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クアレールの内乱
第122話 事後処理と共に
白竜城の玉座の間にて、陽炎は片膝をついて俺達に頭を下げて来た。
「俺を雇って欲しい。これでも暗殺者として名を馳せた者だ、役に立つ」
……アミルダ暗殺を狙って失敗し、捕縛していた陽炎が仕官を求めて来た。
いや暗殺者を雇うのはリスクが高すぎる気が……というかアミルダ殺そうとしておいて、何をいけしゃあしゃあと!
生かしておくのは危険なので殺すなりしておかないと!
「陽炎はこう言っている。お前たちはどう思う?」
「反対だ。命を狙って来た暗殺者だし、いつまた裏切ってもおかしくない」
即座に否定の意見を出す。
「吾輩は暗殺は好まぬ。だがこやつに敵城などに侵入させる腕は使えるのである。クアレールの第一王子、第二王子の暗殺は並みの腕では成せぬ」
だがバルバロッサさんは賛成派なのか……!? いやこいつはアミルダを暗殺しようとした大罪人だぞ!?
二度と同じことをする奴が出ないように、釜茹でにするくらいは必須だろ!
「いや待ってくれ。こいつはどう考えても放免したらダメな奴だろ……!」
「リーズ、落ち着け。今までも我が国は裏切り者を雇ってきたはずだ。裏切りの十本槍にビーガンの裏切り兵も、すでに農地を与えて畑を耕させている。この者が寝返った理由も納得がいくものだ」
だが暗殺を仕掛けられた当の本人のアミルダは涼しい顔をしている。
「……暗殺狙われたのに怒ってないのか?」
「敵国の王が私を殺したいと思うのは当たり前だ。そしてこの陽炎はただ依頼を、しかも半強制的に受けさせられただけ。こやつはもう母国を裏切ったのだし、ならば遺恨はない」
そ、そういうものなのだろうか……俺だったら殺されかけた奴を許しはしないのだが……。
「それに私はこの陽炎という者の気位は嫌いではない。自分の身を守るために立ち回り、捨て駒にされてなお暗殺を仕掛けて義理を通してから裏切る。むしろ忠義者の類だろう」
「ちゅ、忠義者……?」
「吾輩もそう思うのである。暗殺者にしては骨のある奴」
暗殺者で裏切り者という時点で、忠義者なんて言葉はあまりに似つかわしくない……。
でも言われてみればこの陽炎は、わざわざ危険を犯してまで義理は果たしてるんだよな。
失敗する確率が高いと判断していたのだ。忍び込む危険を犯さずとも、最初から俺達に情報など売り渡すこともできたのに。
それこそ捕縛じゃなくて殺される恐れもあったし、今なお処刑される可能性だってあるわけだ。
「陽炎、貴様に問う。貴様は捨て駒にされたから裏切った。だが重く扱えば寝返りはしないタイプだろう?」
「然り。俺は従うに相応しき主の元ならば、殉死しようが構わない。だが下らぬ無能共のために使うほど我が命は安くはない」
「私は暗殺を望まない。諜報の依頼をするが構わぬか?」
「問題はない。我が腕は暗殺こそ最も活かされるが、諜報活動も得手なり」
本当に雇うのか……とはいえ暗殺狙われたアミルダが許すなら、俺がぐだぐだ言ってもただの我儘だな……。
「……陽炎。アミルダ殺そうとしたら燃やすぞ」
「構わぬ、我が刃は裏切られぬ限りは振るわぬ。では早速だが諜報の仕事をさせてもらおう。俺の雇い主だったパプマの商業ギルド長の、逃亡先についてだ」
「それも助かるためのダシにすればよかっただろ」
「これは交換条件ではなく新たな雇い主に対しての仕事だ。自分の助命のために言うつもりはなかった」
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ビーガンに陽炎を貸し出したことで、パプマを滅びに導いた元商業ギルド長。
彼はすでにパプマから逃亡していて、周辺諸国ズの一国に亡命していた。
「や、やはりパプマは実質滅んだか。逃げ出しておいて正解じゃった。危うくハーベスタ国への暗殺首謀犯として、あの女王に差し出されていたかもしれぬ。流石にここまで逃げれば見つかりはせぬしの」
元商業ギルド長は購入した屋敷の一室で、パプマが酷いことになっている噂を聞いて安堵していた。
事実として彼が逃げていなければ、間違いなくハーベスタ国への謝罪として差し出されていた。
それもハーベスタ軍が挙兵する前にだ。そうすれば話し合いの余地も生まれていた。
もしこの者の首があればパプマはここまで酷いことにならなかった可能性もある。
パプマ議会の話がまとまらなかった理由のひとつに、戦犯張本人が既に逃げ出していて責任を取らせられる者がいなかったのもあったのだから。
この者のせいでパプマは今後は荒れ狂うのだ。
民は戦で傷つき、畑は荒れて飢え死も多数出るだろう。そんな中でこの者は気楽に笑みを浮かべていた。
「さてと……今日はとっておきの酒でも開けるか。メイドよ、酒を持ってこい」
茶髪を伸ばしたメイドは彼の前にあった机に、酒の入ったグラスを差し出した。
その酒を一気に飲み干して「ぷはぁ」と声をあげる元商業ギルド長。
「うむ! 命が助かった後に飲む酒は格別じゃわい! しかし議会の奴らが処刑されたのは見たかったのー。ワシに散々逆らった奴らも死んだと思えば酒もよりうまくなるものよ」
「そうなんですか? むしろ美味しくないと思いますけど」
「それはお前が酸いも甘いも知らぬ若い娘だからよ」
「酸っぱいのはともかく、甘いのは他の人より知っている自信はありますよ? いっぱい食べてます」
元商業ギルド長は好色な笑みをメイドにぶつける。
「はっはっは、メイド風情が甘い物を存分に食べられるわけがなかろう。見栄を張らぬでよい。だが……ワシと寝れば食わせてやらぬこともないぞ?」
メイドの胸に手を伸ばそうとする元商業ギルド長。
だが彼が服の上から胸に触ろうとした瞬間。
「救いようがなく気持ち悪いですこの人……今必殺の、エミリフラッシュ!」
メイドは凄まじく発光し始めた。
少し薄暗かった部屋が、眩しさで何も見えなくなるほど光に包まれる。
「め、めが、めがあぁあぁぁぁぁぁ!? なんじゃあ!?」
目を完全にやられてのたうち回る元商業ギルド長。
エミリフラッシュ、それは恐るべき極光を繰り出す危険魔法。
暗い部屋で直視すれば失明の可能性があるため、自軍への警告として『今必殺の』と枕詞をつける義務を与えられた魔法。
もはや網膜を焼くレーザー兵器である。それを至近距離で受けた元商業ギルド長の目は、二度と光を取り戻さない。
「陽炎さーん。これでいいですか?」
「……鮮やかな手口だ。そのほわわんとした空気を纏っていては、とても暗者の類には見えない」
「私ただの貴族令嬢なので……」
「ふっ。ではハーベスタ国に運ぶぞ」
「鼻で笑いませんでしたか今っ!?」
陽炎は紐で元商業ギルド長の両手を縛って連行しようとする。
何も状況が分からぬまま縛られた哀れな男は悲鳴をあげた。
「ど、どうなっている!? なにがおきているんだ!? 私をどうする!?」
「俺は捕縛を命じられただけなので詳細は知らぬ。聞いた話では俺の代わりに陽炎として釜茹でにされるそうだ」
「か、釜茹で!? そんなバカな!?」
「何はともあれ来るのだな。逆らうなら肉を削ぎ落すぞ」
元商業ギルド長はハーベスタ国のギャザまで連行されてから、天下の大暗殺者として広場で釜茹での刑に処された。
目が見えない状態で煮えたぎった湯に沈められたのだ、彼からすれば恐ろしき地獄であっただろう。
こうしてビーガン、パプマとの戦に完全に決着がついた。
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