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青年期編
17.加工師 side.A
目が覚めたら知らない家でした。
「…?」
「目が覚めましたか、具合はどうですか?」
「だ、いじょう…ぶ」
「…大丈夫な声ではありませんね」
発した声が掠れていて、思わず喉元に手を当てる。どうしてこんなことに?と疑問が顔に出ていたのか、目の前の男はここまできた経緯を話す。
「流石に放っておいて死なれては夢見が悪いですからね」
「…」
「とりあえずこれでも飲みなさい」
体を温めろと渡されたマグカップから湯気が上る。皮肉めいた物言いだが悪意は感じないと、素直にそれを飲む。
口の中で広がる甘いココアは冷たい体を中からじんわりと温めてくれる。
その心地良さに頬が緩むと、頭上からくすくすと笑う声が聞こえてくる。
「すみません、あどけないなぁと」
「…」
「拗ねました?」
完全に子供を揶揄う大人の構図にアメトリンは不満しかなかったが、あの雨の中見ず知らずの自分を助けてくれたんだとぐっと堪える。
「…助けてくれてありがとう」
「おや、お礼まで言えてえらいですね」
「!!」
「と、冗談はさておき…」
アメトリンがつっかかるより早く男は言葉を連ねる。
「あんなところで倒れていたのは何故です?」
「…」
「言いたくないですか?」
問われると思い出すシショクからの拒絶に体が強張る。
その様子に男はふむと小首をかしげると、自身の腕をトントンと指で小突く。
「それは腕の鉱石と何か関係が?」
何でそれを、と反射的に腕を庇う仕草をして目の前の男に警戒を示すが男は落ち着いてとアメトリンを諭す。
「すみません、見るつもりはなかったんですが、運んでる時に…」
「そう…」
否定も肯定もされず、ただ見たという事実だけを告げられ二人の間に沈黙が流れる。
アメトリンも男に対してどう思われようが気にもしてないのか、それ以上何も言わなかった。
「そういえば自己紹介がまだでしたね、私はイオラ。この国で加工師をしています」
「…アメトリン」
加工師。それは鉱石を様々な形に変える仕事を担っている、鉱石の取扱に関してはスペシャリストともいえる。
それで腕の石が鉱石だと見抜いたのだろうと他人事のアメトリン。
そんな自分に対してもイオラに対しても何も興味がない様な素ぶりのアメトリンだったが、
「アメトリン…いい名ですね」
「!!…うん、僕もそう思う」
シショクからつけてもらった名前を褒められ、無表情だったアメトリンの顔に笑みが宿る。
その機微をイオラは逃さなかった。
「心配してるのでは?」
「…それはないと思う…僕気持ち悪いから」
「……」
分かりやすく陰る表情に質問の話題を失敗したなと思いながら、人とは違うそれが原因だろうとイオラは視界に入る鉱石を見る。
「それ、他に誰か知ってます?」
「イオラ以外ならあと1人だけ…」
「そうですか、でしたらそのまま隠しておきなさい」
その言葉にアメトリンの喉が鳴る。
あぁ、やっぱり自分の存在は誰にも受け入れてもらえない…。諦めにも近い思いが駆け巡りどこか自嘲気味に笑みが溢れる。
「わかってる、誰にも見せるつもりはないよ」
「それがいい。見つかれば命が危ないでしょう」
「…は?」
気味が悪いから隠しておくのではなく、命が危ないから?思っても見ない返答に首を傾げる。
「私の見立てではありますが、あなたの腕の鉱石…恐らく純度がかなり高い。売れば相当な値がつきます」
それが市場に出回れば、瞬く間に噂が広がる。するとそれを求めて探し出す人々が殺到し、どこで手に入れたのか、どれくらいの量が掘れるのか血眼になって情報を得ようとするだろう。
莫大な利益が得られるとわかれば人は手段を問わない。懸命に隠したとしても何か小さな綻びが少しでもあれば目敏く見つけ餌食にされてしまう。
淡々と告げるイオラにアメトリンの顔が青ざめていく。
「もし売ったら…」
「タチの悪い連中に目をつけられれば、持ち込んだ人間は居場所を吐かされて殺されるでしょうね。そしてそれが人の体から生み出されたとわかれば…」
イオラは口を噤む。最後まで言わずとも嫌でも理解してしまう。
「よかったですね、見つかった相手が私とその方で。私はまだ信用できないでしょうが、もう1人の事情を知る方が鉱石を売っていれば、今こうしてココアを飲むことはできなかったでしょう」
話し込んでいるうちにすっかり冷めてしまったココアを飲み干すと、イオラは仕事があるからと部屋を出た。
その際に自分は別の部屋で仕事をしているから落ち着くまでここにいていいと言われ、一人部屋に残ったアメトリンは静かに瞼を閉じる。
考えるのは昨日のこと。今ならわかる、シショクがどうしてあんな事をしたのかを。
恐らくシショクも最悪の未来を予想して動転したのだろう。だが、それを拒絶されたと受け取ってしまったが為にその場で確かめる勇気はアメトリンにはなく逃げるように家を出る事しか出来なかった。
シショクが自分を拒絶するなどあり得ないのにそれを信じきれなかった自分自身に怒りを感じる。
「帰ろう」
きっとシショクは心配してくれている、そうと決まれば早いと残ったココアを飲み干し立ち上がると部屋を出て、イオラにその事を告げにいく。
カンカンと音が鳴っている部屋のドアをノックすれば、中からどうぞと声がする。
部屋に入るとそこには様々な色や大きさの鉱石が部屋中にあり、それを加工する為の道具も所狭しに置いてある。
「足元気をつけてくださいね」
「イオラ」
「なんですか?」
作業をしているからかアメトリンを見ることはなく背中を向けたまま手を動かしている。
一瞬、部屋を出た後に自分の事を誰かに言いに行っているのでは?と脳裏を掠めた事を密かに謝りながら、イオラに一泊のお礼と帰る事にしたと言うと、そこでようやく手が止まって振り返った。
「もう帰るんですか?」
「何?いて欲しいの?」
「個人的にその体…詳しく知りたいと思いまして」
「…っ?!」
「あぁ、その鉱石です、変な期待を持たせてすみません」
動揺したアメトリンの様子に勘違いさせてしまってはいけないと説明すると、そういえば出会った時も物騒な事を言っていたなと呆れた。
「悪いけど僕の体、触れる相手は1人だけだから」
「それは残念です」
「だから鉱石もあげられない、ごめん」
先程の話を聞いた以上、自分の鉱石を渡すのは誰であっても危険だと理解したのかアメトリンのその言葉にイオラはそれでいいと頷く。
「でもお礼はしたいからまた来るよ、ありがとう」
「はい、楽しみにしておきますね」
じゃ、と家を出たアメトリンが帰り方が分からないと恥ずかしそうに戻ってきたのは直ぐの事だった。
「…?」
「目が覚めましたか、具合はどうですか?」
「だ、いじょう…ぶ」
「…大丈夫な声ではありませんね」
発した声が掠れていて、思わず喉元に手を当てる。どうしてこんなことに?と疑問が顔に出ていたのか、目の前の男はここまできた経緯を話す。
「流石に放っておいて死なれては夢見が悪いですからね」
「…」
「とりあえずこれでも飲みなさい」
体を温めろと渡されたマグカップから湯気が上る。皮肉めいた物言いだが悪意は感じないと、素直にそれを飲む。
口の中で広がる甘いココアは冷たい体を中からじんわりと温めてくれる。
その心地良さに頬が緩むと、頭上からくすくすと笑う声が聞こえてくる。
「すみません、あどけないなぁと」
「…」
「拗ねました?」
完全に子供を揶揄う大人の構図にアメトリンは不満しかなかったが、あの雨の中見ず知らずの自分を助けてくれたんだとぐっと堪える。
「…助けてくれてありがとう」
「おや、お礼まで言えてえらいですね」
「!!」
「と、冗談はさておき…」
アメトリンがつっかかるより早く男は言葉を連ねる。
「あんなところで倒れていたのは何故です?」
「…」
「言いたくないですか?」
問われると思い出すシショクからの拒絶に体が強張る。
その様子に男はふむと小首をかしげると、自身の腕をトントンと指で小突く。
「それは腕の鉱石と何か関係が?」
何でそれを、と反射的に腕を庇う仕草をして目の前の男に警戒を示すが男は落ち着いてとアメトリンを諭す。
「すみません、見るつもりはなかったんですが、運んでる時に…」
「そう…」
否定も肯定もされず、ただ見たという事実だけを告げられ二人の間に沈黙が流れる。
アメトリンも男に対してどう思われようが気にもしてないのか、それ以上何も言わなかった。
「そういえば自己紹介がまだでしたね、私はイオラ。この国で加工師をしています」
「…アメトリン」
加工師。それは鉱石を様々な形に変える仕事を担っている、鉱石の取扱に関してはスペシャリストともいえる。
それで腕の石が鉱石だと見抜いたのだろうと他人事のアメトリン。
そんな自分に対してもイオラに対しても何も興味がない様な素ぶりのアメトリンだったが、
「アメトリン…いい名ですね」
「!!…うん、僕もそう思う」
シショクからつけてもらった名前を褒められ、無表情だったアメトリンの顔に笑みが宿る。
その機微をイオラは逃さなかった。
「心配してるのでは?」
「…それはないと思う…僕気持ち悪いから」
「……」
分かりやすく陰る表情に質問の話題を失敗したなと思いながら、人とは違うそれが原因だろうとイオラは視界に入る鉱石を見る。
「それ、他に誰か知ってます?」
「イオラ以外ならあと1人だけ…」
「そうですか、でしたらそのまま隠しておきなさい」
その言葉にアメトリンの喉が鳴る。
あぁ、やっぱり自分の存在は誰にも受け入れてもらえない…。諦めにも近い思いが駆け巡りどこか自嘲気味に笑みが溢れる。
「わかってる、誰にも見せるつもりはないよ」
「それがいい。見つかれば命が危ないでしょう」
「…は?」
気味が悪いから隠しておくのではなく、命が危ないから?思っても見ない返答に首を傾げる。
「私の見立てではありますが、あなたの腕の鉱石…恐らく純度がかなり高い。売れば相当な値がつきます」
それが市場に出回れば、瞬く間に噂が広がる。するとそれを求めて探し出す人々が殺到し、どこで手に入れたのか、どれくらいの量が掘れるのか血眼になって情報を得ようとするだろう。
莫大な利益が得られるとわかれば人は手段を問わない。懸命に隠したとしても何か小さな綻びが少しでもあれば目敏く見つけ餌食にされてしまう。
淡々と告げるイオラにアメトリンの顔が青ざめていく。
「もし売ったら…」
「タチの悪い連中に目をつけられれば、持ち込んだ人間は居場所を吐かされて殺されるでしょうね。そしてそれが人の体から生み出されたとわかれば…」
イオラは口を噤む。最後まで言わずとも嫌でも理解してしまう。
「よかったですね、見つかった相手が私とその方で。私はまだ信用できないでしょうが、もう1人の事情を知る方が鉱石を売っていれば、今こうしてココアを飲むことはできなかったでしょう」
話し込んでいるうちにすっかり冷めてしまったココアを飲み干すと、イオラは仕事があるからと部屋を出た。
その際に自分は別の部屋で仕事をしているから落ち着くまでここにいていいと言われ、一人部屋に残ったアメトリンは静かに瞼を閉じる。
考えるのは昨日のこと。今ならわかる、シショクがどうしてあんな事をしたのかを。
恐らくシショクも最悪の未来を予想して動転したのだろう。だが、それを拒絶されたと受け取ってしまったが為にその場で確かめる勇気はアメトリンにはなく逃げるように家を出る事しか出来なかった。
シショクが自分を拒絶するなどあり得ないのにそれを信じきれなかった自分自身に怒りを感じる。
「帰ろう」
きっとシショクは心配してくれている、そうと決まれば早いと残ったココアを飲み干し立ち上がると部屋を出て、イオラにその事を告げにいく。
カンカンと音が鳴っている部屋のドアをノックすれば、中からどうぞと声がする。
部屋に入るとそこには様々な色や大きさの鉱石が部屋中にあり、それを加工する為の道具も所狭しに置いてある。
「足元気をつけてくださいね」
「イオラ」
「なんですか?」
作業をしているからかアメトリンを見ることはなく背中を向けたまま手を動かしている。
一瞬、部屋を出た後に自分の事を誰かに言いに行っているのでは?と脳裏を掠めた事を密かに謝りながら、イオラに一泊のお礼と帰る事にしたと言うと、そこでようやく手が止まって振り返った。
「もう帰るんですか?」
「何?いて欲しいの?」
「個人的にその体…詳しく知りたいと思いまして」
「…っ?!」
「あぁ、その鉱石です、変な期待を持たせてすみません」
動揺したアメトリンの様子に勘違いさせてしまってはいけないと説明すると、そういえば出会った時も物騒な事を言っていたなと呆れた。
「悪いけど僕の体、触れる相手は1人だけだから」
「それは残念です」
「だから鉱石もあげられない、ごめん」
先程の話を聞いた以上、自分の鉱石を渡すのは誰であっても危険だと理解したのかアメトリンのその言葉にイオラはそれでいいと頷く。
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