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しおりを挟むパチン。 きゃきゃきゃッ
パチチッ。 キャハハ!
パチパチパチチッ! キャーッ!
アリスターは先程から無言で前を歩く男にどう声をかけるべきか迷っていた。
と言うよりは、今目の前で起きている出来事は一体何なのかどう質問すればよいか思案していた。
ノコノコの森という場所へ、さるやんごとなき方の危急の密命を受けて薬草の採集に来たのだが、採集場所までの案内役を請け負うこととなった男はなんともおかしな男だった。
何がおかしいかと言えば、今目の前で繰り広げられてるこの光景そのものと言えよう。
妖精たちが数多く生息するため、森に訪れる者の前に妖精は気軽に現れて無邪気に戯れ、いつの間にか相手を遭難させるから気を付けるようにと定食屋のオヤジに警告を受けてはいたが。
……これは集まり過ぎではないだろうか。
黙々とアリスターの目の前を歩く男にはべったりというか、こんもりという表現が似合う程に小妖精たちがベタベタと纏わりついていた。
彼らが何をしているかというと、ふらふらと男の傍に飛んで行っては男が発する何かにパチンと弾き飛ばされてキャーと歓声を上げながら、また男にまとわりつくということを繰り返している。一匹で果敢にアタックする者もいれば、数匹でまとまって飛び込み一緒になってあちらこちらに花びらが舞うように弾けていく者もいて実に楽しそうである。
彼らが実に楽しそうに戯れているので微笑ましい光景と言えるのだろうが、案内役の男から少し引いた位置から眺めるこの光景は、動く誘蛾灯に集まる虫の集合体と言えなくもない。何と言うか、奥へ進めば進むほど群がる妖精が明らかに増えてきており、そろそろ尋常じゃない数になってきている。
そして男はバチバチと音を立てる発光体になり果てている。
大丈夫か。そう男に声をかけようとした時、アリスターの耳に男の苛立った吠え声が飛び込んできた。
「だぁあーッ。うぜえぇえええ!」
とうとう男がブチ切れ、まとわりつく妖精たちを実力行使で追い払い始める。
「冬の静電気より始末に負えないんだよテメエらはッ。オレはお前らの遊び道具じゃねえ!散れやこらあ!」
男はぶんぶん腕を振り回し、妖精たちを自らの周りから離れるように散らしていく。男の乱暴な動作から逃げるために妖精たちも慌ててウワーンと離れていくその光景を間近に見て、アリスターは思わず「妖精というのは2、3匹で戯れていれば実に愛くるしい存在だが、数十匹、数百匹単位になると、そこらの羽虫と大差ないな」という感想を持ってしまった。
「何笑ってんだ。オメエも」
ひとしきり妖精たちを追い払った男は、鼻に皺を寄せて威嚇するようにアリスターを睨みつけてきた。
「ああ。すまない。このようなもの、見るのは初めてなんだ」
「見世物ンじゃねえぞ。見たけりゃ金払いな」
「報酬に上乗せで良いか?」
「だから見るんじゃねえよ……」
漸く妖精たちが散り始めたためアリスターは数時間ぶりに男の姿を拝むことが出来た。
ギルドの受付も兼ねる村の定食屋で、女たちにもみくちゃにされてよろけた先にいた男。
「てめえもオレのことオロスのハゲみたいに『黒光り』とか呼ぶんじゃねえだろうな」
中肉中背の、どこにでもいそうな少し目つきが悪いくらいしか取り立てて印象がない容貌と、少しはねたクセッ毛の黒髪、そして何より平凡な容姿を更に霞ませるような特徴的な能力である自らに近づくものすべてを弾く黒い稲妻を纏う青年の名はレイと言った。
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