【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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カール領との対決編

閑話  へべれけ隊長センダイ

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「ひっく……よいか。戦場では常に万全の状態で戦えるわけではない。日頃から悪い状態で戦う訓練が必要でござる」
「はい!」
「ゆえにこの大量の酒は防衛費でござる!」
「「はい!」」
「待てやコラ」」

 センダイが兵士の特別訓練に金が必要と要求してきた。

 俺としても彼らが強くなるならばと、金を多めに渡した。その金は全て酒樽へと変わっていた。

 真昼間から広場に集まり酒盛りを始める兵士たち。もうダメだこの軍隊。

「アトラス殿。そうカリカリせず、まずは一杯。拙者のおごりでござる」
「おお悪いな……ってその酒は俺の金だ!」
「おっと。これは一本取られたでござる」

 そう呟きながら酒瓶をぐびぐびと飲むセンダイ。

 他の兵士たちもどんちゃん騒ぎ。肉や芋も焼かれて完全にバーベキューだ。

「ラーク殿もいかがかな?」
「お酒嫌い」
「なんと!? それは人生の十割を損してるでござるよ!?」
「お前の人生は酒しかないのか!?」

 このダメ人間の飲んだくれ。これでもうちの防衛隊長である。

 センダイの生活を聞いたら絶句するぞ。こいつには朝がない。

 夜にその辺の道とかで泥酔し、昼ごろに目覚めて起きたらまず酒を飲む。

 その後に酒のつまみとばかりに兵士たちの訓練を見て、しばらく野次を飛ばす。

 それで夕方ころになると酒を持ってどこかに消える。朝になったらその辺の道で泥酔してる。

 完全にダメ人間である。

「ひっく。拙者、死ぬ時は酒でおぼれて死にたいでござる」
「凄まじく不名誉な……そこは主君を守ってとか、誉れある死を望めよ」
「そんなことをするくらいなら、酒を守って逃げるでござる!」
「俺を守るのをそんなこと呼ばわり!? お前って俺のことどう思ってんの!?」

 俺の問いにセンダイはしばらく悩んだ後。

「酒くれる人でござる」
「俺は酒屋じゃねぇぞ!?」

 もはや呆れて何も言えない。そんな俺を後目にセンダイは、そこらに落ちてた木の棒を拾うと。

「拙者、これから暇つぶしに兵士に稽古をつけるでござる。お主ら、かかってくるでござる!」

 センダイの叫びに応じて、何人かの兵士が木の槍で襲い掛かる。

 それを千鳥足で見事に回避し、木の枝で兵士たちの腹部を叩く。

 いつもの光景だ。まるで千鳥足が武芸の歩行術に思えてきた。

 そしてしばらく兵士たちがセンダイにフルボッコにされた後。

「ひっく……うぇっぷ……おえぇぇ……」

 動きに耐えられずにセンダイが吐いた。これも悲しいかないつもの光景である。

 こんな酔っ払いが防衛隊長なのを嘆くべきか、こんなへべれけに集団でも勝てない兵士たちを嘆くべきか。

「はぁ……はぁ……何をしているで……ござる。かかってくるでござる……」

 吐きながらもムダに立ち上がり、木の枝を構えるセンダイ。

 兵士たちはそんなセンダイに恐れをなして距離をとる。

「この臆病者どもが……! これは訓練、臆する必要などなし!」

 臆してるんじゃねぇよ。誰が好き好んで吐いた奴に近づくんだよ。

 だが兵士たちはその言葉に奮起したようで。

「センダイ隊長、覚悟!」

 バカ、いや勇気ある者……いややっぱりバカがセンダイに突っ込んでいく。

 槍でセンダイをつくが、グラリと倒れるように避けられて木の枝で腹部を殴られる。

「甘いでござ……うぇっぷ」
「た、隊長! もうやめましょう! 無理です! これ以上やって何の得が!」

 兵士たちから至極全うな声が上がる。俺もそう思う、こんなムダなことして何になるのか。

 だがセンダイは木の枝で身体を支えて、何とか立ち上がると。

「よいか……戦場ではな。例え血反吐はいても戦わなければならぬ。そんな時、お主らは戦わぬのか!」
「「「「た、隊長……!」」」」

 謎に恰好いいことを言っている風だが、吐いてるのは血反吐ではなくゲロである。

 センダイは息を切らしながらも、顔を上にあげた。

「よいか! ここで拙者が踏ん張らねば! あの酒を防衛費と認めてもらえぬではないか!」
「まだ認めてもらえると思ってたのか!?」

 そもそも他の兵士たちはセンダイほど飲んでいない。

 軽く酔っぱらった程度である。訓練あるのにへべれけになるバカはいない……。

「よいか! 酒を飲め! そして剣を振るえ! 拙者のように常に周囲がねじ曲がって見えて、心眼を持って戦わねばならぬようになれ!」
「何だその心眼の無駄遣いは……」
「ひっく……今もアトラス殿が三人に見えているでござる」

 こいつ……セルフ幻覚を見て、心眼でそれを見破ることをしているだと……!?

 バカじゃなかろうか。

「す、すげぇ……あれがセンダイ隊長の強さの秘密……」
「常に酔っぱらって自らを追い込んでおられる……」
「俺達に足りないのは酒だったのか……」

 何故か兵士たちがセンダイに尊敬の目を向ける。

 お前らもバカか!? まともなのは俺だけか!?

 いやもしかして俺がダメなのか? 俺だけが理解できてないのに、分かった気になって周囲を見下してるダメ人間……!?

 そ、そんな嘘だろ。頼む誰か、誰かあいつらをバカと言ってくれ!

「バカと思う」
「ラーク、お前だけが救いだ……」

 いつの間にか俺の横にいたラークがボソリと呟いた。

 よかった……なんか俺が間違ったのかと少し不安になった……。

「お主ら、何をしておるっ……! 酒を飲まぬか、酔っぱらってから訓練開始でござる!」
「「「「はい!」」」」

 センダイの号令と共に大酒宴が始まった。飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎ。

 …………すごく馬鹿らしくなってきた。

「帰る」
「……帰るか」

 ムダな時間を過ごした……俺とラークは屋敷に戻るのだった。






ーーーーーーーーーーーーーー





「うっぷ……隊長……もうご勘弁を……!」
「ダメでござる。よいか、常在戦場でござる。こんな状態でも……戦うでござうぇっぷ」
「こんな状態で訓練など、無理……」

 大酒宴広場は死屍累々となっていた。

 顔を真っ赤にして、フラフラになった兵士たちが槍を振り回す。

 いや槍に振り回されているような状態だ。

「ではこのまま……走るでござるよ……」
「む、無理です! センダイ隊長……どうか、どうかお慈悲を……」
「ならぬ……っ。ここで走らねば、二度と酒宴は防衛費に認められぬ……根性みせるでござるぅ!」

 センダイの今まで聞いたことのない本気の叫びに、兵士たちは逆らえるはずもなく。

 こうして魑魅魍魎もかくやの酔っ払い大行進が行われた。

 見ていた者はその様子に恐怖と哀れみを抱いて、第一次へべれけ軍大行進と称された。

 なお反省の色なく今後もやらかしてくれるのだがそれはまた別の話。
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