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しおりを挟む「栗原?栗原?…おい大丈夫か?」
最近あまり眠れないせいか、昼間うとうとしてしまうことがある。
気を付けないとな…と思いつつ、パソコンに向き直って再びプログラムを入力し始める。
「仙川、起こしてくれてサンキューな」
仙川は、あの事件の少し後に俺が前の会社からヘッドハントした。
優秀な営業マンを沈む泥船に乗せたままでいる必要はないから。
それに、今はどこの会社も人材不足だ。人となり・力量を知っているなら買いに走るのは当然だと思う。
「おまえさ、眠れてないんだろ?及川さんそんなに悪いのか?」
小声で聞いてきたので、周囲に言っていない事は何となく察してくれていたらしい。
けど…今の及川さんの状態はあまりいいものではない。
本当に心配してくれているのは分かっているのだが、言葉に出してしまうと本当にそうなってしまう気がして、なんとなくごまかしてしまった。
「色々と心配かけてすまんな。なんだかんだ忙しくて、こっちに移ってきてもらいながら、なかなか一緒に仕事できなくて…」
謝りながらも、頭の中は及川さんのことだらけだ。
仙川には申し訳ないけれど、今は少しそっとしておいて欲しくて、及川さんの事についてはそれっきり口を噤んだ。
●○●○
「いつもご苦労様」
担当の看護師にねぎらいの言葉を掛けられ、微妙な気持ちで及川さんの病室に向かう。
先々週、集中治療室から一般病棟に移った。
治療上のこともあり、小さいながら個室を使わせてもらっているが、もう少し様子をみて、変わりがないようなら在宅治療に切り替えて欲しいと病院から言われている。
「さくら…さん?退院したら、俺のマンションに来てもらおうかと思っているんだけど、いいかな?会社の寮の部屋はもう無いんだ。ごめんね」
反応のない及川さんにひたすら話しかける日々。
焦らない…そう思うけれど、時々色々なモノに負けそうになってしまう。
目が覚めた時、色々言い訳聞いてくれるかな?
泣きそうになりながら、今日もマンションへ帰ろうかと思った時、茂みの方から猫の鳴き声が聞こえて、思わず過剰に反応してしまった。
「サクラか?……サクラ…サクラだぁ。お前どこ行ってたんだよ~」
茂みに佇む三毛猫……サクラを見て、思わず駆け寄る。
逃げないのを確認してそっと手を出すと、スリスリと頬ずりするサクラに気が緩む。
そっか…俺、誰かに傍にいて欲しかったんだ……
自分で思った言葉が、すとんと心に落ちる。
思わずサクラを抱き頬ずりする。
傍から見たら、三毛猫に頬ずりして涙ぐむ滑稽な男に見えるだろうけど…純粋に嬉しかった俺は、そんなことも気にせずサクラとの再会を喜んだ。
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