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バフォール領との争い

第59話 殴り込み

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 【異世界ショップ】でカーマたちとミーレが出会ってしまい、俺が炎冷地獄の処罰を受けた後。

 トラックなどを準備して夜まで時間を潰した。なお同じ顔をした奴隷服の美少女三人と奴隷商人の俺。

 まるで俺が姉妹三人を捕らえて奴隷にしているかのような、凄まじく悪い絵面であったことを付け加えておく。

 ミーレのことは彼女自身がなんかてきとうに誤魔化していたはずだが、その時の俺は処刑されていたので記憶がおぼろげだ。

 そして俺達は夜の闇に紛れて街の中を移動し、今は偽アトラスがいると言われた建物の前にいる。

 カーマたちはすでに奴隷服から、姫が着てもおかしくない簡易なドレスに衣装を変えている。

 彼女らにはご隠居役と印籠役と護衛役を演じてもらう可能性があるので、奴隷服のままだとまずい。

 やはりというか建物の入り口には、護衛が立っている。

「どうするの?」
「大丈夫だ。どうせ奴らは屑だからこれで」

 俺が一冊の本を護衛の前に投げる。護衛たちは本に気づいて警戒しながら、開き始めた。

「な、なんだこれは……っ!?」

 護衛は血走った目で本を見続けている。かかったな、その本はエロ本だっ!

 しかも巨乳ファンタジー系コスプレのものだっ! グラビア雑誌すらないこの世界ならば効果てきめんだろう!

 隙だらけの護衛の背後からこっそり近づいて、スタンガンを首元にあてた。

 声もあげずに気絶する護衛君。これで侵入できそうだな。

 俺は急いで本を回収しようとするが。

「……ちょっ!? なにこれっ……!?」

 カーマがすでに手に取っていた……彼女は本の中身を観察した後、自分の胸をペタンと触り。

「…………大きいほうが好きなんだね」
「違う! 大は小をかねるってだけだ!」
「……何が違うの」

 不機嫌になったカーマをなだめつつ謝罪しまくると、何とか機嫌を取り戻してくれた。

 ……胸が小さいことを気にしてるようだ。気をつけよう。

 護衛君は縛って路地裏に放置して、建物の中へと侵入する。

 建物の中は薄暗いが明かりがついていて……何やら変な声が聞こえてくる。いやこれは……。

「大変! あそこの部屋で女の人が襲われてるよ!」

 カーマが指さした扉から聞こえてくるのは悲鳴のようだ。

 扉の近くで耳をたてると。

「いやあ!」
「何が嫌だよ! てめぇはアトラス商会に借金して返さなかった! てめぇが悪いんだろうが!」
「銀貨一枚なのに、利子で金貨十枚なんておかしいですよ!」
「うるせぇ! お前はすでに奴隷なんだよ!」

 まーたあのクソデブハゲ、理不尽な利子とってやがるのか!

 どこかに覗き穴はないだろうか。ここは落ち着いて中の様子を観察し、確実に救出できるようにするべきだろう。

 どこだっ!? くっ、穴がないなら作るかっ!?

「……何やってるの……?」
「すんません、すぐ行きます!」

 背後から命の危険を感じたので、急いで扉を蹴破る。部屋の中では裸の男がはだけた服の女に襲い掛かるところだった。

「な、なんだてめぇ!?」

 男は俺の姿を見て襲うのをやめてこちらを睨む。

 俺は水道ホースを構えて華麗な鞭捌きで床を叩きながら。

「通りすがりの奴隷商人だっ!」
「どんな通りすがりだ!? ここはアトラス領主の屋敷だぞ!」
「黙れ! 罪なき人を奴隷のように扱いやがって! 許さん!」
「奴隷商人にだけは言われたくねぇ!?」

 ぐだぐだ言ってくるクズ男に向けて、俺の三日坊主で鍛えたホースが襲い掛かる。

 ビシバシとしばらく痛めつけた後、とどめにシャワーヘッドを装着して股間を殴打。

 男は泡を吹いて気絶した。悪は滅びた。とりあえず男を蹴飛ばして部屋の隅に転がして、近くにあった机で見えなくする。

 そして何故か外で待っていたカーマとラークを部屋にいれて、襲われていた女の介抱を頼む。

 カーマたちが入ってこなかったのは、汚い男の裸を見たくなかったからだろう。

 まあこんな奴程度なら俺一人でも余裕だしな。

 カーマたちに介抱された女は、部屋の隅に置いてあった服を着てこちらに寄って来た。

「た、助けてくださってありがとうございます……! お願いします、私の他にも捕まっている人が……どうかクズアトラスの魔の手からお救いください!」

 お礼を言われているのか、けなされてるのかどっちだろう。判断に迷うところだ。

 ……人助けして罵倒されるの割に合わねぇ! これもクソデブハゲの策略か、おのれっ!

「ああ、任せろ。ところで気になっているのだが、本当にアトラスは屑なのだろうか? 仮にも巨神殺しの英雄だし、そこまでクズなのは怪しいというか偽物では……」
「アトラスは間違いなくクズです。あいつが生きているだけで、私たちは不幸になります!」
「……そう」

 ダメだ、偽アトラスへの怨嗟が強すぎてまともに話を聞いてくれない。

 おのれクソデブハゲ! お前、その人に嫌われる才能をこんなところで活かすんじゃない!

 他の所で活かせよ! 演劇の悪役とかで!

「いいだろう。だが改めてよく考えて欲しい。巨神殺しの英雄があんなにクズなのはおか」
「クズです。どうか、どうか処刑前に街に磔にしてください! みんなで剣とか投げますからっ!」

 処刑前ではなくて、それ自体が処刑と言うのではなかろうか。

 あとクソデブハゲの磔は見たくないな……目に毒だ。そもそもデブの体重を木の棒で支えられるのだろうか……? 

 女にはこの屋敷から出るように言い含めて、部屋から出ると更に悲鳴が聞こえてくる。

 また悲鳴が聞こえた扉の前で聞き耳を立てて覗き穴を探す。背後から命の危険を感じたので扉を蹴破って悪漢を倒し、助けた女からお礼という名の罵詈雑言を受けた。

 更に悲鳴が聞こえたので同じように扉の前で聞き耳を立てると。

「やめろぉ! 俺は貧乳には興味ないんだっ!」
「はぁ!? 私は普通よりかなり小さいだけよっ! いいから借金のカタに身体を差し出しなさい!」
「それを貧乳って言うんだ! やめろっ! 服を剥がすなっ!?」

 野太い悲鳴が聞こえてくる…………放置でいいや。

「助けないの?」
「むしろ助けないことが助けになる」
「?」

 男だし本当に嫌なら腕力で抵抗できるだろ。つまりそういうことだ。

 そんなこんなでどうせ上の階にいるだろうと、二階に上がってムダに上等な作りの部屋の扉を発見する。

 間違いなくクソデブハゲはここにいる。何せ他の扉が木製なのにここだけ鉄製でムダに装飾華美だ。

 他と比べてあまりにミスマッチで、薄汚い自己顕示欲がひしひしと伝わってくる。

 よし。これまでと同じように突っ込むぜ!

「おらぁ! っていてぇ!?」
「鉄の扉を蹴ったらそうなるでしょ……」
「おのれクソデブハゲ! 罠を仕掛けてやがったな! くたばれっ!」

 俺は怒りに身を任せて、爆弾を扉の横の木の壁に設置し起爆する。

 穴が開いたので部屋に侵入すると、クソデブハゲ商会長が偉そうに椅子に座って酒を飲んでいた。

 ……やはり奴が俺の偽物だった。おのれ、やっちゃいけないことがあるだろうがっ!

 その横には首輪をつけられた十人のメイドがいる。絶対ムダに多いだろ。

「し、侵入者!? 俺をアトラスと知っての所業か!?」

 クソデブハゲは以前見た時と全く同じ姿であった。つまり偽アトラスを演じるのに、少しの努力すらしていない。

「おい。お前さ、いくらなんでもそれはないだろ。アトラスの名を下水に流した後、さらに汚泥に浸して穢しやがって!」
「!? 貴様、フォルン領のバカ息子かっ! 何故こんなところにいるっ!?」
「黙れ! これ以上俺の偽物演技して、俺を穢すんじゃない!」

 怒りに任せて水道ホースを床に叩きつける。今宵のホースは血に飢えておるぞっ……!

 水ではなく血を流してやるっ!

「ぐっ! だが袋のネズミは貴様のほうだ! メイド共、奴は傲岸にもアトラスの名を偽る不届き者! 捕らえれば褒美は思いのままだっ!」

 クソデブハゲ商会長は、メイドたちに命令を下す。メイドたちは互いに顔を見合わせて頷いた後に。

「「「じゃあ処罰したらお前を殴らせろ」」」
「…………えっ。いや待て。思いのままというのは、例えば俺の妻にしてやるとか」
「「「そんな地獄を見るくらいなら、ここで自殺したほうがマシ」」」
「わ、わかった。殴らせてやるから!」

 …………いいのかよ。てかどれだけ嫌われてるんだよクソデブハゲ。

 だがメイド風情に俺が負けるわけがない。俺は鞭を使ってから負けなしなのだ。

 鞭捌きでひーひー言わせて調教してやろう。奴隷商人だしこれは正当防衛なのでしかたない。

 そんな風に考えていると、メイドたちは剣を構えてこちらをにらんでくる。

 その構えはかなりしっかりとしていて、明らかに素人のそれではない。

「この者たちは元優秀な冒険者どもよっ! オーガとも戦える者もいるぞっ!」

 クソデブハゲが誇ったように叫ぶ。……よく考えたら俺が戦ったのって、素手の素人相手だけだったわ。

 何なら一人は素手どころか裸だった……。

「……待てっ! 武器を持つのは反則だろう! 武器なんて捨ててかかってこい!」
「お前は何を言っているんだ!?」

 くっ、だがマダだっ! 俺の三日坊主で鍛えた鞭、悪を屠るためならば何か凄い力を発揮するはず!

 試しにホースをメイドの一人に振るう。簡単に片手で掴まれて引っ張られて、俺の手から奪われるホース。

 ……どうやらあの鞭は弱きをくじき強きを助ける鞭らしい。

 絶体絶命である、勝てる気がしない。かくなる上は……!

 俺は後ろに振り向くと急いで部屋から出て、外で様子を見守っているカーマたちを盾にすると。

「場は温めておきました。後は奴らを倒すだけですっ! 頼んだっ!」
「「…………」」
「そんなクズを見る目はやめよう! それよりもクソデブハゲを痛い目にあわせよう!」

 結局カーマとラークの魔法でメイドは一網打尽にして、クソデブハゲを捕らえたのだった。

「ところで何でいつもの爆発するバズーカ? とか使わなかったの?」
「…………奴隷商人になりきりすぎて、己の信じる武器は鞭だけと思い込んでました」
「あっさり信じる武器奪われたけど」
「あいつ、簡単に寝取られるんだよ。いろんな口と接続するし」
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