15 / 220
カール領との対決編
第15話 二度目の襲撃
しおりを挟むカール領の領主屋敷では、二人の男が高級な食事をとっていた。
いや今のカール領では領民は木の根を食らう食事だ。それを考えれば恐ろしい贅を尽くした晩餐だろうか。
「魔法使い殿、頼みますぞ。フォルン領をその魔法で倒してくだされ」
「もちろんですとも。フォルン領主もろとも、我が魔法で燃やしまする。約束通り、フォルン領の財産の三割は頂きますがね」
魔法使いと呼ばれた男は、機嫌よさそうにナイフで肉を切って口にいれる。
カール領主は一瞬だけ顔をしかめたが、すぐに下卑た笑みを浮かべた。
「分かっております。我らが七割、パプテマ商会が三割」
「フォルン領主も実に愚かだ。我らがパプテマ商会に喧嘩を売るとは。我らの指示通りに金を払っていれば、特別に生かしてやっていたのに」
「本当にあの無能は救いようがない。人としての格が違うというのに、逆らおうとすることが愚かだ」
彼らは領民たちから搾り取った税で食事をむさぼる。
それに一切の罪悪感を感じさせない。
「フォルン領主の分際で魔法を使えるとはな。だがしょせんは素人だ」
「ですな。奴らが金を渡さぬせいで、借金が返せないのです。本当にゴミはゴミらしくしていろと」
彼らの中で話はまとまったようだ。負ける想定などしておらず、勝った後にどのような物を買うかなどを話し始めた。
ーーーーーー
「ひっく、かかってくるでござる」
「「「うおおおおおお!」」」
潜り込ませた密偵が、カール領に不審な動きありと報告してきた直後。
センダイはフォルン領の兵士たちを全員集めて、実戦稽古をつけていた。
五人の兵士が襲い掛かるのを、酒を飲みながら片手に持った木剣でいなす。
「それでも元冒険者でござるか? 剣とはこう振るうのでござる」
センダイの木剣を振るうたびに、兵士たちの悲鳴があがる。
他の兵士たちはそれを唖然と見ていた。
「お、おい……やっぱりセンダイ隊長強すぎるよな……」
「酔っぱらってフラフラなのに、俺達の攻撃全く当たらねぇ……」
「俺達の中で特に強い五人なのにな」
結局五人の兵士たちは、立ち上がることができなくなるまで痛めつけられた。
センダイは彼らの攻撃にかすることすらなく、酒をぐびぐびと飲むと。
「アトラス殿。いかがでござるか?」
俺に対して意見を求めてきた。センダイによる蹂躙でこそあったが、少なくともまともな勝負になっていたと思う。
センダイが来た直後の兵士たちは、そもそもまともに武器を振るえてなかった。
「……そうだな。ボコられてはいたが、剣は鋭くなってる気がする。少なくともへっぴり腰ではないな」
「アトラス殿、誤魔化さなくてよいでござる。先ほどの試合の本音を」
「……センダイにまったく歯が立ってなかったな。五人がかりだし、少しは相手になって欲しい」
剣が鋭くなっていると思ったのも本音だ。彼らは外から雇った者もいて、かなり強くなった。
軍の兵士と名乗ってもよいくらいの力は得たと思っている。センダイが強すぎるだけで。
だが奴の求めていた言葉は感じた。なのできつい言葉を口にする。
「うむ。そなたらは弱い。五人がかりでも拙者に歯が立たぬ。ましてや一人ではその辺のウサギよ」
センダイの言葉に兵士たちは落ち込んでいる。おいおい、もうすぐカール領と戦いそうだというのに。
士気を下げてどうするんだよ! もっと盛り上げないと。我らは最強の軍とか!
「ゆえに其方らは単独で戦うな。功を焦るな、命を失っては功も何もない。蛮勇は罪、自らの力を知って拙者の指示に従え。なれば勝利の美酒を味わえようぞ」
兵士たちはセンダイの言葉を受けて、少しの間の後に雄たけびをあげた。
「そうだ! 俺達はまだ未熟だ! みんなで生きて帰るべ!」
「センダイ隊長に従えば負ける気しねーしな!」
「死んだら酒も飲めねぇ! 勝利の美酒を味わおう!」
なるほど。気が逸らないように兵士たちを戒めたのか。
下手に士気を上げれば、暴走したり浮き足だって崩壊することもある。
今の状態ならばそういったことはないし、堅実に戦ってくれるだろう。
……やはりセンダイは優秀だ。いや優秀すぎる気がする……。
「ではアトラス殿。勝利の美酒を用意頼むでござるよ」
「……え? こないだ君ら、たらふく祭りで飲んだよな!?」
「やれやれ。これで酒を用意せねば、勝った後に暴動でござるよ」
センダイ……! てめぇこれが狙いだったな!
俺の睨みを無視するように、センダイは背を向けると出陣の準備をし始める。
もう何言っても無駄だな……また出費がかさむ……。
必要経費と割り切ることにして、俺は兵士たちの様子を見る。
彼らは皆、鎧と錆びていない剣や槍を装備している。つまりそこらの兵士と同じ質の装備だ。
レスタ商会から購入して揃えた物だが、これが今回の戦闘の切り札になる。
「やれやれ。カール領との因縁も今日で終わればいいんだが」
そう愚痴りながら出陣の準備を完了。フォルン領兵士六十人を連れて、カール領との境界になる場所へ向かう。
そこではカール領の兵士たちが簡易な陣を貼っている。俺達の領に対して進軍の準備を行っていた。
人数は前と同じく三十人程度だが……心なしか動きに精彩がない。
全体的に頬なども痩せこけていて、食事もまともに取っていないように見える。
本当にあれで戦うつもりなのだろうか?
こちらの兵士は六十人いるし、腹を空かせてなどいない。この時点でこちらが極めて有利なのだが。
幻想的な馬車に乗ってついてきたカーマが、窓から顔を出して俺に話しかけてくる。
なおいつもの調停者ファッションのため顔は見えない。
「ねえお兄さん。話し合いはするの?」
「宣告くらいはする。無意味だろうがな」
三年の間、賠償金を払うことで話は終わっていたのだ。それを三ヵ月で反故にして攻めてきた相手に、もはや話し合いも何もない。
俺は拡声器を手に取ると、カール領の軍に向けて叫ぶ。
「カール領よ! これはどういうことか! 我らは少し前に国王の調停者の元で調停を結んだはず! これは重大な違反である! 国への反逆ともとれる!」
カール領の兵士たちはざわざわとわめきはじめる。
国への反逆者ともなれば、動揺も走るだろう。このまま戦闘せずに崩壊してくれればありがたいのだが。
「何が国への反逆か! 奴らは詐術で調停者を懇ろにして、有利な裁定を勝ち取ったにすぎない! そのせいで我らも飢えているのだ! 正義は我らにある! 調停者をお救いし、国家の救世主となるのだ!」
カール領主がふざけたことをわめく。
だが兵士たちは信じたらしく、俺達に対して武器を向けて構えている。
「ね、ね、懇ろ!? なんて下品な!」
カーマがかなり動揺した声で叫ぶ。
顔が見えないのが残念だ。きっと顔を真っ赤にして可愛らしかっただろうに。
もちろんだが俺とカーマはそんな関係ではない。
俺は戦いは避けられないと判断して、フォルン領の兵士たちのほうを向き。
「カール領はもはや救いようがない。我らの領地を守るため、諸君らの働きに期待する! ……勝てば酒飲み放題だこの野郎!」
俺の言葉に兵士たちは歓声を上げる。
……酒豪を集めたと言っただけあって、酒を与えるのが最も士気が上がるようだ。
「三人小隊で分散するでござる! あまり迂闊に固まれば、魔法の的と心得よ!」
センダイの一声で、兵士たちは三人ずつ固まって分散していく。
これはカール領が用意した魔法使いへの対策だ。数十人が固まって動けば、身動きが取れずに魔法で一網打尽にされかねない。
だがこの戦法ならばそう簡単にはやられない。魔法は連発できるわけではないので、仮に一小隊がやられても三人の犠牲ですむ。
敵も固まってはまずいとは思っているのか分散していく。だがこちらのように三人ずつではなく、一人ずつバラバラに動いている。
とりあえず固まらないことだけ考えた動きだ。連携も何もあったものではない。
このまま戦えばこちらが勝つ。だがこの戦いには魔法使いがいる。
カール領の兵士たちの中で、領主の他に痩せていない男が一人だけいる。
間違いなくあいつが魔法使いだろう。魔法使いも俺を警戒しているようで、目があってしまった。
奴は俺を警戒して迂闊には魔法を使えないはずだ。
ならば警戒させておけばよい。魔法の横やりが入らなければ、フォルン領が確実に勝利する。
兵士の数、練度、装備の質。その全てがカール領を上回っているのだから。
1
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる