夢見るネコの私とあなた

こひな

文字の大きさ
17 / 39

17

しおりを挟む



「栗原?栗原?…おい大丈夫か?」


最近あまり眠れないせいか、昼間うとうとしてしまうことがある。
気を付けないとな…と思いつつ、パソコンに向き直って再びプログラムを入力し始める。


「仙川、起こしてくれてサンキューな」


仙川は、あの事件の少し後に俺が前の会社からヘッドハントした。
優秀な営業マンを沈む泥船に乗せたままでいる必要はないから。
それに、今はどこの会社も人材不足だ。人となり・力量を知っているなら買いに走るのは当然だと思う。


「おまえさ、眠れてないんだろ?及川さんそんなに悪いのか?」


小声で聞いてきたので、周囲に言っていない事は何となく察してくれていたらしい。
けど…今の及川さんの状態はあまりいいものではない。
本当に心配してくれているのは分かっているのだが、言葉に出してしまうと本当にそうなってしまう気がして、なんとなくごまかしてしまった。


「色々と心配かけてすまんな。なんだかんだ忙しくて、こっちに移ってきてもらいながら、なかなか一緒に仕事できなくて…」


謝りながらも、頭の中は及川さんのことだらけだ。
仙川には申し訳ないけれど、今は少しそっとしておいて欲しくて、及川さんの事についてはそれっきり口を噤んだ。



●○●○


「いつもご苦労様」


担当の看護師にねぎらいの言葉を掛けられ、微妙な気持ちで及川さんの病室に向かう。
先々週、集中治療室から一般病棟に移った。
治療上のこともあり、小さいながら個室を使わせてもらっているが、もう少し様子をみて、変わりがないようなら在宅治療に切り替えて欲しいと病院から言われている。


「さくら…さん?退院したら、俺のマンションに来てもらおうかと思っているんだけど、いいかな?会社の寮の部屋はもう無いんだ。ごめんね」


反応のない及川さんにひたすら話しかける日々。
焦らない…そう思うけれど、時々色々なモノに負けそうになってしまう。
目が覚めた時、色々言い訳聞いてくれるかな?
泣きそうになりながら、今日もマンションへ帰ろうかと思った時、茂みの方から猫の鳴き声が聞こえて、思わず過剰に反応してしまった。


「サクラか?……サクラ…サクラだぁ。お前どこ行ってたんだよ~」


茂みに佇む三毛猫……サクラを見て、思わず駆け寄る。
逃げないのを確認してそっと手を出すと、スリスリと頬ずりするサクラに気が緩む。


そっか…俺、誰かに傍にいて欲しかったんだ……


自分で思った言葉が、すとんと心に落ちる。
思わずサクラを抱き頬ずりする。


傍から見たら、三毛猫に頬ずりして涙ぐむ滑稽な男に見えるだろうけど…純粋に嬉しかった俺は、そんなことも気にせずサクラとの再会を喜んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

罪悪と愛情

暦海
恋愛
 地元の家電メーカー・天の香具山に勤務する20代後半の男性・古城真織は幼い頃に両親を亡くし、それ以降は父方の祖父母に預けられ日々を過ごしてきた。  だけど、祖父母は両親の残した遺産を目当てに真織を引き取ったに過ぎず、真織のことは最低限の衣食を与えるだけでそれ以外は基本的に放置。祖父母が自身を疎ましく思っていることを知っていた真織は、高校卒業と共に就職し祖父母の元を離れる。業務上などの必要なやり取り以外では基本的に人と関わらないので友人のような存在もいない真織だったが、どうしてかそんな彼に積極的に接する後輩が一人。その後輩とは、頗る優秀かつ息を呑むほどの美少女である降宮蒔乃で――

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

処理中です...