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29、マリーさんは行く
しおりを挟むお嬢様が王都のお屋敷からいなくなった。
あの日、私に時間が欲しいと訴えたお嬢様。
一応それとなく、他の監視の目を緩くなるようには仕向けたけれど、こうもきれいさっぱりいなくなるとは思わなかった。
「全く!貴方達、あの子をちゃんと監視していたの?」
お嬢様の所在が分からなくなり半月。
何度聞いても変わらないというのに、今日もヒステリックに叫ぶように怒鳴る奥様。
私達の答えはあの日から変わらず『食事はいらないといってお部屋に入った後は出入りは全くなく、翌朝お部屋に行ったらすでにいなくなっていた』という報告だ。
当然ながら私の監視以外にも、屋敷の出入りも監視されていたけれど、その日は人の出入りさえもなかった。
『この約立たず!お前はもういいわ、クビよクビっ!!』
しばらくお嬢様の行っていたお店などに手掛かりを探しに出ていたけれど、昨日とうとうお屋敷を解雇された。まぁ、しょうがないと思う。私はお嬢様の監視の為に雇われたのだから。なので、解雇されたその足で旅の旅装を買い揃え、乗合馬車に乗る。
目指すは……西の街。
乗合馬車に乗り数日。
西の街モックに着くいた。
街の入口で身分証を出すと、門番がほんの一瞬緊張したように感じるけれど、私の身分証を見たくらいでいちいち緊張していたのでは、門番など務まらないだろうに……と思いながら、その足でまっすぐ冒険者ギルドへ向かう。
「お久しぶりですマリーさん!今日は……依頼の中間報告ですか?」
私の顔を見てニコニコと笑う受付のお嬢さん。女の子はカワイイ。女の子は世界の宝よね♪
「ごめんね。ちょっと急ぎでギルドマスターに会いたいのだけど……」
急な訪問だけど、今回の依頼の急ぎの報告をして、一刻も早くお嬢様の所在を掴まなければいけないので少し焦る。
あのお嬢様のことだ、少しでも危ないと感じたらすぐに移動してしまうだろうと思うと、今こうして待っているのももどかしく思っていると、ギルドに見慣れた人影を見た。
「ようっ。漸く戻ってきたか……って、今回の任務は終了か?」
今回は私の単独任務だった為、別行動をとっていた一緒にパーティーを組んでいる、剣士のマルスだった。
⚫〇⚫〇⚫
ギルドマスターの許可が下りて、奥の執務室に案内される……偶然ギルドに来たマルスと共に。
「で……どうだったんだ?」
厳つい顔で眉間にシワを寄せ、泣く子も黙るような顔をしたギルドマスターを見る……が、今回の依頼は『どうだった』と聞かれて『こうでした』と答えられるような依頼ではない。
「まずはこれを……侯爵様の直属の執事長から依頼終了のサインを貰ってきました」
今回の本来の依頼主はシュタイン侯爵だ。
依頼内容はシュタイン侯爵令嬢の護衛と有事の際の保護又は逃亡の手助けであった。
最初はなぜこんな依頼を……と思ったのだけれど、令嬢付きのメイド&侍女をしていた長くもない期間で、母親の姿を何度か見る内に理解出来た。もしかしたら貴族ではよくある光景なのかもしれないけれど、シュタイン侯爵本人はそれを良しとしなかったようだ。
(執事長も言っていたなぁ……『このままでは可愛いお嬢様があのブタに嫁がされてしまう……って)
執事長の必死な顔を思い出しながら、一応報告形式でギルドマスターに報告する。
ちなみに、今回の依頼はシュタイン侯爵から友人であるギルドマスターへ依頼が来てのことだったが、侯爵夫人の目を欺く為、少々面倒な手間を挟んだ。
結果的にはお嬢様一人での逃亡となってしまったけれど、逃亡のアシストができマリー以外の監視の目を逸らすことが出来たので、成功かとは思うのだけど…………。
「お嬢様は多分、この街に来たと思うんだけど、それらしい報告はあったかしら?」
マリーへの依頼はあくまでもあの屋敷と侯爵夫人からの逃亡補助だ。
シュタイン侯爵から『あの子は大丈夫だから』という謎の言葉で、それ以上のことはしなくていいと言われていたけれど、やはり心配は心配だ。
(それに……自分が逃げた後の私の心配までしてくれたからなぁ……)
泣きそうな顔で、マリーは母親から命じられた監視なのかと確認された時は、いきなり過ぎて驚いた。それまで気付いた素振りなど全然見せなかったのにだ。
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