ノンケで正常な僕がホモと出会った

forkfuls

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三寒四温

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「怜くんさあ、気づいてるんでしょ?」
一年の時に同じクラスだった女子から声を掛けられ、怜は何を聞かれてるのかと思いぎくっとする。

「ん。何が?」

背の高い怜から見下ろされた村岡は、自然と怜を睨んでいる顔になる。
「何がって…はあ。
いやだあ~。こんな、格好だけのやつをどうしてユウは…」
何を言われているのか、怜は眉を顰めて推しはかろうとする。
ユウ?佐藤ユウのこと?

村岡は怜の顔をしばらく見つめた後で、何かを言うのを諦めた様子で「幼なじみでしょ。ちょっとは、声かけてあげてよ。」そう呟いて自分の教室へと戻っていく。
怜は村岡から言われて初めて、その日ユウの事を思い出した。
ユウからは一昨日、怜の前から走り去って行ってから、ずっと話しかけられて居ない。そもそも、高校へ上がってからというもの、気恥ずかしくあまり会話をすることもなくなっていた。
始業5分前のベルが鳴り、怜は自分の教室へと戻る。


生物の教師がプリントを配っている間、怜達の教室は少しだけざわめいているが、それぞれが注意されない程度の囁き声にしか聞こえない。怜は改めて、最近あったことの中でユウの事を思い出してみた。

そういえば、4日前。佐藤ユウの繁華街キスの話がでる前日のこと。休み時間に、珍しく隣の教室から覗き込んでいたユウに怜は話しかけられたのだった。
ユウに手を引かれて行った先は、体育館の入り口の前の踊り場。授業がない間は、締め切ってあって静まり返っている。遠くから話し声や教室から響く何かを移動させる音を聞きながら、ユウが何かを話そうとするのを怜は待っていた。


「おい。
…沢口。沢口?」

ハッとして、前を見ると怜の前に差し出したプリントを、前の生徒がぴらぴらと降っている。

「ごめん」

生徒が、あははと笑って怜にプリントを手渡す。プリントが行き渡ると、教師が板書とともにこれまで進めて居た授業の続きを話し始める。
窓は開きっぱなしの7月の暖かい空気の中で、怜もぼんやりと授業を聞いていた。

ーあの時は、さんざんだったと思った。ユウは隣のクラスの学級委員をやって居て、怜にある提案をしてきていた。夏休み後に学年を通して、先の学祭を見越してこちらのクラスが下調べをした場所で、一度集まりたいという話を怜にしてきた。怜は、なんで自分にと思った。思ったらそれを、そのまんまで顔に出すのが怜だった。話は無論それだけでなく、中学の同級生の噂話や家の事など色々あったのだが、次第にユウは一方的に機嫌が悪くなり、言葉少なに話を切り上げてさっさと帰って行ったのだった。

まさか。

あの時、ユウから自分は嫌われた、怒られたと怜は思って居たのだ。

怜は村岡に言われた事を思い出す。
(…格好だけのやつ)
その言葉を思い出して、改めて怜は不愉快な気持ちになる。



昼休み前に、部活動の大会の書類を取りに怜は職員室へと向かう。
職員室に入り、部活の顧問が席にいるかどうかを確かめる。前をたまたま通った教師から、じいっと見つめられて「失礼しまーす」と大きな声を出し、中へ入っていく。
顧問からプリントを受け取ったあとでふと顔を上げると、ごく近くに笹岡の姿があった。
同じように、大会のプリントを取りに来たようだった。
なぜか、タイミングが合い、同時に職員室を出る事になったあとで、怜が自分よりも少し背の低い笹岡の姿を横からちらちらと眺めてみた。

「お前、吹奏楽でフルートやってるよな。」

そう言われた笹岡が怜の顔を見上げる。

「うん。興味あるの?」

「え?いや…4月の入学式で演奏してるの観てたから」

「あ~。そういえば、あったね。あはは。
て、何でおまえは居たの?」

「…俺も、居たんだよ。クラス代表のやつが欠席したから、代わりに声掛けられたの」

「ふ~ん」

「…」
とりあえず、先に声をかけた事で怜はちょっとだけ優位に立てた気がする。

「なあ。お前って、もしかして童貞?」
笹岡が、怜の方を見つめながら聞いてくる。

「…」

怜は笹岡の方を見る。
目が合う。

そうか。笹岡が、地味だがどことなく、普通の男子っぽくない理由がわかった。
まず、髪と爪が女子並みにめちゃくちゃ綺麗に手入れされている。プリントを抱え込む指先を見て、怜は思う。それから、普段は暗い顔だちをしてるのに笑うときに一気に子どもみたいに見える時がある。それもときどき妙に女くさかった。
怜は隣にいる笹岡が普通の男子と違うタイミングで笑うことに、いまだにぎくっとしていた。

(こいつ、年上の女いそう)

何となくだが、怜はそう思う。「お前、姉ちゃんいる?」
なんとなく外しながらそう聞いてみる。笹岡は「何で、分かった?」と気のなさそうに返してくる。

階段を上がり、自分達のクラスのある階に着くと、あとは知り合いの顔があちこちに並んでいる。笹岡もきっと、自分の友人を見つけたらさっさと居なくなるだろうと思い怜も自分の教室へと足早に歩いていく。



「ひえ!」
怜は突然、前の生徒から振り向かれるくらい大きな声をあげる。
太ももに変な感触がして斜め後ろを振り向くと、笹岡が真面目な顔をして突っ立っている。

「今、なんかした?」

「…」

「なあ。」

「いやこれ…付いてたから。
取ってあげただけだよ」

笹岡は、くしゃくしゃになったセロテープとそれにくっ付いている何かのメモの切れ端を持っている。
怜は自分の背後を振り返って、手で「何か」を探る。が、もう何も付いていないようだ。さっき、教室でたむろしてたときに誰かが怜に悪戯したのだ。
笹岡は怜の様子を見て笑顔になったあとで、手を伸ばして手に持っていたものを怜に差し出そうとする。

「ゴミだろ。」怜が言う。

「たしかに。」

笹岡はそれを手の平でくしゃっと丸めると、自分のポケットにしまい込む。

案外、良いやつなのかもな。…
怜は、笹岡に対する最初の印象が少し変わったような気がしていた。笹岡の笑顔を好意的に受け止めようとし始める。口元が綻んでいたかもしれない。

だがその顔に、笹岡が距離を詰めてくる。怜が驚いている隙もなく、笹岡は「おまえ、ここ。ヒゲ伸びてんぞ」と言い、怜の頬の辺りをちょんと指で突き、そのまま身を翻して自分の教室の方へと戻って行った。


…………


怜は、笹岡と別れた後で自分のいた教室へ戻る。それから、入るなり顔を合わせた男子生徒から第一声で「お前、顔赤いけどなんかあった?」と聞かれ、我に返ったように「なんもない」と答えるのが精一杯だった。





翌週、事件は直ぐに起きた。
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