【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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レード山林地帯開拓編

第29話 怪しい領地からの接触

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「アトラス様、兵士たちを使った農地開墾は順調ですぞ。それとセサル殿が武器や防具も売り始めて、冒険者たちに好評ですぞ」
「うんうん。領内で経済が回るのはいいことだ」

 今日は久々に主要メンバーが執務室に集まって、フォルン領状況報告会を開催していた。

 メンバーは俺にセバスチャン、センダイにラークと……極めて遺憾だがセサル。

 カーマは調停者の仕事が終わって部外者になってしまったので、参加できなくなってしまった。

 本人は参加したそうだったが、こればかりは仕方がない。

 セバスチャンの報告を聞いて思わず笑顔になる。

 冒険者ギルドを招聘したことで、うちの領内で武具の需要ができた。

 その武器を外の領地から買い取れば金は外に出てしまう。だが自領で用意できるならば、金は出て行かない。

 貿易でも輸出が多ければもうかり、輸入が多ければ赤字になる。

 やはり領内生産を強化する方針は間違っていない。他の領地に赤字を出して頂こう。

 ……本来なら同じ国の領地では協力すべきなんだろう。問題は各貴族に同じ国の仲間という気持ちがないことだ。

 王都に出た時に見下されながら他の貴族と話したが、ほぼ全員が同じ国の仲間意識を持っていない。

 領主は自領のことだけ考えている人間ばかりである。自分の領地が国で、国王と思っているのだろう。

「現状では仲間と言えるのはナイラ領のみだ。他領とも友誼を増やしていかないとな」

 ライナさんの顔を思い浮かべる。彼女は狂戦士にならなければまとも……かは微妙だが、悪い人ではない。

 ナイラ領は手放しに信用してよい領地……ではないのが残念だが。

「ナイラ領の東隣はバフォール」
「隣国の間者が入り込んでる領地だもんな。分かってる、警戒してるよ」

 ラークの呟きに軽く返事する。

 以前に芋を持ち去ろうとした他国の間者は、バフォール領に逃げようとしていた。

 バフォール領で隣国に芋を譲り渡そうとしていたのだ。それに後で知ったのだが、その他国の間者はバフォール領出身の貴族。

 つまりあの領地は怪しいのだ。隣国に利用されているだけならまだよい。

 最悪だとこのレスタンブルク国を売り渡すことを、もくろんでいる可能性もゼロではない。

 下手にバフォールと友誼を結んで、売国奴の仲間にされました。は笑えない冗談だ。

 バフォールは大領地なのでかなりの警戒が必要だ。

 ……それと実は地図上ではフォルン領とバフォール領も隣り合っている。

 フォルン領はレード山林地帯に東西南を囲まれている。その東側のレード山林地帯を挟んで、バフォール領があるのだ。

 レード山林地帯が挟まっているので、直接何かされることはないだろうが。

 あんな魔境を人が移動できるはずもない。

 そんなことを考えてると、兵士の一人がなだれ込むように執務室に転がり込んできた。

 息を切らせながら俺のほうを見て、頭を下げると理解不能なことを言い出した。

「会議中に失礼いたします! バフォール領の使者がやって来ました!」
「……なんで?」
「申し訳ありません、聞けませんでした! アトラス様をお呼びになるようにと!」
「セバスチャン、バフォール領の使者が来ることに何か心当たりはあるか?」
「ありませぬ」

 セバスチャンに視線を送るが、首を横に振られる。

 意味不明である。バフォール領とフォルン領の接点は全くない。

 当然使者がやってくる理由も皆目見当がつかない。理不尽な口撃をしに来たのだろうか。

 なるべく関わらない方向で考えていた矢先だ。流石に面食らってしまう。
  
「攻めてきたのではあるまいな?」
「いえ! 使者一人だけでございます!」
「……会うしかないか」

 大きくため息をついて椅子から立ち上がる。何でかは分からないが、相手は大領主。

 使者を追い返して戦争になったら勝ち目はない……いやあるか。核ミサイル打ち込めば勝てるが、まさに最終手段である。

「誰かお供して欲しいんだが」
「しかたないさっ。このミーにお任せっ!」
「論外は除外で」
「ああっ、世界に祝福されしミーがいては、領主もかすんでしまうからねっ!」

 両手を空に掲げてポーズをとるセサル。お前だけは最初から選択肢にない!

 まあ無難にセバスチャンを指名するかと口を開こうとすると。

 ラークが小さく手をあげていた。

「……ラーク? お前、喋るの苦手じゃないのか?」
「大丈夫」
「セバスチャンのほうが」
「大丈夫」

 不安なのでセバスチャンを連れて行こうとすると……有無を言わさないとばかりに、ラークが俺の正面に立ってきた。

 そして手を握ってきて……めちゃくちゃ冷たい。身体中が凍りゆくように寒くなってきた。

 身体が寒さで震えだす。氷魔法くらってないかこれ!?

「いやあの、なんか手の感覚がなくなってきてるんですが!?」
「失いたくなければ」
「お供させろと!? わかった! わかったから!」

 俺の悲鳴を聞いて、ラークは手を離してきた。それと同時に寒さから解放される。

 お、恐ろしい……彼女に下手な交渉術はいらない。魔法で黙らせられるもんな……。

 観念してラークをお供に、バフォール領の使者に会うことにした。

 ……彼女は礼儀作法は身に着けてる。護衛にもなるし、セサルよりはマシだろ。

 逆にセサルよりマシじゃない奴がいるかは怪しいが……。

 屋敷の客室に向かうと、使者と思しき青年が椅子に座っていた。
 
 彼は俺を見つけると立ち上がり、ほんの僅かな角度で一瞬だけ頭を下げる。

 嫌だけど頭下げました感がありありである。

「バフォール領の使者としてやって来た。我が領主様は最近のフォルン領の発展を好ましく思い、是非一度お会いしたいと」
「……なるほど」

 フォルン領の発展に目をつけられてしまったか!?

 かなり厄介なお話だ。下手にバフォール領主と会うと、友誼を結ぼうと提案されたら断りにくい。

 隣国と繋がっている疑惑の領地と、下手に繋がりたくはない。

 だが正当な理由なく断れば敵対勢力と見なされかねない。

 底辺貴族が大貴族の誘いを断るなど、本来ならば極めて無礼なことだ。

 思わず顔をしかめて悩んでいるとラークが。

「そんな余裕はない」
「……余裕がない? 仮にも大貴族のバフォール領主が、フォルン領のために時間を作ると言っているのです。何か特別な事情があるのですか? そうでないならば……」

 使者は不機嫌そうな顔を隠さずに口を開き、俺に対して見下すような目を向けてくる。
 
 領主ならばまだし、ただの使者が見下してくるとは……。

 ラークはそんな無礼な使者に対して。

「レード山林地帯開拓」
「国からもらった土地か。だがあくまでフォルン領が行っているだけだろう」
「国の要請」

 言葉に敬意を消して口答えして来る使者に、ラークは軽く睨みながら言い放つ。

 ……要請されたわけではない気がするような。とはいえレード山林地帯を開拓すれば国も喜ぶだろう。

 土地自体も国からもらい受けたものだし、婉曲的に要請されたと言えなくも……?

 レード山林地帯渡したんだから分かってるよね? みたいな感じで。

 無表情ゆえに妙な迫力を持っていたのだろうか。使者はラークに少し動揺したようで、顔をしかめた後に。

「……国の要請ならば仕方ない。だがバフォール領主の面会要請だ、時間を作るのが礼儀と思うが?」

 使者は俺をにらみつけてくる。この後にこいつが言いたいのは、「これだから田舎者は……」だろうな。

 だが散々見下され慣れた俺に、その程度のイヤミが効くとでも?

 お前のイヤミなど元カール領主に比べればぬるま湯。

「いえいえ。私ごときがバフォール領主のお時間を頂戴するなど」
「まあよい。では面会できない代わりに、新しく開発した農具の技術提供をするように」
「……は?」
「バフォール領主様の厚意を無碍にしたのだ。それくらいは当然だろう」

 使者の言葉に俺は思わずフリーズしてしまう。

 こいつの要求自体も論外だ。だが問題は新しく開発した農具が、すでにバレていることだ。

 まだ兵や農民に配り始めたばかり、バフォール領まで噂が広まるには早すぎる。

 ……つまりフォルン領に間者が紛れ込んでいるのだ。

 フォルン領はすでにバフォール領に目をつけられている。

 後は厚意の押し売りも純粋に腹立つ。そんな厚意いらんからどっかに行ってくれ。

「……農具の技術提供はお断りします。こちらもレード山林地帯に使うものです。作成出来る者も少ないので、技術提供の時間はありません。農具も全く足りてないので、お譲りできる物もありません」
「ならば二、三個でいい。まさかそれすら無理とは言うまいな?」
「そのまさかでございます。二、三個の用意に手間がかかるのです。申し訳ありませんが」

 ふざけんな。サンプル渡したら技術提供と変わらんだろうが。

 使者はもはや不機嫌を隠そうともせず、机を勢いよく叩きつけてくる。

 馬鹿め、その程度の行為など見慣れておるわ! 

 その机は今までの無礼な貴族のたたき台として、すでにダメージをかなり蓄積しているくらいだ!

 ニコニコして見ていると、使者は諦めたようで。

「後悔するなよ」

 そう言い残して部屋から去っていった。

 ……何で領主の俺が使者に敬語使ってるんだよ。

 偉そうな使者に辟易しつつ、何も持って帰らせないことに成功した。

 ラーク連れてきてよかったかもしれない。国の要請を理由に誘いを断れたし。

「しかし急に偉そうな口調になって、見下してきたな。理由がわからん」
「怒らせて攻めさせようとした」
「……は? あれって怒らせるつもりだったのか!? 怒らせようとしてあの程度!? 元カール領主なら普段通りで数倍は傲慢かつ理不尽な態度取ってくるぞ!?」

 何というへたくそな挑発だ。まず相手を貴族扱いしている時点でダメだ。

 他の貴族は俺達を貴族として見てなかったぞ。何なら平民以下の存在としてたぞ。

 予想外過ぎて思わず叫ぶと、ラークが哀れみの視線を向けてきた。
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