【完結】この出会いはきっと偶然じゃなかった

風見ゆうみ

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25 元夫の懇願 ②

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 私が混乱していたからか、顧問弁護士は手続きについては、また日を改めて伺うと言って去っていった。

「アーバネットにも連絡はしているだろう。危険だし、しばらくは宿の中から出ないようにしたほうがいいね」

 一緒に話を聞いてくれていたセオドア様が苦笑して言った。

「かといって、いつまでもここにいるわけにはいきません。それに私が伯爵だなんて!」
「それだけ先代のノボウ伯爵が、息子に失望していたんじゃないかな。息子も可愛いだろうが、君への感謝の気持ちのほうが強いんだろう」
「私はやるべきことをしただけです。先代の伯爵夫妻に仕えたのだって、お金目的だったんですよ!」
「仕事ってそうじゃないの? お金をもらわずに何かするのなら、ボランティアだろう?」
 
 きょとんとした表情で聞き返されてしまった。

「給金が少なくても、やりがいや夢だったことを職業にする人だっています。私の場合は」
「家族の借金を返すためだろう? 借金取りがよく来ていたと聞いているよ。怯える生活を送っていたんじゃ、お金が欲しくて当然だよ」

 昔のことが脳裏に浮かんできた。

 屋敷の外から聞こえる罵声や、扉が乱暴に叩かれる音。あの時の恐怖を思い出して体が震えた。

 セオドア様はそんな私の顔を覗き込んで苦笑する。

「僕は一応王子なんだ。関わる人のことは調べないと駄目なんだよ。君に許可なく調べてごめんね」
「素性を調査するのは当たり前です。謝らないでくださいませ」

 逆に調べていないほうがおかしいもの。

「ならいいけど、顔色が悪いようにも見える」
「……今回の爵位の件で驚いてしまっただけです」

 セオドア様はしばし私を見つめたあと、ハッした顔になって慌てて謝罪する。

「……ごめん! 昔、かなり嫌な思いをしたんだよね。思い出させて本当にごめん。配慮が足りなかった」
「いいんです。本当に気になさらないでください!」

 私が爵位をもらったなんてわかれば、家族は私に接触しようとしてくるに違いない。手紙にはサポートする人を付けてくれると書いていたから、その人に相談しながらやっていくしかないわ。
 覚悟を決めなくちゃ。

「話を聞いた以上、知らんぷりなんてできないから、僕もできる限りのことはするよ」
「ありがとうございます。そう言ってくださるだけで、私には十分です」

 セオドア様だってお兄様の件があって、かなり忙しいはずだ。私に気を取られている暇はない。

「まずはサポートをしてくれるという人と会ってみようと思います。きっと、顧問弁護士は相手が誰だか知っているでしょうし」
「離婚の話は連絡が入っているだろうから、きっとサポート役の人から連絡があるだろう」

 セオドア様が頷いた時、外が急に騒がしくなった。セオドア様と一緒に窓から外を見てみると、人の往来が激しい通りの真ん中で、男性が倒れていた。

「何があったんでしょう」
「……詳しくはわからないけど、あの男、アーバネットじゃないかな」
「え?」

 目を凝らして見てみると、倒れていた男性は起き上がって、宿の警備をしている兵士に訴える。

「ルファラに会わせてくれ! ここにいることはわかっているんだ! 彼女に会って許しを請わない限り、私の人生は終わりなんだよ!」

 顔ははっきりとは見えないが、体形や雰囲気、声色、私のことを話題に出したことから、男性がアーバネット様だと判断した。
 少し離れたところで、先ほどまでここにいた、弁護士が立っているのも見える。

 呆れてしまって止める気にもならないみたいね。

「往生際が悪いな」

 セオドア様は呟くと、私を促す。

「彼のことよりもこれからのことを考えたほうがいい。あまりにもしつこいようなら、宿側が治安を守る騎士隊に連絡をして、彼を捕まえると思うよ」
「そうですね。アーバネット様は事前にご両親から離婚した時のことを聞いていたようですし、それを忘れて、ロロミナ様に夢中になったんです。この事態を招いたのはアーバネット様ですから、今さら後悔されても知りません」

 アーバネット様は近い内に、今住んでいる家を追い出されるでしょう。

 ロロミナ様とアリドはどうするつもりなんだろうか。

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