あなたに言われても心に響きません!

風見ゆうみ

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44 私の心には響かない

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 ドクウサが念話ができなくなったのは、首から上がなくなってしまったかららしい。ただ、動けてはいるようなので、力を失ったわけではなさそうだ。

 ぬいぐるみが動くだけでもホラーだったのに、首から上がないと余計に怖い。

「人の不幸を楽しんでいるのはあなただけでしょう! わたくしをあなたと一緒にしないでちょうだい!」
「私は別に人の不幸を楽しんでなんていません」

 ノロワザルの姿が見えないので、ジュネコたちに目を向けると、ドクウサの後ろからノロワザルが現れた。
 そして、レレール様の肩の上に飛んでくると『よくもやってくれたなぁ……』と低い声で話しかけた。

「ひいっ!」

 レレール様はノロワザルを振り払おうとしたが、ノロワザルは彼女の手を見事に交わし続けた。結果、体力が尽きたレレール様は私に泣きついてくる。

「どうしたらあなたは納得すると言うんですの!? このままでは公爵家は終わりですわ! わたくしの輝く場が無くなってしまうではないですか!」
「あなたが悪いことを考えなければ良かっただけです」
「わたくしは何も悪いことなど考えていません! わたくしは優れている! だからこそ、ほしいものは全て自分のものにしても良いのです! 悪いのは奪われるほうですわ!」

 レレール様は他の人が近くにいることなど気にせずに泣き叫ぶ。

「悔しいのなら奪い返せばいいのです! それができないくせに被害者ぶるなんて、ただの無能です!」
「レレール様、誰かから何かを奪うということはやってはいけない行為です」
「それは奪われた側が言う言い訳ですわ! あなただって魔道具を作れなければ、ただの負け犬! 惨めな思いをしたくなければ、わたくしに媚びておけば良かっただけなのです!」

 ただの負け犬。人によっては私のことをそう思うのでしょう。
 私は私なりに精一杯生きている。レレール様にどうこう言われたくはない。

「あなたに負け犬と言われても心に響きません。だって、私は自分のことをそうだとは思っていませんから」
「日陰に生きて、人を不幸にする人生の何が良いと言うんですの!?」
「あなたには日陰に見えても、私にとっては私のいるところが日の当たる場所です。それに、何度も言いますが、私はあなたみたいに人の不幸を望んでません」

 人の不幸は蜜の味とも言うけれど、人を不幸にすることはやって良いことではない。
 そんなことは誰かに言われなくてもわかっている。

「優れているわたくしがもっとチヤホヤされたいと思って何が悪いんですの!?」
「チヤホヤされたいと思うことを悪いとは思っていません。あなたはやり方を間違えたのです」
「わたくしは間違っていませんわ!」

 往生際が悪いレレール様に、ジェイクが話しかける。

「レレール様、あなたも公爵家ももう終わりです」
「……え?」
「これだけ大勢の前であなた自身が、自分の本音を暴露したのです。あなたのワガママのせいで、多くの人の人生が狂わされました。そして、それは王家の耳にも入っています」
「……そ、そんな」

 レレール様はこの時になって、周りに人がいることを思い出したようだった。

「じょ……、冗談よ。わたくしはその……っ、この人に脅されてっ!」

 私を指差して信者に訴えたレレール様だったが、信者たちの心には響かなかった。ひとり、またひとりと彼女から離れていくと、彼女の目から大粒の涙がこぼれた。

「そんな……っ、どうして? わたくしのことを美しいと思っていたんじゃないの!? そんなに簡単に見捨てられるものなの!?」

 去っていく人たちの背中にレレール様は訴えたが、誰ひとり振り返ることはなかった。

「……婚約者を奪われた女性の気持ちがわかりましたか?」
  
 泣き崩れたレレール様に尋ねると、答えは返ってこなかったが、肯定するかのように、嗚咽をあげて泣き始めたのだった。


******

 結局、ノブス公爵家はレレール様を制御できず、多くの人に迷惑をかけたという理由で伯爵に降格した。剥奪にならなかったのは、レレール様の兄がまだまともだったから彼に継がせるためだった。

 現在、レレール様は新たに爵位を継いだ兄の命令で、両親と共に田舎で農作業をしているそうだ。
 傷つけられた心の痛みは理解できたが、まだ目立ちたいという気持ちは抑えられず、魔道具の扇を使っているそうだ。
 ただ、彼女の周りの人間からはチヤホヤされるというよりかはドン引きされているらしい。

 レレール教の信者だった人たちは憑き物がとれたかのように、今までの行動を反省し、婚約者とよりを戻した人もいるそうだが、多くは受け入れてもらえず、肩身の狭い思いをしながら生活している。
 ジェイクの兄のエイフィック様も謝っては来たけれど、ジェイクたちが許すことはなかったため、ココナ様と二人で平民生活を送っている。

 首から上がなくなり話ができなくなっていたドクウサは、新しい顔をつけてもらい、今まで通り、元気に話せるようになった。

『レレール様はぁ、最後の最後まで悪い人でしたねぇ!』

 今は過去の話をするくらいで終わっているが、ドクウサをレンタルさせてほしいという人があとを絶たないので、近いうちに魔道具を販売する店ではなく、レンタルする店を作ることに決めた。

 顧客の人となりがわかるまでは、借りたまま逃げられないように、ノロワザルやクマリーノを同時に持っていかせて、盗難を防止する。

 領地内ではジャネコやヒメネコも、必要な時は相手がどこにいるかわかるようにするつもりだ。

 地道に魔道具を売ってお金を貯め、詰め所近くの一等地に店を構えられることになった。現在はまだ更地の土地を眺めながら、ここに来た時のことを考えていると、ジェイクが話しかけてきた。

「レンタル魔道具屋が軌道に乗ったら、両親はリリーのことを俺の婚約者だって発表したいみたいなんだけど、どうかな」
「かまわないけど、お店が流行るかはまだわからないわ」
「絶対に流行ると思う。それにこれからも不思議な魔道具を生み出していくんだろ? それならみんな借りに来るはずだ」
「……そうね」

 ジェイクの婚約者になったら、また色々とうるさいことをいう人が現れそうだ。
 私のことを傷つけたくて嫌なことを言う人もいるでしょう。
 でも、そんな人の言葉なんて私の心には響かない。

 他人にわざと迷惑をかけることは良くないが、私の周りにいる大切な人たちを幸せにするためにも、私は私の道を行く。

「頑張るわよ!」

 眩しい太陽に向かって、両手を伸ばして叫んだ。

 心無い言葉を受けたとしても、私を好きでいてくれるジェイクや弟や魔道具たち、私を支えてくれるみんなのために、私は私らしく生きていこうと思った。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

最後まで読んでいただきありがとうございました。
少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。
そして、新作「この出会いはきっと偶然じゃなかった」を投稿しておりますので、そちらでお会いできますと幸せです。



あとがきにお付き合いくださる方は、下にスクロールをお願いします。










読んでいただきありがとうございます!

今回、魔道具たちがとても好評で嬉しかったです。
そして、もっと魔道具たちを書きたかったなあという気持ちもあります。

本当はもっと長く書くつもりで、最後のお話の続きも書いていくはず……だったのですが、ダラダラ続いていると思われても嫌だなと思い、今回で完結にいたしました。

他サイトさんに転載することがありましたら、ぼちぼち続きを書いていくかもしれません。

よろしければ新作の「この出会いはきっと偶然じゃなかった」も読んでいただけますと嬉しいです。

この話は最初は胸糞ですが、ヒーローが出ましたら、展開はかなり変わってきます。
幸せを掴もうとするヒロインたちを応援してやっていただけますと幸いです。
そして、相変わらず元サヤではありません。


長々と書いてしまいましたが、最後までお読みいただき本当にありがとうございました。
感想、お気に入り登録、しおり、いいねも励みになりました。
ありがとうございました!

また他の作品でお会いできますと幸いです。


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感想 177

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みんなの感想(177件)

lilyan
2025.04.22 lilyan
ネタバレ含む
2025.04.22 風見ゆうみ

一気読みしていただけたとのことでありがとうございます✨

笑っていただけたとのことで本当に嬉しいです!

最後までお読みいただきありがとうございました✨

解除
rujin
2025.04.21 rujin
ネタバレ含む
2025.04.22 風見ゆうみ

ねぎらいのお言葉をありがとうございます。

魔道具レンタル!
始めておられるのはすごいです(´∀`*)ウフフ
魔道具の性格とか口調ですか。
その辺についてはスピンオフみたいなもので書けたら良いなと思っております。

最後までお読みいただきありがとうございました✨

解除
にゃあん
2025.04.21 にゃあん
ネタバレ含む
2025.04.22 風見ゆうみ

感想をありがとうございます。

シルバートレイ、そうですよね!
自我が芽生えてもおかしくないです(´∀`*)ウフフ

最後までお読みいただきありがとうございました✨

解除

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