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よく言うでしょ?遠足は帰るまでが肝心って。何か拾った場合もソレな!
しおりを挟む救うために、初めて人を殺した。
眷属にするため、そいつの命を奪った。
救うために止めを刺さないといけないなんて、おかしな話である。
通常の方法ではもう救えないと分かっていたからこうするしかなかったけれど。それでも命を吸い上げるあの感覚はもう二度と経験したくない。そう思う程に甘美でおぞましい体験だった。
眷属の作り方は簡単だ。
血を吸って。カラカラに乾いた体に今度はオレの血を入れる。
オレの血というが、とっくに死んだ体にまともな血は通ってない。
オレの体を満たしているのは動物たちから奪った体液だ。
どういう仕組みかは知らないが、口から摂取して胃に飲み下した体液はいつの間にかそのままオレの体を巡っている。
生理学の授業も真っ青なファンタジー体験だが、オレの血になっちゃってるんだからしょうがない。
一人ツッコミはこの300年で飽きるほどやったから、オレはジュルジュルと無心で吸い尽くした男の血をゲップを噛み殺しながらなんとか飲み下して、男の乾ききった唇に自ら噛み切った親指をすぐさま突っ込んだ。
ジュウ……。
微かな音と煙のような何かを体中から吐き出しながら男は見る間に瑞々しい体に戻り始めた。
それと同時に千切れた四肢やらハラワタやらもくっつき始めていく。
おっとと。やべー、膵臓と肝臓の位置間違えてくっつけるとこだった。
完全にくっつく前に無惨に引き千切られた臓腑を素早く正しい位置に入れ替え、男の体がある程度復元されていくのを待つ。
そろそろ体はくっついたかな。ある程度くっ付いたらさっさと家に持って帰ろう。
あんまり長く同じ場所にいるとアイツに嗅ぎつけられて……。
「美味そうな匂いだな、シバ」
あっちゃあ……。もう来ちゃったよ。
いつの間にか、近くの大木の上に大きな影が音もなく現れていた。
「ニンゲンだな。寄越せ」
「セリ……」
月の光に照らされたその姿はまるで月の化身。
巨大で、禍々しささえその身の美しさを引き立てる要因じゃないかとすら思う美しい銀の獣が視線の先にいた。
魔狼セリ。
コイツはオレにとって天敵というしかない存在だ。
なぜならコイツは異世界ファーストコンタクトでオレを食い殺してくれた魔獣だからである。
そして吸血鬼化して300年経った今も、オレのことを事あるごとに食い殺してくれる害獣だ。
「今日は良い夜だ。ニンゲンとお前の両方を味わえる」
「いや食わせねえよ?」
しかも腹立つことにこいつはオレを食ったことを決起に異常なレベルアップを果たして今も自身の存在階級を上げ続けているのだ!
最初に喰われた時にはこいつはどこの森にも居る森狼程度の存在だったのに、今じゃ狼王とか魔狼とかいかにも強そうな2つ名で呼ばれている。
食われているオレの方は今もしがない吸血鬼のままなのに……!
「前回食ったのは3か月程前か……シバ、頑張って美味くなっただろうな?最初に喰った時はこの世の物とは思えんほどうまい臓腑だったのに。今のお前の臓腑は灰の様にジャリジャリして非常にまずい。食ってもレベルも上がらんし何の足しにもならん」
「だったら食うな」
そう、オレが今も狙われ続けるのは最初に食べたオレが忘れられない位美味かったらしいというふざけた理由からきている。
オレを食って以来ニンゲンの肉の美味さに味を占めたこのクソ狼は他のニンゲンも好んで狩るようになった。だがいくら食べてもあの美味さには遠く及ばない。
オレと他のニンゲンの何が違うのか。美味い味というものを知ってしまい、グルメ狼になってしまったこのクソ狼は美味い獲物について悶々と悩んでイライラしていたところに、死んだはずのオレが不用心に夜の森をフラフラうろついていたのを再び見つけて、この不毛な弱肉強食ライフサイクルが再開されたのだ。
だが二度目に食べたオレは大層不味い存在になっていた。そう、オレは吸血鬼になっていたから。
クソ狼曰く、吸血鬼の臓腑というのは、食えないほど腐りきった肉の腐臭と灰を塗したようなエグミとジャリジャリ感があり、得も言われぬ不味さを際立たせてて二度と食いたくないような味がするらしい。
毎回不味い不味いとブーブー言いながらオレの臓腑を食い漁るのをホントやめてほしい。オレのメンタルも食い荒らされるから。
現にもう食うなといっているが、いつかまた美味くなるかもしれないという謎の期待を持たれており、オレへの捕食行為は中止されることなく今も続いている。
不味いのに食うのを止められないとか。オレは中毒物質か何かなのだろうか……。
「まあ、時間が経てばもう一回食えるところは評価に値する」
いや、リポップしないよ?喰われて灰になって、そこから毎度頑張って復活してるの。いっつも痛いの喰われた所は。
山の掟だか知らんが、微妙に食い残して完全再生を待つの止めて。山菜じゃないんだから。変な知恵つけんな狼の癖に!
異世界ファンタジーのお約束というか、この世界では魔属性のものは聖属性のものでしか滅ぼすことはできない。したがってオレがこいつにいくら致命的ダメージを喰らっても完全に死にきることは無いし、オレもこいつに止めを刺すことができない。
オレが独り立ちするために100年の年月が費やされたのは、コイツに対抗できる力をつける為だったと言っても過言ではない。
で、成果はというと……5回に3回は間一髪でコイツから逃げられるくらいには成長しましたよ。
父さんに鍛えられてオレは、この世で最も狼が苦手な、狼狩りが得意という矛盾した狩人になった。
だが、今日でこの不毛な争いは終わる。そう、何故ならオレは気付いたのだ。
「あのさあ、オレ300年近く考えたんだけど!オレ人間だった頃珍しいモン食ってたの!それが内臓に入ってたの!だから血しか飲んでない今のオレの内臓食ったって美味しくないのそのせいだと思うわけ!」
そう、オレは異世界転移者。
当時のオレの腹の中にはこの世界にはない異世界の料理が消化されている最中だったはずだ。良くは覚えてないが、カツカレーだか、焼きそばパンだったか、カニカマサラダ、コロッケパン、チャーハン、卵サンドに杏仁豆腐が入ってたような……。え、量がおかしい?運動部員は腹が減るの!
とにかく腹を下してたからそんなこんなが未消化な状態で入ってただろう。生肉しか食ってなかった狼にはさぞかし衝撃的な味がしたはずだ。
だがバンパイヤになった今、オレは料理は食わない。ましてや異世界料理なんて二度と食うことがない代物だ。そう、オレはコイツにとって二度と美味いエサにはならないのだ。
「珍しい物とはなんだ」
「えー色々あるけどお前に言ってわかるか……」
「言え」
「ヒッ!凄むなよ……調味料つーか、香辛料というかさ……」
「コーシンリョ……、とはなんだ」
「えっ。あ、えーとね。唐辛子とか胡椒、が、ガラムマサラ?とかそういうモン……」
「トンガラシ。コショ……」
セリは鼻梁に皺を寄せて、考えるように宙を睨んだ。
わかるわけねーと思うよ。そもそもこの世界にはないもん。
「どこで手に入る」
「いや、正直オレも知らね。似たようなもんは南にあるとかしか。行商人から買えるのもあるけど」
血しか飲めない吸血鬼にとって、最早スパイスは無用の長物だ。
オレもニンゲンの狩人として怪しまれない程度の体裁を保つために、ちょっと所持するくらいしかしてない。
商品価値が下がらないように、肉の保存に使ったりする程度だ。持ってはいても実際どういう味がするかなんてよくわかってない。
「ニンゲンが持っている?」
「簡単なモノなら大抵は持ってると思うけど」
「そのコーシンリョを奪ってお前に食わせればお前はまた美味くなる?」
「え、何故そういう話になる?」
いかん。よくわからんが諦めてもらうはずが、オレの養殖ルートが確立された気がする。
無駄に知恵が回るヤツだな。そこは諦めるところだろうが!
「わかった。コーシンリョは次に手に入れて見せる。今日はそのニンゲンだ。寄越せ」
「何がわかっただ、何もオレの言うことわかってねーじゃねえかこのクソ狼。やだね!」
「弱いくせにまだ抵抗するか。手のかかるヤツめ」
「聞き分けのない駄々っ子の扱いやめてくんねーかなッ。こいつはもうオレの眷属なんだ食わせてたまるか!」
「眷属?ボッチのお前に?」
「今日からボッチじゃねーもん!」
新しい家族が増えましたー!
オレよりでっかいけど!初めてのオレの息子(眷属)!名前もまだ知らねえけどッ?
「今日のお前はやけに反抗的だな。気に入らん。勝手に増えるとは節操がない」
「なんでお前の許可がいるんでー。お前はオレのお袋か!」
「節操」とかコイツの口からそんな単語がでてくるとは……。
魔狼様はほんとにお偉くなりやがりましたね。あーもう、腹立つなーこのクソ狼。
「何故?」
セリの眼孔がほのかに妖しい光を漂わせる。
「お前は……俺の獲物だろう?」
ゲ!来る!
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