天を仰げば青い空

朝比奈明日未

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番外編(完結後)

2020年 クリスマス話(ツイッター掲載分)

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 最初の貴方とのクリスマスは男二人だからと鍋を食べましたよね。
 何故かそこから毎年毎年貴方といつもクリスマスを過ごして、いつの間にか恋人になっていて。
 色々とありましたが、僕らは今…


「陽、今年はどこに集合なんだよ」
「ふふ、当日までのお楽しみ、と言いたい所なんだけど…。今年は僕が半休取れたのでお迎えに行きますね」
「…マジ?」
「はい、えらくマジです」
「ふはっ、陽が言うとすげー違和感」


 こうやって自然と話せるようになったのは間違いなく貴方のお陰です。
 だからどうにか感謝を伝えたくて。クリスマスなら確実に夜を空けてくれますから、ここだと思ったんです。
 僕を変えてくれた貴方を。
 僕を守ってくれた貴方を。
 僕を支えてくれた貴方を。
 そして何より、僕を愛してくれた貴方を。
 僕は幸せにしたいんです。
 

「あ、陽!」
「お疲れ様です、凪さん」
 当日になって、半休を取った僕は家に帰って着替えてから凪さんを迎えにきた。今年の冬は冷え込むと聞いていたからもしかして、と思っていたら案の定天気は夜には平野部でも雪が降るかもしれない、とのことで。
「それで?いい加減教えてくれても良くないか?」
「まぁまぁ。少し謎解き気分でいてください。これからお店に一軒だけ寄っていきます。それから向かいますので」
 誤魔化すように笑みを向けたらムッとされてしまったけれど、言ったら貴方は緊張してしまうから。
 もう少し、気づいてからにしてもらってもいいでしょうか?なんて。
「ここです」
「…いや、いや、ここ…!」
 立ち寄ったのはオーダーメイドでスーツを仕立ててくれるお店で。ここは父がお世話になっていたところで、今回初めて僕も使わせてもらった。実はコートの下に僕もスーツを着ているんだけど、多分凪さんは気がついてない。
「いらっしゃいませ」
「六月一日です」
「既に準備はできております。こちらへどうぞ」
「え?え?あ、はるっ!」
「取って食われやしませんよ。いってらっしゃい、凪さん」
 手を引っ張られるようにして奥の部屋へと連れ去られていく凪さんに軽く手を振って見送る。
 三十分もあれば部屋から出てきて髪も少しまとめてくれたらしく、どこへ行っても堂々としていられる成人男性が一人出来上がっていた。
 僕が勝手にあれこれと選んでしまったけれど悪くなかったと思う。身長やスリーサイズ、顔写真などを見せて数ヶ月前から頼んでいただなんて言ったら驚かれるだろうか。
「うー…これ絶対高いだろ…!どんだけ高い店に連れてく気なんだよ」
「あはは、流石に気がついちゃいました?そんなに凄い高い所へは行きませんよ。ただ、僕が浮かれちゃってるだけなので」
「はぁ?それでこんな何十万もするもん作ったのか!?」
「こちらはどうなさいますか?」
「予定通り全てまとめて宅配で送っておいてください。住所はこの間渡したところです。請求はまとめてお願いします」
「かしこまりました。それでは大切なお二人の時間をお楽しみくださいませ」
「いや、いや…!」
「ほら、行きますよ」
 時間に遅れちゃいます、と伝えると途端大人しく着いて来てくれるあたり、律儀な人だなぁと思う。そんな彼も大好きだ。
「で、こう言うところに連れてきちゃうんだもんな」
「それでも半年前で予約取れましたからね」
「気が早過ぎんだろ…」
 そこそこのホテルの夜景が綺麗なレストランを予約しておいたのだが、ベタ過ぎたかもしれない。けれど、ベタなことをするのだからこれでよかったと思う。金額が全てだなんて思わないけど、凪さんを最高にかっこよく仕立て上げて連れて歩きたくて、いいお店で美味しいご飯を食べている姿を見ながら僕も幸せに浸って、できれば凪さんもそれを楽しんでくれたら嬉しいと思ったから。
 こんなに畏まったお店では、と最初思ったのだが、ここはサービスも良いが何より料理の腕がいいと聞いた。凪さんは美味しい食べ物が大好きだし何だったらその種類は問わずだから本当になんでも美味しいものなら嬉しそうに食べてくれる。

「でも、凪さんの好みそうなお店だったんですよ、ここ」

 こうやって言えば頬を染めて目を逸らして、その可愛い小さな唇を尖らせて聞こえないような文句を言うんですよね。その気もないのに照れ隠しするの、もう覚えちゃいました。
 あぁ可愛い。
 こんなことで照れてしまうのに、時に豪胆なことをするのだから本当に何度も惚れ直す。
「…本当に美味いとか悔しい」
「そう言わないで。でも、思ったよりボリュームもありましたね」
「フルコースだったからな、なんだかんだ。デザートで終わるのが寂しいなんて久々なんだけど、俺」
「ふふ、じゃあこれで少しは満たされますかね?」
 ありきたりな小さなベルベットの箱。開けたら当たり前のようにある指輪。シンプルなシルバーリングで内側にはサファイアが埋め込まれている。それをそそくさと手を取って凪さんの左手薬指にはめて、自分の分を凪に持たせる。
「おま…、はー…なんとなく分かってたけどさ…分かってたけど…」
「安心してくださいね。婚約指輪は別で用意するので」
「マジかよ…これただのペアリングのつもりなのかよ…」
「そう言うことです」
「その心は?」
「僕の今日までの貴方への感謝、ですかね。それと僕からの貴方への我儘な愛情です」
 項垂れてから目線だけを僕に寄越していた凪さんがスッと顔を上げ、途端上機嫌に笑った。

「良いねぇ!最高のクリスマスプレゼントだ!」

 そうやって笑って僕の指にも指輪がはまる。
 どうやら僕の気持ちは伝わったようだ。


 窓を見ればひらひらと雪が舞っている。
 こうしてまた、貴方との思い出が増えていく。
 僕の我儘な愛情が貴方を喜ばせるだなんて、本当に僕には貴方しかいない。

 来年のクリスマスは凪さんの番。
 彼は何を僕にしてくれるのだろうか。今からとても楽しみだ。
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