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女神のパレード
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華やかに飾られた木製の階段から、花のいい香りが鼻腔をくすぐった。
「フェーリ、手をどうぞ」
絨毯の柔らかい感触を足の裏で感じながら、差しだしてくれたジョセフの手に自分の手を重ねた。
先ほどの儀式で、先代王の名を継承したジョセフは、テワダプドル国王として正式に即位した。儀式の前から緊張してきたけれど、特に変な失敗もなく、今のところまだ順調だ。
これから儀礼最後の行事であるパレードに移る。
今朝、早くから数十人の侍女に囲まれて、身体のすみずみまで綺麗にみがかれた。
そうして、あれよあれよという間に髪飾りからアンクレットまで、全身を純金の装飾品で飾り立てられたのだ。
ひとつ一つ色の違う宝石がはめ込まれていて、どれも繊細でとっても美しい。
とはいえ、金属なりの重量があって、あまり自由に動けない。パレードをするのに少し不便だが、支障にはならない。それより、問題は私の格好だ。
ここの女神を意識した伝統的な衣装。金系で美しい刺繍がほどこされて、目が痛いほど豪華だ。しかし、最大の問題はその派手さではない。
実は私、朝からずっと裸足なんだ。しかも、肩とお腹を丸出しにしている……。
儀式用だと聞いたけれど、城内だけではなく、パレードもこの服装なの⁈
もともとそういう文化だと知っていたけど、まさか私が女神の格好をするなんて聞いてないよ……!
うぅ、この姿で神殿を一周するなんて恥ずかしすぎる。
ジョセフに困惑の眼差しを向けると、笑顔で「大丈夫。とても似合っていますよ」と返された。いや、嬉しいけど、そうじゃなくて。
靴は諦めるから、せめてローブくらい羽織らせて……!
ニロとセルンも私の服装に不満を持っている。だが、護衛にとやかく言う権利などあるはずもなく、二人とも不機嫌そうな顔をしているのだ。
うっ、心なしかニロの顔がさっきよりも怖い。その隣のセルンも眉間に深いシワをよせているが、少しだけ嬉しそうにみえるのは気のせいだろうか。
「さあ、行きましょうか」
戸惑う私の手を軽く握り、ジョセフが階段のほうへ誘導してくれた。
やはりこのままでいくしかないみたい……。
背後にキーパーがいるから、あまり焦った素振りを見せたくない。うっかり、怯んだ表情を浮かべて、キーパーにがっかりされたら大変なことになってしまう。
まさか、表情が動くことに困る日がくるなんて……うぅ、平常心、平常心よ。
平然を装い階段を上りきると、目を疑う光景がそこにあった。
「白い……」
こちらに向かって進んできた巨大な動物をみて、思わずそうつぶやいた。
大きな耳に長い鼻。体高およそ2メートルのその動物の背中には、人間が乗るための鞍が置かれている。前世の動物園で見なれた濃い灰色ではないけれど、これ、象さん……だよね?
白い象は女神の使いだと本に書いてあった。てっきり、伝説の生き物だと思っていたけれど、普通に実在しているのね……。
ポカンとしている私の隣で、ジョセフが口を開いた。
「白い象はアルビノか白変種ですが、それが非常に珍しいので、ここでは神聖視されています。特に、ここまで真っ白な象はなかなかいませんので、パレードをみに来ている人々もさぞ驚くことでしょう……ん? フェーリ。もしかして、君も白い象が初めてですか?」
「あ、はい。初めてみました……」
「そうですか。アジアに白い象がいると聞きましたので、君の時代になるとテレビなどで見飽きているのかと思っていました」
「い、いいえ。白いトラは報道でみたことがあるのですが、真っ白な象はみたことがありません……」
私が知らないだけかもしれないけれど……って、そんなことより、パレードって豪奢な馬車じゃなくて、象なの?
なにも考えずに階段をのぼってきたけど、よくよく見れば、この壇自体が象鞍に乗るための土台じゃない……。
この格好で象に乗り、笑顔でみんなに手を振る……うん。これはかなりきつい。
私にかかわるすべての事柄はキーパーを通さなければならないと聞いた。
私の唯一の使者として当然だと、服装から乗り物まで厳しく監督してくれたらしい。
それがこの服装に白い象……。
これ、どう考えても女神のいい伝えを再現しようとしているよね。
私が女神教を乗っ取りたいと勘違いしているの知っていたけれど、まさかこんなにもはやく動き出すとは……うぅ、どこまで徹底してやるつもりなの、キーパー。
恥ずかしさ以上に、このまま白い象に乗ってはいけない気がする。
「あの、陛下……」
おどおどした声でジョセフを呼ぶと、
「いままで通り、ジョセフでいいですよ」
ニコッといい笑顔でそう言ってくれた。
「は、はい。ジョセフ様。あの、やはり象に乗らないとダメ……ですか?」
ジョセフは私を女神に仕立て上げたいわけではないから、馬車でもいいと言ってくれるかも知れない。
思いきってそう訊ねれば、私の意図を察したのか、ジョセフが困ったような表情を浮かべた。
そう期待されても困るってことかな……。
「ああ、象は温厚で、仲間を思う特別な動物です。そんな動物を捕獲して働かせるのは気がとがめます。ただ、機械がまだ発明されていない今、人々は象の労働力に頼っています。これは仕方ないことですが、象に乗りたくないフェーリの気持ちもわかります。今後はできるだけ飼象の環境を改善していくつもりなので、今回は少し、我慢していただけますか?」
うん。たしかに、動物虐待のきっかけにつながるから、前世は観光地に行っても絶対に象に乗らない。
その気持ちはもちろんあるけれど、今はもっと個人的な事情で乗りたくないの……!
もう少し抗議したいところだが、今さら馬車に変えて! なんてわがままを言ったら、多くの人に迷惑をかけてしまう。
昨日の段階で確認するべきだった。なんで思いつかなかったのだろう……。
げんなりしつつもジョセフにうなずき、金箔が貼られた鞍に乗った。すると、ジョセフは私の手を離し、別の象に乗った。
え、私、一人なの……?
白い象は女神専用の乗り物だけれど、ジョセフは王様だから大丈夫だよ……。
キーパーがこちらを見ているから、ジョセフに声をかけづらい。
うぅ、キーパーの目がすごいキラキラしている。
なにかを言って欲しそうな顔。
キーパーの努力を褒めたほうがいいのかな? でも、それでエスカレートしたら大変なことになってしまう。不用意に反応しないほうがいいよね、絶対……。
やんわりと目をそらせば、キーパーが急に「はい、ちゃんと分かっております!」と背筋をぴんと伸ばした。
えっ、なに⁇
いまので一体なにがわかったの……⁈
そうしてあわあわと階段を駆け降りていくキーパーの背後をみて、あまり深く考えてはいけない気がした。
諦めて地上を見おろせば、象の牙を撫でるニロの姿が見えた。
そんなニロの手に象が鼻を巻きつけて、口に押しこんだ。
あっ、ニロが食べられちゃう……!
「くくくっ」
あれ、ニロが笑ってる……。
「ニロ、大丈夫? 噛まれてない?」
「ふふっ。ふむ、大事ない。よく見たまえ、フェーリ。こやつは余と戯れているだけだ」
そう言ってニロが手をほどくと、白い象が鼻でニロの頬をなでた。あ、本当だ。すごいわ……って、なんでニロが象と仲良くしているの……?
「ふむ。立派に見えるが、こやつは余とほぼ同い歳で、同じ雄だ。それゆえ、仲間だと思ってくれているらしい」
私の思考をよんだのか、ニロがそう説明してくれた。
(ニロが……象の仲間……?)
よく分からず首を傾げれば。
「ふむ。こやつの瞳を見れば、よしみを通じたい気持ちが伝わってきたゆえ、おそらくそうであろう」
とニロは象のカラダを軽く叩いて、微笑んだ。
(気持ちが伝わる……え、もしかして、ニロのタレントは動物にも効くの⁈)
「ふむ。そうかも知れないが、それだけではないぞ、フェーリ。もともと、こやつは人間の感情が分かる奇妙な動物のようで、どうやら、余とは気持ちを通じあえるとすぐに分かったらしい……ん? ふむ、そうか。フェーリ。お前を落とさないゆえ、そう案ずるなと伝えたいようだ」
(……え?)
ニロの言葉と同時に、象が私のほうに鼻を伸ばしてきた。
これは触って欲しいってことなのかな?
ビクビクとその白い鼻にふれると、「ブゥッブゥッ~」と象が小さく鳴いた。あれ、パオーンじゃない。象はこんな風にも鳴くんだ……。
そうして鼻をなでていれば、白い象が前足を軽くあげて、大きな耳をパタパタさせた。私と気持ちが通じて喜んでいるのがすごい伝わってくる。
象って人懐こいんだ……。うん。少し、かわいいかも……。
白い象とふれあっている間、それぞれ異なる制服をそろえた近衛兵隊が私とジョセフを中心にぞろぞろと整列した。
王家と聖女教の紋章の旗を手に、旗手が歩き出すと、白い服を身につけた軍楽隊が演奏をはじめた。
さっきから馬に乗っているセルンは、後ろにいる黒い服の騎兵隊の先頭に立って、待機している。
遅れてその隣をならんだニロをちらりとみると、セルンが「あ~あ」と聞こえよがしにため息をついた。
そうして、いろんな意味で私の『恥のパレード』がはじまった。
「フェーリ、手をどうぞ」
絨毯の柔らかい感触を足の裏で感じながら、差しだしてくれたジョセフの手に自分の手を重ねた。
先ほどの儀式で、先代王の名を継承したジョセフは、テワダプドル国王として正式に即位した。儀式の前から緊張してきたけれど、特に変な失敗もなく、今のところまだ順調だ。
これから儀礼最後の行事であるパレードに移る。
今朝、早くから数十人の侍女に囲まれて、身体のすみずみまで綺麗にみがかれた。
そうして、あれよあれよという間に髪飾りからアンクレットまで、全身を純金の装飾品で飾り立てられたのだ。
ひとつ一つ色の違う宝石がはめ込まれていて、どれも繊細でとっても美しい。
とはいえ、金属なりの重量があって、あまり自由に動けない。パレードをするのに少し不便だが、支障にはならない。それより、問題は私の格好だ。
ここの女神を意識した伝統的な衣装。金系で美しい刺繍がほどこされて、目が痛いほど豪華だ。しかし、最大の問題はその派手さではない。
実は私、朝からずっと裸足なんだ。しかも、肩とお腹を丸出しにしている……。
儀式用だと聞いたけれど、城内だけではなく、パレードもこの服装なの⁈
もともとそういう文化だと知っていたけど、まさか私が女神の格好をするなんて聞いてないよ……!
うぅ、この姿で神殿を一周するなんて恥ずかしすぎる。
ジョセフに困惑の眼差しを向けると、笑顔で「大丈夫。とても似合っていますよ」と返された。いや、嬉しいけど、そうじゃなくて。
靴は諦めるから、せめてローブくらい羽織らせて……!
ニロとセルンも私の服装に不満を持っている。だが、護衛にとやかく言う権利などあるはずもなく、二人とも不機嫌そうな顔をしているのだ。
うっ、心なしかニロの顔がさっきよりも怖い。その隣のセルンも眉間に深いシワをよせているが、少しだけ嬉しそうにみえるのは気のせいだろうか。
「さあ、行きましょうか」
戸惑う私の手を軽く握り、ジョセフが階段のほうへ誘導してくれた。
やはりこのままでいくしかないみたい……。
背後にキーパーがいるから、あまり焦った素振りを見せたくない。うっかり、怯んだ表情を浮かべて、キーパーにがっかりされたら大変なことになってしまう。
まさか、表情が動くことに困る日がくるなんて……うぅ、平常心、平常心よ。
平然を装い階段を上りきると、目を疑う光景がそこにあった。
「白い……」
こちらに向かって進んできた巨大な動物をみて、思わずそうつぶやいた。
大きな耳に長い鼻。体高およそ2メートルのその動物の背中には、人間が乗るための鞍が置かれている。前世の動物園で見なれた濃い灰色ではないけれど、これ、象さん……だよね?
白い象は女神の使いだと本に書いてあった。てっきり、伝説の生き物だと思っていたけれど、普通に実在しているのね……。
ポカンとしている私の隣で、ジョセフが口を開いた。
「白い象はアルビノか白変種ですが、それが非常に珍しいので、ここでは神聖視されています。特に、ここまで真っ白な象はなかなかいませんので、パレードをみに来ている人々もさぞ驚くことでしょう……ん? フェーリ。もしかして、君も白い象が初めてですか?」
「あ、はい。初めてみました……」
「そうですか。アジアに白い象がいると聞きましたので、君の時代になるとテレビなどで見飽きているのかと思っていました」
「い、いいえ。白いトラは報道でみたことがあるのですが、真っ白な象はみたことがありません……」
私が知らないだけかもしれないけれど……って、そんなことより、パレードって豪奢な馬車じゃなくて、象なの?
なにも考えずに階段をのぼってきたけど、よくよく見れば、この壇自体が象鞍に乗るための土台じゃない……。
この格好で象に乗り、笑顔でみんなに手を振る……うん。これはかなりきつい。
私にかかわるすべての事柄はキーパーを通さなければならないと聞いた。
私の唯一の使者として当然だと、服装から乗り物まで厳しく監督してくれたらしい。
それがこの服装に白い象……。
これ、どう考えても女神のいい伝えを再現しようとしているよね。
私が女神教を乗っ取りたいと勘違いしているの知っていたけれど、まさかこんなにもはやく動き出すとは……うぅ、どこまで徹底してやるつもりなの、キーパー。
恥ずかしさ以上に、このまま白い象に乗ってはいけない気がする。
「あの、陛下……」
おどおどした声でジョセフを呼ぶと、
「いままで通り、ジョセフでいいですよ」
ニコッといい笑顔でそう言ってくれた。
「は、はい。ジョセフ様。あの、やはり象に乗らないとダメ……ですか?」
ジョセフは私を女神に仕立て上げたいわけではないから、馬車でもいいと言ってくれるかも知れない。
思いきってそう訊ねれば、私の意図を察したのか、ジョセフが困ったような表情を浮かべた。
そう期待されても困るってことかな……。
「ああ、象は温厚で、仲間を思う特別な動物です。そんな動物を捕獲して働かせるのは気がとがめます。ただ、機械がまだ発明されていない今、人々は象の労働力に頼っています。これは仕方ないことですが、象に乗りたくないフェーリの気持ちもわかります。今後はできるだけ飼象の環境を改善していくつもりなので、今回は少し、我慢していただけますか?」
うん。たしかに、動物虐待のきっかけにつながるから、前世は観光地に行っても絶対に象に乗らない。
その気持ちはもちろんあるけれど、今はもっと個人的な事情で乗りたくないの……!
もう少し抗議したいところだが、今さら馬車に変えて! なんてわがままを言ったら、多くの人に迷惑をかけてしまう。
昨日の段階で確認するべきだった。なんで思いつかなかったのだろう……。
げんなりしつつもジョセフにうなずき、金箔が貼られた鞍に乗った。すると、ジョセフは私の手を離し、別の象に乗った。
え、私、一人なの……?
白い象は女神専用の乗り物だけれど、ジョセフは王様だから大丈夫だよ……。
キーパーがこちらを見ているから、ジョセフに声をかけづらい。
うぅ、キーパーの目がすごいキラキラしている。
なにかを言って欲しそうな顔。
キーパーの努力を褒めたほうがいいのかな? でも、それでエスカレートしたら大変なことになってしまう。不用意に反応しないほうがいいよね、絶対……。
やんわりと目をそらせば、キーパーが急に「はい、ちゃんと分かっております!」と背筋をぴんと伸ばした。
えっ、なに⁇
いまので一体なにがわかったの……⁈
そうしてあわあわと階段を駆け降りていくキーパーの背後をみて、あまり深く考えてはいけない気がした。
諦めて地上を見おろせば、象の牙を撫でるニロの姿が見えた。
そんなニロの手に象が鼻を巻きつけて、口に押しこんだ。
あっ、ニロが食べられちゃう……!
「くくくっ」
あれ、ニロが笑ってる……。
「ニロ、大丈夫? 噛まれてない?」
「ふふっ。ふむ、大事ない。よく見たまえ、フェーリ。こやつは余と戯れているだけだ」
そう言ってニロが手をほどくと、白い象が鼻でニロの頬をなでた。あ、本当だ。すごいわ……って、なんでニロが象と仲良くしているの……?
「ふむ。立派に見えるが、こやつは余とほぼ同い歳で、同じ雄だ。それゆえ、仲間だと思ってくれているらしい」
私の思考をよんだのか、ニロがそう説明してくれた。
(ニロが……象の仲間……?)
よく分からず首を傾げれば。
「ふむ。こやつの瞳を見れば、よしみを通じたい気持ちが伝わってきたゆえ、おそらくそうであろう」
とニロは象のカラダを軽く叩いて、微笑んだ。
(気持ちが伝わる……え、もしかして、ニロのタレントは動物にも効くの⁈)
「ふむ。そうかも知れないが、それだけではないぞ、フェーリ。もともと、こやつは人間の感情が分かる奇妙な動物のようで、どうやら、余とは気持ちを通じあえるとすぐに分かったらしい……ん? ふむ、そうか。フェーリ。お前を落とさないゆえ、そう案ずるなと伝えたいようだ」
(……え?)
ニロの言葉と同時に、象が私のほうに鼻を伸ばしてきた。
これは触って欲しいってことなのかな?
ビクビクとその白い鼻にふれると、「ブゥッブゥッ~」と象が小さく鳴いた。あれ、パオーンじゃない。象はこんな風にも鳴くんだ……。
そうして鼻をなでていれば、白い象が前足を軽くあげて、大きな耳をパタパタさせた。私と気持ちが通じて喜んでいるのがすごい伝わってくる。
象って人懐こいんだ……。うん。少し、かわいいかも……。
白い象とふれあっている間、それぞれ異なる制服をそろえた近衛兵隊が私とジョセフを中心にぞろぞろと整列した。
王家と聖女教の紋章の旗を手に、旗手が歩き出すと、白い服を身につけた軍楽隊が演奏をはじめた。
さっきから馬に乗っているセルンは、後ろにいる黒い服の騎兵隊の先頭に立って、待機している。
遅れてその隣をならんだニロをちらりとみると、セルンが「あ~あ」と聞こえよがしにため息をついた。
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