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戦闘訓練1 マルスvsアベル
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開始の鐘が鳴る。
「ちょっと待った、開始の前に一つだけ」
鐘が鳴ったすぐ後、会場にアナウンスが聞こえてくる。
声の正体は武器系訓練担当のアレックス・ブルーノだ。
「今回は相手に対して魔技を使っても良いぞ。しかし、どちらかの防御壁が壊れたら止めるように!」
彼は制服の機能について説明を始めた。
それは防御態勢を取ると着用者の周囲に防御壁が発生し、その身を守ってくれる事。
ここまでは訓練の度に話していた為覚えていた。
受けるほど色が変わり、白→黄→赤と変化し、最終的に割れて消滅してしまう。
その間、防御壁が再生するまで着用者は無防備状態となってしまうのだ。
コレはダンジョンから得た文献に載っていた技術の一つでほぼすべての衣類や防具に使われている。
「始める前にもう一度魔技についての確認だ、よく聞くように! 」
次は魔技について話し始める。
魔技は魔法と違って、気力を多く使う。正確に言えば使われる魔力と気力の比率が違うのだ。
基本的な”魔力:気力”の比率が魔法で8:2だとすると、魔技の場合は4:6だ。
共通して言えることは強力な技を使うほど消費は激しい事。
何かの流派を使う人もいれば、マルスのようにほぼ我流の人もいるがそちらは少ないだろう。
「以上! それでは存分に闘うのだっ!! 」
アレックスが話し終わると同時に再度鐘が鳴る。
マルスの相手は同じ剣系の武器を使う剛人族(ドワーフ)の男子だった。
前髪が少し長い茶髪で、片目が隠れてしまっている。
「んじゃ、よろしく頼――――」
「チッ!」
マルスは相手に軽く挨拶をして武器を具現化しようとするが、
いきなり攻撃され、中断してしまう。
「ちょッ?! 挨拶なしでいきなりかよ! 」
相手の顔を見ると鋭い目つきでこちらを睨んでいた。
細身の剣、レイピアを正面に構えながらこちらの様子を窺っている。
「……」
「だんまりか……、そっちがその気なら! 」
マルスは相手に向かって走り出す。
それに反応してレイピアを突き出してくるが、肩をかすめながらも回避し懐に入り込む事に成功した。
「キツイ一撃を当ててやる! 」
「グッ……ハッ!? 」
鳩尾に右肘、顎が浮いたところを左掌底を当て剛人族を吹き飛ばした。
いくら防御壁があっても痛みはある。相手はヨロヨロと立ち上がった。
マルスも自分の肩を見ると当たった部分からは白い煙のようなモノが出ていた。
その煙も数十秒で治まり、その間にマルスも武器を具現化させる。
「ん~、なんかお前にやったか? 特に恨まれるようなことは―――」
「チッ!! 」
剛人族はいつの間にか近づいていた。
鋭い突き、斬撃を繰り出してくるがマルスも回避と防御で対応する。
「落ち着けって! ……っとと、おりゃっ! 」
「うッ?!」
もう一度腹部に蹴りを入れ距離を取る。
頭を掻きながら考える。
「ん~……誰だっけな~? 武器に見覚えはあるんだけど」
「き、貴様……! 」
「あ、思い出した。最初の模擬戦で―――」
「そうだ! 貴様から我が流派をコケにされたアベルだ! 」
膝を着き腹部を抑える姿を見て思い出す、アベルと名乗る青年は最初の組手で相手だったことを。
「いやコケにしてないし、あれはお前が油断してたのが悪いだろ」
「ゆゆゆ油断などしてないッ! そ、その……あの時は調子が悪かっただけだ! 」
※※※
時を少しさかのぼり初めての対人訓練。
武器は具現化せずに木製の武器での組手だ。
魔力を通す事で具現化した時と同等の動きが可能になるらしい。
武器・魔技等の説明を受けた後に組み合わせが発表される。
指定された場所に移動し、そこにいたのがアベルだった。
彼は自分の武術の腕に自信があるらしく、簡単に言えば天狗になっている状態だ。
「フンッ! 君が僕の練習相手か……どこかの流派に属していたのかい? 」
「いや、ほとんど我流だよ。 習ったのは基本だけ」
「……は? 」
数秒沈黙が続くと、アベルは突然笑い出し自分の流派について語り出す。
「フフフフ……ハァーハッハッハッハッハッ!
が、我流ぅ? それでよく入れたね? そんなので僕の習った剣術は由緒正しい……」
そこから長い話が始まってしまった。マルスも話を半分くらいしか聞いておらず、
凄い流派の剣術を使う貴族の坊ちゃんとしか認識していない。
そのままこちらの事を見ずにベラベラと話し続ける。
~20分後……~
次第に他の組手も終わりはじめ、残りはマルス達のみになってしまった。
アレックスもその様子を見て呆れたように話しかけてくる。
「なんだまだ終わってなかったのか? おいアベルッ!! 」
「……と言うのは僕でひゃいっ?! わ、わかりましたアレックス教官殿!
えっと……マルス君だったかな? それでは行くよ! 」
「あ~、うん。わかった」
アベルは右手は軽く肘を曲げ、切っ先はマルスの喉に狙いをつけた構えを取る。その一方、マルスは正面を向き、武器を握ったまま立っているだけだ。完全にやる気をなくしてしまったようだ。
「何をしている? 構えたまえ! 無防備な相手を―――」
「……いいから」
「え? 」
「御託はいいからさっさと始めよう」
「ッ! 後悔……するなよッ!」
武器の使い方でわかる。きれいなフォーム、そして無駄のない動きだった。
マルスも予想以上に鋭い攻撃を避けきることはできず、防御壁を展開する。
その様子を見てアベルは「フッ」と鼻で笑うと、速度を上げて突き始めてくる
「そらそらそらぁッ! どうしたんだい、我流クン? 手が出せないのかい!? 」
「グッ、ウウゥッ…… もう、チョイで……」
連撃を受け続けた防御壁も限界になり、赤い壁にはヒビが入り始めた。
しかし同時にマルスの動きも変わり始める。
左右に避けていた動きを、前後の移動、つまりレイピアの突きに合わせてきた。
「なッ?! このッ! なんで当たらないッ!?」
「よし、見えてきたぞ……ほいッ、よッ、はっと」
マルスは相手の腕が伸びると同時に範囲外へ後退し、再度腕を引くときに前に出るように動いていた。
普通ではできない動きだが、武器を具現化している間は各身体能力も強化されている為可能なのだ。
「ほぅ……中々やるな。 アベルも相手が悪かったかもな。動きを見せすぎて武器の軌道と間合いを読まれてしまっている」
アレックスは顎を触りながら見て解説する。
周りの人も歓声を上げ、イベントのようになってしまっていた。
マルスも避けながら構えを取り始める。
マルスの構えは半身の構えだ。
左手で手刀を作り肘を軽く落とし、右手の武器は逆手持ちにし相手に隠すようになっている。
アベルの攻撃を避け、腕を引く時と同時に踏み込んだ
「しまっ……」
「痛(いて)ぇぞぉ~? 歯ぁ喰いしばれ! 」
アベルの顎をかち上げるように左掌底を喰らわせ、無防備になった胴体を武器で斬りつけた。
周囲では悲鳴が上がるが、痛みに悶える彼の身体からは白い煙が出ているだけだった。
「そこまで! 見事な一撃だったぞ、マルス」
「え、ああ……ありが―――」
「そんな事より! アベルを診てやってください! 斬られて死ぬかもしれないんですよ!? 」
女子訓練生に言葉を遮られる。しかし、アレックスは診ようともせずに
「掌底だけで死にはしない。 あの煙は身体から魔力が散っているだけだ。
防御していたマルスからも出ていただろう」
魔技の追加説明を行っていると、ヨロヨロとアベルが立ち上がる。
腹部を抑えているがすでに煙は出ていない。
「も、もう一度!もう一度勝負だ!! そんな奴に僕が負けるはずが―――」
「実戦にもう一度なんて無い。相手が本物の野盗だったらお前はもう死んでいるぞ? 」
アレックスの一言に黙り込む。
追剝ぎの場合は具現化した武器は使ってこない。それでは相手を殺せないと知っているからだ。
武器系魔力の特徴は、自分の武器で直接人間を……正確に言うと武器だけの攻撃では肉体を傷つけられない事だ。当たって痛みを感じても傷はできずにその場所から白い煙が出る、これを魔力が散るという現象だ。
なぜこのような仕様になったのには過去の戦争が原因らしい。
今回使用している木刀で魔技を放っても傷はできない、衝撃が伝わるだけだ。
「衝撃が無くては訓練にならんからな。
その痛みを受けたくないのであれば相手の動きをよく見ろ、慢心するな」
「……ッ! 」
※※※
アベルは事細かに覚えていた。
「どうだっ、思い出したか!?」
「あ~……うん。オモイダシタヨ? 」
適当な答えに怒ったのか身体を震わせる。
「ふっざけるなあああぁぁぁっ!! 」
無数の刃がマルスに襲い掛かる。
しかし、怒りに任せた攻撃はあっさりと避けられてしまう。
「うわっとと……軽い冗談だって」
武器を具現化しつつ体勢を整える。
目を瞑り、軽く息を吐く。
「すぅ……はぁ~……よしっ、今度はこっちから行くぞ!! 」
「攻撃させるか! 」
「甘い! 」
ガキンッ
マルスは剣で相手の攻撃を弾き、胴体をがら空きにした。
そのまま流れるような動きで追撃を行う。
「はぁッ! 」
「ウグッ!? 」
胴を横一線……アベルには模擬戦で膝を着いた時の事が頭に過った。
歯を食いしばり、痛みを堪えながらもその場に立ち続ける。
煙の色は黄色、強力な一撃であれば身体を覆う防御壁は破壊されるだろう。
それを避けるには一度後退し、体勢を持ち直さねばならない。
「ぐ……ウォォォ! 」
「ッ、そんな状態でも?! 」
しかしアベルは退かずに攻撃を再開、不意を突かれたマルスも数発良い攻撃を受けてしまう。
白と黄色の煙が入り混じって発生する。
状況は同じになったようだ、マルスは一度後退し体勢を持ち直そうとするが相手はそれを許さない。
すぐに距離を詰めて連続でレイピアを突き出してきた。
「いぃ?! 」
「僕は、負けない! 負けられないんだ!! 」
突きの勢いは増し赤熱する、そして徐々に火を帯びていく。
紅い閃光がいくつも見え始め、マルスに襲い掛かる。
回避も間に合わず、受け流すだけで精一杯のようだ。
遂に煙は赤くなった。
「これで、終わりだぁッ! 」
「……勝機!! 」
止めを刺そうと大振りになった所をマルスは狙っていた。
レイピアを受け流しながら前進し、懐へと入り込む。
彼はあの時と同じ攻撃を繰り出す。
肘うちで鳩尾を、そして追撃で顎を掌底で打ち上げた。
宙に浮いた相手目がけてマルスは魔技、烈風刃を放つ。
同時に刃を追いかけるように大地を蹴った。
「衝波十文字!! 」
「グアアアアッ?! 」
魔技が当たると同時に、交差するように魔力を込めた刃で斬りつける。
するとアベルの防御壁は音を立てて砕け散った。
『そこまで! 勝者、マルス・ヒュルケイン!! 』
勝者の名を告げると闘技場内に鐘の音が鳴り響く。
マルスも追い込まれた事によってかなり疲弊していた。
その場に膝を着き、呼吸を落ち着かせている。
「ぜェ……ぜェ……危なかった」
「ウム、いい試合だった。反省点は分っているな? 」
「……ハイ。今後の戦いに活かします」
フラフラと立ち上がると、試合場を後にした。
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