【完結】異世界召喚されたのはこの俺で間違いない?

苔原りゐ

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霧は冷たく、全身を削るような痛みを伴う。それでも足を止めるわけにはいかない。剣を振るたび、赤黒い光が霧を切り裂き、影の存在を少しずつ露わにしていく。

影の中心に到達した瞬間、強烈な反発力が俺を吹き飛ばした。壁に叩きつけられ、胸元の傷が再び裂けたかのような鋭い痛みが走る。だが、その痛みすらもどこか遠く感じられるほど、俺の意識は薄れていた。

「アデル!」

エリザの叫び声が響く。ぼやけた視界の中、彼女が俺に駆け寄ろうとする姿が見えたが、影がそれを阻むように広がり、彼女の足元を絡め取った。

「くっ……!こんな……!」

エリザは必死に呪文を唱えるが、その光は影に吸収されていく。一方で、リリも影に向かって短剣を投げるが、霧の中に消えるだけだった。

「……まだ終わらない……!」

俺は血塗られた剣を再び握りしめ、立ち上がろうとした。その瞬間、右手に焼けるような痛みが走り、剣が激しく脈動を始める。それはまるで、剣自身が俺に何かを語りかけているようだった。

「……力が……足りない……?」

その時、再び耳元に囁き声が響いた。

「犠牲を払え……。その命を糧に、さらなる力を得よ……。」

「……命を、糧に……?」

脳裏に、リリとエリザの姿が浮かぶ。彼女たちを守るためなら、俺はどんな犠牲でも払う覚悟がある。だが、果たしてそれが本当に正しい選択なのか――答えを出せないまま、影が再び俺たちに迫ってくる。

「アデル!」

エリザが叫ぶ。その声が俺の中の迷いを振り払った。

「守るためなら……たとえ命が尽きようと構わない!」

俺は右手を掲げ、剣に全ての力を注ぎ込んだ。赤黒い光がさらに強く輝き、剣は完全に形を変えた。今やそれは剣というより、巨大な刃の化け物のようだった。

「これが……俺の全てだ!」

その剣を振り下ろした瞬間、影が悲鳴のような音を上げ、部屋全体に衝撃波が走った。霧が一瞬で晴れ、影の存在が消え去る。

静寂が戻った部屋の中、俺はその場に崩れ落ちた。剣は消え去り、右手には激しい痛みだけが残っていた。

「アデル!」エリザが駆け寄り、俺を支える。

「……終わったのか……?」

俺の問いに、彼女は静かに頷いた。

「ええ、でも……その力、本当に使い続けて大丈夫なの?」

彼女の言葉に答えられないまま、俺は意識が遠のいて行く。

エリザの腕の中で意識が遠のく中、ふと胸の奥で何かがざわめくのを感じた。
「まだだ……これは序章にすぎぬ……。」

その声は、影が消滅したはずの空間から直接響いているようだった。背筋が凍る感覚と共に、俺の中に重い不安がのしかかる。

「アデル、大丈夫?!」エリザが強く揺さぶり、声が響くが、返事をする気力が湧かない。

リリが心配そうに覗き込み、小さな手で俺の腕を握りしめた。「おじさん、もう、終わったんだよね……?また何か来るの……?」

エリザは無言でリリを抱きしめた。その瞳には、俺たちがこれから直面する試練への不安と決意が宿っていた。

俺は薄れゆく意識の中で、再び握った右手の感覚が自分のものでないような感覚に囚われる。それでも、守るべきもののために戦うしかない――それだけは揺るぎない事実だった。
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