんですね。それで、『汗かいちゃった』って言うもんですからね」「えーと、それが気持ち悪いってことはわかりますか?」

「はい。もう、今は、わかってます」「じゃあ、なんでそんなことを言ったんですか?」「いやー、ちょっとふざけて言ったんですよ。それを、もう82歳になるのに、まだ言われるんですよ。周りの友だちから」「なんで、周りはまだ言ってくると思いますか?」

「いやー、ちょっと私が嫌がるリアクションが面白いんじゃないかなと思ってます。ただ、私としては、もう、82歳なんで、大学生のころ、一回だけ言ったことを、いつまでも言われるのは厳しくて」「でも、言ったんですよね?『汗かいちゃった』にたいして『かいてかいて~』って。どんな感じの言い方だったんですか?ちょっと今、やってもらっていいですか?」

「いや、でも、それは…。昔のことですしね」「向こうにとっては、昔のことじゃなかったのかもしれませんよ」「…」「じゃあ、私が、一応ね、その方より美しくないかもきれませんけども、女性なんで、『汗かいちゃった』って言いますから、どんな感じで言ったのか、やってみてもらえますか?」

「いやー、ちょっとそれは」「いや、それをやってもらわないと、周りがなぜイジってくるか、わからないですから。ちゃんと正直に、その時の言い方で、やってくださいね。誕生日に嘘つきたくないでしょう?」

僕はとても勉強が手につかなくなった。このおじいさん、まだ詰められてる!!!

「えーと、じゃあ、できるだけその時の言い方をします」「はい。詳しい状況も教えてください」「えーと、大学生四人で、ワゴンを借りて、旅行した時のことなんです。暑い夏が続いてましたから、避暑地の軽井沢に行こう、となりまして」

「それで、どこで、そのシチュエーションになったんですか?」「えー、軽井沢で、バドミントンをして遊んだんですね。みんなで。その時に、僕とその女の子がペアだったんです」「なるほど、続けてください」「で、バドミントンで僕らのチームが勝ったんです。その時に『イェーイ、勝ったね』って私が言いました」

「続けてください」「はい、えーと、そしたらその子が『汗かいちゃった』って言ったんで、そこからそうなりました」「わかりました。じゃあ、あなたのセリフの『イェーイ、勝ったね』からやってください。どんなニュアンスで言ったのか、知りたいので」「うーん、そんなんしたくないんですよ。わたしはね、いつまでも、ひきずられるのがイヤで、相談したいんですよ」

「いや、だからこそ、あなたの味方をするために、必要なんです。どんな感じか知る必要がありますよ。もう、引き下がれないですよ?これは、あなたが始めた物語です。走りだした物語はもう止まらないんです」

「う、う、う(泣)」

おじいさんが泣かされてるのを聞いて、僕は完全に勉強の道具を全部片付けた。そして、ユンケルをグビグビと飲み干した。

「では、やりましょう。あなたから、です」「う、う(泣)、イェーイ、勝ったね。う(泣)」「汗、かいちゃった」「かいて、かいて~(泣)」

「いや、そんなんじゃなかったはず!もっと気持ち悪かったはず!!まずは泣き止んでください!」

もっと気持ち悪かったはず、ってなんやねん。僕は、“学校の勉強よりも大切なものがある、このラジオだ!”と思いながら、ゲラゲラ笑っていた。

「あの、も、もういいです!こんな人生相談!バカにしてるだけじゃないですか!」「あっ!!」

プープー、という電話の切断音が流れていた。

【追いかけろ!!そのジジイを逃がすな!そいつを中途半端に逃したら、また同じことをやるぞ!!!!】

僕は番組あてにこんなメールを急いで送った。

パーソナリティの女は、電話を切られたあと、リスナーに向けて、こう言った。

「リスナーのみなさん、大丈夫です。カチカチ山のタヌキを逃がしはしません」

カチカチ山のタヌキ?こいつ、ジジイの味方する気ゼロやないか!いいぞ!もっと追い詰めろ!!

僕は興奮して、ユンケルをもう1本飲んだ。

電話のコール音が鳴り響く。

ガチャという音がしてから、すぐにプープーという切断音にまた変わった。

「あくまでも電話に出ないつもりみたいですが、おじいさん、このラジオはまだ聴いてるだろう!!!自分がそのあと、なんて言われてるか、気になるのが人間というやつだからね!!!!お前の送ってきたハガキに、ご丁寧に住所が書いてあった!!!!そして本名もな!!!私は、お前が電話に出ないなら、住所と本名をバラす!!!!電話に出るんだ!!!!!!」

いいぞ。もう“お前”って言っている。すごい!!勉強なんかしてられるか!俺はこれを聴くために生まれてきたんだ!!このジジイは、このラジオを聴かせるために生まれてきたんだ!このラジオに電話出演するまでのジジイは、お腹の中にいたようなもんだ!!!!

82歳ではなく、今日はお前の0歳の誕生日なのだ!!!!

パーソナリティの女が電話をまたかけている。「カモーン、出てこいよ、こねこちゃーーん」

タヌキなのか子猫なのかどっちなんだ。どっちにしろ、この女はトチ狂っている。

「はい、もしもし。何回もかけないでくださいよ。それになんですか!!誕生日に、住所と本名をさらすって!!」「いいですか?わたしはあなたの味方になりたい!だから、わたしには嘘をつかないでください。あとから振り返った時に、最高の誕生日になります!!!」

「わ、わたしは、一体、何をすれば」「続きからです。あなたが、『イェーイ、勝ったね』と言うところから、です」「どうしても、そこをそんなにリアルに再現しないと、いけないんですか?」「早く、してください!!」

「ふぅーーーー…。イェーイ!勝ったね!!」「でも、汗、かいちゃった」「えへへへー、かいてかいて~」「きもっ!」

僕はラジオの前で爆笑していた。きもっ、て言われている!!こんなにもおじいさんなのに!!!!

「きもい、とかひどくないですか!?」「いや、ひどいのはあなたです。もっと気持ち悪かったはず!!本気で、ちゃんと再現してください!」

それから、何度も何度もこのやりとりが続いた。おじいさんは、住所をさらされるのを恐れたのか、どんどんどんどん殻が破けていった。

take25「汗、かいちゃった…」「えへへへへ。かいてかいて~。におわしてにおわして~」

take 56「汗、かいちゃった…」「うひょーっ!かいてかいて~!飲ませて飲ませて~」

take165「汗、かいちゃった…」「うひひひーっ!!!汗、かいてかいて~!かいてかいて~!!それをボクちんちんが、ゴックンゴックン飲む方向性でオッケー?」

その時、女性リスナーは叫んだ。「気持ち悪いんじゃあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

すごいラジオだ。お菓子のスポンサーがついているとは思えない。

おじいさんは黙りこくっていた。そして、絞り出すようにこう言った。

「これで、味方、、してくれるんですよね」

まるで、脅迫されていた人間が「本当にもう今回のお金で、最後にしてくれるんですよね?」と聞いている時のような真剣さだった。

僕は胸が締め付けられるような思いがした。このおじいさんは、味方をしてもらえると信じて、ここまで頑張ってきたのだ。

女性リスナーは声を詰まらせながら、こう答えた。「あなたは、本当によく頑張りました。でも、味方は、、できない。わたしだって、つらい!お願い!わかって!気持ち悪いの!」「そ、そんな、そんな!!」

僕はラジオを前に泣いていた。あまりにもおじいさんがかわいそうである。

「わたしだって、味方してあげたい。でも、あなたは、これから、死ぬまで、イジられる。だって、気持ち悪いんだもん!!」「わたしの、実際のセリフは、あそこまで気持ち悪くなかった!!でも、アンタに気に入られようと、思って、もう、実際よりも、ひどく変態みたいな言い方と、表現に変えたんだ!!!!!」

パーソナリティの女は泣いていた。

「分かってる!!でも、それが気持ち悪いの!!それが、気持ち悪いの!!」「わたしは、、、気持ち悪い、、のか?」

僕は飽きてきた。いつまで続くねん、これ。

「そろそろ、リスナーが飽きてきたと思うの。わたしは、ここで、あなたの住所と本名を、さらします!!あなたの住所と、名前をさらすこの番組は、ブルボン!!松下電気!!タニタの提供でお送りします」

この女は今日で辞めるつもりなんだ。僕は全てを理解した。俺も、大学を辞めよう。このヤケクソパワーを見せつけられたら、影響を受けない人間なんていない。

そのあと、女パーソナリティは、おじいさんの本名と住所をさらし、「緊張して、本当に汗をかいちゃった!」と叫び、おじいさんは、それにたいして、「かいてかいて~」とまるで調教された犬のように、叫んだ。

クリスマスの日の出来事でした。

キリストと同じ日に、生まれとんかーい。

メリークリスマス。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

処理中です...