【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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バフォール領との争い

第57話 フォルン領を騙る商会

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「ねえ、起きて。朝だよ」

 ソファーで寝ていたところ。目を開けるとカーマが俺を揺すっていた。

 どうやら朝らしい。だが今日の俺はまだまだ寝たい。

 何故ならば今日は絶対起こすマンセバスチャンがいない。つまり寝坊したところで誰も怒らないのだ。

「今日くらい寝かせて……」

 俺はカーマの声を無視して、再び夢の中に入ろうとする。

 だがその刹那、身の危険を感じて飛び起きた。

「!? なんだ!?」
「あ、おはよう」

 周囲を見回すが特に危険人物《セバスチャン》は存在しない。

 セバスチャンも異世界ショップに入ることは可能なのだが、今まで一人で入ったことはないと聞いている。

 なので奴がここにいるはずがない。なのに俺は刺すような殺意を感じていた。

「ま、まさか……セバスチャン、屋敷から殺意を放って俺を起こしたのか!?」

 俺がわなわなと震えているとカーマが呆れたように。

「単にいつも起こされてるから、恐怖が染みついてるだけじゃないの?」
「どちらにしてもセバスチャンは化け物かっ!?」

 何という恐ろしい執事だろうか。いない時まで俺の行動を縛るとは。

 完全に目が覚めてしまったのでもう眠る気はでない。

 仕方がないのでカーマに朝食のパンを渡して、ベッドでスヤスヤと寝息を立てている惰眠姫に視線を向ける。

 幸せそうな寝顔でかなり可愛く、幻想さも感じて眠り姫のようだ。だが忘れてはならない、彼女の眠りを妨げた者は理不尽な氷の鉄槌が下されることを。

 おとぎ話のように魔法で封印されて起こされるのを待ってるのではなく、ただ惰眠を貪ってるだけなことを。

「……今日はラークが自然に起きるまで待つか」
「いいけど、姉さまが自力で起きるの待ってたら日中の行動時間ないよ。起こしたら?」

 ラークは吸血鬼か何か? 

「……たまには俺も朝を平和に暮らしたい」

 結局ラークが目覚めたのは、備え付けられた時計の針が11時を過ぎたころだった。

 そこから着替えたり色々したりした結果。

 【異世界ショップ】で一夜を過ごした俺達は、太陽が完全に昇った昼過ぎにショップから出た。

 バフォール領の街に戻り、馬車の外の様子を見るがやはり歩いている人間はまばらだ。

「いやー。いい朝日だな!」
「もうお昼だよ……現実逃避はやめよう」
「まだ少し遅い朝」

 カーマとラークが馬車の荷台から俺に話しかけてくる。

 彼女らはやはり奴隷服で、俺はゴミクズ奴隷商人の変装をしている。いやバカアホ奴隷商人だったっけ……? 配役の名称を忘れてしまったがまあよいか。

「それでこれからどうするの?」
「ブラブラと街を様子見して、何か面白そうなことがあれば顔を突っ込む」
「何もなければ?」
「何かあれ」
「つまり何も考えてないってことだね……」

 カーマがため息をつくがしかたない。この街の調査をして、可能であれば民を蜂起させたりしたいが。

 それには情報が不足している。レジスタンスとかいたら話が早いのだが……。

 更に馬車をゆっくり走らせると、民家からスキンヘッドの男が飛び出してきた。

 その手には小さな娘が掴まれており、その男を追うように年配の女の人が飛び出してきた。

「や、やめてください! 娘を返して……!」
「借金のカタだ! 恨むならフォルン領とその領主のアトラスを恨むんだな!」

 男は娘を担ぎ上げて去っていこうとする……は? 何でフォルン領が恨まれなきゃならんのだ!

 娘を連れていかれた女の人……おそらく母であろう人は、泣き崩れて地面に手をつけた後。

「おのれフォルン領……あんな領地さえなければ……!」

 女の人はそのままずっと泣き続けている。理不尽にフォルン領への怨嗟を嘆きながら。

 ……何となくだが予想がついた。どうやらバフォール領主は、徹底的にフォルン領を悪者に仕立て上げたようだ。

 なんて奴だ! 類人猿の風上にもおけねぇ! 流石はアデルの父親だな!

「くそっ、事実無根のことで恨まれるの腹立つな……!」
「フォルン領のせいで、バフォール領が損してるのは事実だけどね」
「直接妨害したりしてないから知るか。それより……さっきのスキンヘッドを追うぞ」

 俺は馬車を走らせて、歩くスキンヘッドの横に馬車をつける。

 スキンヘッドは俺に気づいたのか視線を向けてきた。

「なにか用……ああ、この娘を売って欲しいのか」
「……まだ何も言ってないんだが」
「見たら分かる。お前、奴隷商人だろ。それも俺達と同類の」

 見ただけで分からないで欲しい。勝手に同類認定しないでくれ。

 カーマとラークが声を殺して笑っているではないか。

 まあ逆に考えるんだ。服装と俺の悦に入った演技のせいで、騙されているのだ。

 つまり俺の演劇の才能が高いというわけだ。決して元からクズの素質があったとかではない。

 スキンヘッドは荷台の中のカーマたちに気づいたのか、覗き込んだ後。

「げっへっへ。上玉じゃねーか、俺に一晩貸して……ぐほぉ!? てめぇ、鞭で叩きやがって! 何しやがる!」
「売り物じゃないし見世物でもない! 勝手に見るな!」
「お前、奴隷商人だろう!? こいつら商品だろ!?」
「非売品だ!」

 俺が水道ホースで叩くとスキンヘッドは激怒し始めた。

 勝手に人の妻の艶姿……いや奴隷服だからアレ姿? まあ何でもいいから勝手に見るんじゃない!

「売り物じゃねぇのかよ!」
「売り物だけど非売品だ!」
「意味不明なんだが!? このフォルン領商会のダミアン様に逆らって、無事に済むと思うなよ!」

 スキンヘッドは持っていた娘を降ろして俺に襲い掛かってきた。お前みたいな商会の人間がいるわけないだろ!

 スキンヘッドの店員とか頭おかしいことに気づけ!

 俺は即座にスキンヘッドの目に水道ホースを叩きつける。

「ぐおっ!? て、てめぇ……」

 激痛に目を開けないスキンヘッドに対して、俺は更に水道ホースを奴のハゲ頭にぶち当てる。

 てめぇ、よくも俺のカーマたちを汚れた目で見やがって! 宣言通りに目を鞭ってやる!

 更に俺は水道ホースを使って、縦横無尽にスキンヘッドの身体に叩きつける。

 目だ! その次は目だ! 次は左目! その次は右目だっ!

「や、やめろっ! 俺はクズなフォルン領のアトラスの部下だぞ! 逆らったらひどい目に……!」

 勝手に人の名前を語るんじゃない! 

 流石にイラつくので、水道ホースの先端に強化アタッチメント――シャワーヘッドを装着して、更にスキンヘッドに攻撃する!

「ごはぁ!? てめっ、やめっ」
「とどめだ! くたばれぇ!」

 俺はシャワーヘッドをスキンヘッドの股間に叩きつけた。

「て、めぇ……」

 スキンヘッドは悶絶しながら地面に崩れ落ちた。悪は滅びた。

 そんな俺の断罪処刑を見て、カーマがボソリと。

「……完全にこちらが悪役っぽいような」
「どこが!?」
「見た目も言動も全て……」

 見た目が奴隷商人のせいだな、うん。

 そうして俺が勝利を確信した瞬間、周囲から歓声が響く。

 周りからわらわら十人くらい出てきて、俺達を囲んでくる。なんだ!? お礼参りか!?

「よくぞ……よくぞフォルン領の悪の一角を倒してくださいました! 久々に気分がよくなりました!」
「フォルン領の奴らめ、ざまぁ見やがれ!」
「あの鞭捌きで、是非クズアトラスも潰して欲しいものだ……」

 民衆が褒めたたえてくる中、俺はぶちキレそうになるのをこらえていた。

 周囲からクズアトラスやゴミアトラスなど、俺の罵詈雑言が飛んでくるのだ。

 こいつら助けなくてよくない? 見捨ててよくない? もうバフォール領に爆弾落として終わりでよくない?

 集まった奴らの中では身分が高そうな老人が、俺に対して声をかけてきた。

「その腕を見込んでお願いがございます! 是非、この街でわが物顔でいるアトラスを潰して欲しいのですっ!」
「……は?」

 いかんアトラスがゲシュタルト崩壊してきた。

 俺ここにいるんだけど……頼む相手間違ってるよ。絶対頼んだらダメな相手だよ俺。

「えーっと、この街の兵士が潰せばよいのでは?」
「この街もバフォール領も、憎きアトラスに脅されてるのです! 領主様の息子であるアデル様も、私たちを救うためにフォルン領に交渉に行きましたが、卑劣にもアトラスは人質にして……!」

 凄まじい事実の捏造に絶句する。アデルを人質になどした記憶もないし、奴は交渉なんぞに来てもいない。

 むしろ返せと言われれば即座にのしつけて返すわ。あんなのいらん。

「ちなみにアトラスはどこに?」
「おお! 潰していただけますか! 奴はこの街でムダに大きな建物にいます!」

 老人が北にある建物を指さした。

 ……なんか腹立つから、偽アトラス君を少し見に行ってもいいかもしれない。

 さぞかしイケメンな奴が演じているのだろう。万が一、不細工な奴が演じてたらぶっ潰す……!
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