【完結】リンクジュエル

朔灯まい

文字の大きさ
18 / 41
青年期編

17.加工師 side.A

 目が覚めたら知らない家でした。

「…?」
「目が覚めましたか、具合はどうですか?」
「だ、いじょう…ぶ」
「…大丈夫な声ではありませんね」

 発した声が掠れていて、思わず喉元に手を当てる。どうしてこんなことに?と疑問が顔に出ていたのか、目の前の男はここまできた経緯を話す。

「流石に放っておいて死なれては夢見が悪いですからね」
「…」
「とりあえずこれでも飲みなさい」

 体を温めろと渡されたマグカップから湯気が上る。皮肉めいた物言いだが悪意は感じないと、素直にそれを飲む。
 口の中で広がる甘いココアは冷たい体を中からじんわりと温めてくれる。
 その心地良さに頬が緩むと、頭上からくすくすと笑う声が聞こえてくる。

「すみません、あどけないなぁと」
「…」
「拗ねました?」

 完全に子供を揶揄う大人の構図にアメトリンは不満しかなかったが、あの雨の中見ず知らずの自分を助けてくれたんだとぐっと堪える。

「…助けてくれてありがとう」
「おや、お礼まで言えてえらいですね」
「!!」
「と、冗談はさておき…」

 アメトリンがつっかかるより早く男は言葉を連ねる。

「あんなところで倒れていたのは何故です?」
「…」
「言いたくないですか?」

 問われると思い出すシショクからの拒絶に体が強張る。
 その様子に男はふむと小首をかしげると、自身の腕をトントンと指で小突く。

「それは腕の鉱石と何か関係が?」

 何でそれを、と反射的に腕を庇う仕草をして目の前の男に警戒を示すが男は落ち着いてとアメトリンを諭す。

「すみません、見るつもりはなかったんですが、運んでる時に…」
「そう…」

 否定も肯定もされず、ただ見たという事実だけを告げられ二人の間に沈黙が流れる。
 アメトリンも男に対してどう思われようが気にもしてないのか、それ以上何も言わなかった。

「そういえば自己紹介がまだでしたね、私はイオラ。この国で加工師をしています」
「…アメトリン」

 加工師。それは鉱石を様々な形に変える仕事を担っている、鉱石の取扱に関してはスペシャリストともいえる。
 それで腕の石が鉱石だと見抜いたのだろうと他人事のアメトリン。
 そんな自分に対してもイオラに対しても何も興味がない様な素ぶりのアメトリンだったが、

「アメトリン…いい名ですね」
「!!…うん、僕もそう思う」

 シショクからつけてもらった名前を褒められ、無表情だったアメトリンの顔に笑みが宿る。
 その機微をイオラは逃さなかった。

「心配してるのでは?」
「…それはないと思う…僕気持ち悪いから」
「……」

 分かりやすく陰る表情に質問の話題を失敗したなと思いながら、人とは違うそれが原因だろうとイオラは視界に入る鉱石を見る。

「それ、他に誰か知ってます?」
「イオラ以外ならあと1人だけ…」
「そうですか、でしたらそのまま隠しておきなさい」

 その言葉にアメトリンの喉が鳴る。
 あぁ、やっぱり自分の存在は誰にも受け入れてもらえない…。諦めにも近い思いが駆け巡りどこか自嘲気味に笑みが溢れる。

「わかってる、誰にも見せるつもりはないよ」
「それがいい。見つかれば命が危ないでしょう」
「…は?」

 気味が悪いから隠しておくのではなく、命が危ないから?思っても見ない返答に首を傾げる。

「私の見立てではありますが、あなたの腕の鉱石…恐らく純度がかなり高い。売れば相当な値がつきます」

 それが市場に出回れば、瞬く間に噂が広がる。するとそれを求めて探し出す人々が殺到し、どこで手に入れたのか、どれくらいの量が掘れるのか血眼になって情報を得ようとするだろう。
 莫大な利益が得られるとわかれば人は手段を問わない。懸命に隠したとしても何か小さな綻びが少しでもあれば目敏く見つけ餌食にされてしまう。
 淡々と告げるイオラにアメトリンの顔が青ざめていく。

「もし売ったら…」
「タチの悪い連中に目をつけられれば、持ち込んだ人間は居場所を吐かされて殺されるでしょうね。そしてそれが人の体から生み出されたとわかれば…」

 イオラは口を噤む。最後まで言わずとも嫌でも理解してしまう。

「よかったですね、見つかった相手が私とその方で。私はまだ信用できないでしょうが、もう1人の事情を知る方が鉱石を売っていれば、今こうしてココアを飲むことはできなかったでしょう」

 話し込んでいるうちにすっかり冷めてしまったココアを飲み干すと、イオラは仕事があるからと部屋を出た。
 その際に自分は別の部屋で仕事をしているから落ち着くまでここにいていいと言われ、一人部屋に残ったアメトリンは静かに瞼を閉じる。
 考えるのは昨日のこと。今ならわかる、シショクがどうしてあんな事をしたのかを。
 恐らくシショクも最悪の未来を予想して動転したのだろう。だが、それを拒絶されたと受け取ってしまったが為にその場で確かめる勇気はアメトリンにはなく逃げるように家を出る事しか出来なかった。
 シショクが自分を拒絶するなどあり得ないのにそれを信じきれなかった自分自身に怒りを感じる。

「帰ろう」

 きっとシショクは心配してくれている、そうと決まれば早いと残ったココアを飲み干し立ち上がると部屋を出て、イオラにその事を告げにいく。
 カンカンと音が鳴っている部屋のドアをノックすれば、中からどうぞと声がする。
 部屋に入るとそこには様々な色や大きさの鉱石が部屋中にあり、それを加工する為の道具も所狭しに置いてある。

「足元気をつけてくださいね」
「イオラ」
「なんですか?」

 作業をしているからかアメトリンを見ることはなく背中を向けたまま手を動かしている。
 一瞬、部屋を出た後に自分の事を誰かに言いに行っているのでは?と脳裏を掠めた事を密かに謝りながら、イオラに一泊のお礼と帰る事にしたと言うと、そこでようやく手が止まって振り返った。

「もう帰るんですか?」
「何?いて欲しいの?」
「個人的にその体…詳しく知りたいと思いまして」
「…っ?!」
「あぁ、その鉱石です、変な期待を持たせてすみません」

 動揺したアメトリンの様子に勘違いさせてしまってはいけないと説明すると、そういえば出会った時も物騒な事を言っていたなと呆れた。

「悪いけど僕の体、触れる相手は1人だけだから」
「それは残念です」
「だから鉱石もあげられない、ごめん」

 先程の話を聞いた以上、自分の鉱石を渡すのは誰であっても危険だと理解したのかアメトリンのその言葉にイオラはそれでいいと頷く。

「でもお礼はしたいからまた来るよ、ありがとう」
「はい、楽しみにしておきますね」

 じゃ、と家を出たアメトリンが帰り方が分からないと恥ずかしそうに戻ってきたのは直ぐの事だった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

貧乏Ωが御曹司αの将来のために逃げた話。

ミカン
BL
オメガバース

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまの第2回BL小説漫画コンテストで『文が癒されるで賞』をいただきました。応援してくださった皆さまのおかげです。心から、ありがとうございます! 表紙は、ぱくたそ様よりsr-karubi様の写真をお借りしました。ありがとうございます!

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

元カレに追い出された専門学生がネカフェでP活相手のパパちんぽに理解らせられてトロトロのメロメロになっちゃう話

ルシーアンナ
BL
既婚子持ちバイ×専門学生 Pixiv https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=27436158 ムーンライトノベルズ https://novel18.syosetu.com/n1512ls/ fujossy https://fujossy.jp/books/31185

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

その首輪は、弟の牙でしか外せない。

ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。 第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。 初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。 「今すぐ部屋から出ろ!」 独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。 翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。 「俺以外に触らせるな」 そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。 弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。 本当にこのままでもいいのか。 ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。 その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。 どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。 リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24) ※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。 三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。