86 / 220
ベフォメット争乱編
第82話 頭上確保
しおりを挟む俺はヘリコプターを操縦してベフォメット軍の元へと向かった。
奴らはバフォール領とベフォメットの境目付近の、広い荒れ地に駐留して休憩をとっている。完全に油断しているな、火を投下してやろう。
俺は振り向いて、席に座っているラークとカーマの方を見ると。
「ラーク。今から敵の頭上を取る。雹とかあられとか落として、敵陣を混乱させてくれ」
敵軍を空からかく乱して隙を作り、その間に好き放題させてもらうとしよう。
俺の意図を把握したラークはうなずくと。
「大きさは人の頭くらい」
「いやそれ当たったら絶対死ぬ!? 通常サイズでお願いします!」
そんな巨大なのだと本日の天気は巨大な雹、ところにより血の雨になるでしょう。
ちなみにあられは直径が5mm以下らしいので、人の頭ほどのあられは存在しない。
「ボクは何すればいい? 空から消えない火でも落とす?」
「いやそんな阿鼻叫喚の地獄引き起こすのやめない? とりあえず見といてくれ」
カーマは俺の言葉に少し不満な顔している。
しかたないだろ、君は文字通り火力が高すぎるんだよ。
「あ、そうだ。それと今後の方針だが、ベフォメットに攻めていくぞ」
「え、打って出るの?」
「このままバフォール領にずっと滞在するの嫌だし」
カーマと少し驚いた顔をしている。ラークはいつも通り無表情である、少しは驚いて欲しい。
……くすぐったら案外爆笑したりするのだろうか。いかんいかん、考えがそれた。
俺としても正直攻めるの嫌だが、バフォール領にずっといるほうが嫌だ。
攻めると言っても軍で攻めるのではなく、俺とカーマとラークだけでベフォメット王都に向かう。
あのゲス王子をぶん殴って叩きのめしてぶちのめした後に捕縛し誘拐。後は人質で脅せば解決だ。
「そんな簡単にいかないような……」
「それを試すために、このヘリコプターを使ってるんだよ」
敵にもし対空能力がないならば、三人での進軍は決して不可能ではない。
ほぼ全ての敵兵を空から素通りして、ゲス王子のいる場所に侵入すればよいのだから。
軍と戦うにしたって対空能力がない相手ならば負ける要素はない。
地を這う虫けらは鳥に狩られる運命なのだ。
そう考えながらヘリコプターを敵軍の真上に移動させる。
敵軍は慌てふためいている。あの空飛ぶのはなんだ!? 鳥か!? ドラゴンか!? いやバケモンだ! などと口々にヘリを不思議に思う声が聞こえて。
「あれはゴーレムだ!」
「ゴーレムだ!」
「空飛ぶゴーレムだ!」
満場一致でゴーレム認定……そういえばラークたちも、ヘリを初見でゴーレムって言ってたなぁ。
「氷の礫」
ラークが呪文を唱えると周囲に少し大きな雹が発生して真下へと落ちていく。
敵の兵たちは霰に襲われて大騒ぎだ。このパニックに乗じて……。
「ねえ、ボクも何かしたいんだけど」
カーマがヘリを運転している俺の服の裾を引っ張ってくる。
何かしたいと言われても困るんだよな。こんな上空で火なんぞ落とした暁には大災害不可避というか、もはやただの空爆である。
仕方がないので【異世界ショップ】から購入した袋をカーマに手渡す。
「じゃあこれでも撒いとけ」
「何これ?」
「こんぺいとう」
ひょうや霰と大して変わらんだろたぶん。
カーマは言われるがまま、袋からこんぺいとうを手に取って空中に放り出し始めた。
振りゆく霰やひょう、ところによりこんぺいとうが敵軍を苦しめている。
フルアーマーの鎧ならば効き目も薄いのだろうが、そんな重装騎士はそうはいない。
全身鎧の奴などほぼいないのでみんな痛がっている。
「くそぉ! 卑怯だぞ! 降りてきて戦え!」
「矢を射て! 矢だ!」
「ダメです! 氷が落ちてきてとても上を見続けられません!」
「なんだこれ甘いんだけど!?」
阿鼻叫喚の悲鳴が下から上がる。どうやらこんぺいとうがいい味をかもしだしてるようだ。
敵軍は混乱に陥って総崩れ、今が狙い時だ!
周囲を見回して物資が積んである馬車が集まってるところを発見すると。
「カーマ! あの馬車の周囲に火をつけて、敵兵が近づけないようにしろ! 物資は根こそぎ頂く!」
馬車の集まった箇所を指さす。これが俺の狙い! 敵の物資ネコババ大作戦!
誰がバフォール領のためなんかにただ働きしてやるかよ! 【異世界ショップ】で買い取って金にしてやる!
俺がこぶしを握って叫んでいると。
「商魂たくましいというか、がめついというか……」
「せこい」
「清濁併せ呑むと言ってくれたまえ」
「濁濁全部呑むの間違いじゃないの? 清い要素見つからないんだけど」
「あるだろほら。クリーンな金を持つところとか」
そう呟きながら物資を積んだ馬車のそばにヘリを着陸させて、俺は運転席から地面へと飛び降りる。
周囲の地面を炎の輪が囲んでいるので、敵兵は近づくことが出来ない。
この隙に俺は物資を馬車ごと【異世界ショップ】に送りまくる。
「へっへっへ。全て頂く! そう全てだ!」
「なんか火事場泥棒みたい」
「みたいじゃない、純然たる火事場泥棒だ」
なんなら放火魔でもあるぞ。そう考えながらも物資を更に【異世界ショップ】に送りつけていると。
「そこまでだ! よくも好き勝手やってくれたな!」
声のする方を見るとローブを着て杖を持ったオッサンたちが、10人くらい集団でこちらをにらんでいた。
どうやら魔法使いの力で周囲の火を抜けてきたらしい。余計なマネをしてくれて……人の火事場泥棒を邪魔するとはふてえ野郎だ!
「あ、ボクがやるね」
そんな魔法使いたちに対して、カーマが余裕しゃくしゃくと前に出る。
「「「水の怒りよ!」」」
敵の魔法使いたちの一斉の叫びと共に、大量の水が発生してカーマに襲い掛かる。
だが彼女はなお余裕をもって笑いながら。
「炎の壁よ。灼熱の礎をここに」
カーマが呪文を唱えた瞬間、彼女を守るように巨大な炎の壁が出現した。
向かってきた水は全て炎の壁に当たった瞬間蒸発する。
「ば、バカな……!? 火の魔法は水に弱いはず!」
「確かにボクが使うのは火の魔法だから水に弱いけど……力の差がありすぎて相性なんて関係ないよ」
敵の魔法使いたちは茫然と火の壁を見つめている。
いくら相性よいと言ってもレベル5がレベル99には勝てないみたいなものか。
仮にも人数差10倍なのにボロ負けとは悲しい。
「ぐっ……紅の姫君の名は伊達ではないかっ……! この化け物め! 怪物め!」
魔法使いのひとりが忌々しそうにカーマを睨む。
どうやら自殺願望者のようだ。力の差は歴然なのでもうさっさと逃げて欲しいんだが。
「まあいいけどね。じゃあさようなら」
カーマの出した火の壁が動き始めて、敵の魔法使いたちに向かって行く。
彼らはすでに魔力が尽きたのか、ただ茫然と近づく火の壁を見つめていた。
おいおい。本当に燃え尽きるぞ。逃げろよ……。
「カーマ、やめろ」
俺の言葉に反応してか、敵の魔法使いを飲み込む一歩手前で火の壁が制止した。
カーマはこちらを見て首をかしげている。
「どうしたの?」
「どうしたのって……殺さなくてもいいだろ。そいつには利用価値がたぶんある。人質にしてベフォメットに売り飛ばす」
魔法使いって貴重だし価値あるだろ。
元カール領との戦いの時も、あの程度の魔法使いが国に売れたし。
「いいけど……この人たち、そんなに価値ないと思うよ? 魔力もそんなにないし」
「ぐぬぬ……」
敵の魔法使いたちはすごく悔しそうな顔をしている。
気持ちはわからんでもない。年端もいかない少女に敵としてすら見られていないのだ。
「多少の価値はあるだろ。ただこのまま異世界ショップに送るのは……ラーク、凍らせてくれ」
ラークはうなずくと魔法を唱えて、敵の魔法使いを全て氷漬けにする。
こうすることで彼らはクール便で送れるはずだ。つまり物として送れるはずだ。
拉致監禁できるようになったとは聞いているが、実際のところ怪しいのでクール便にしておく。
ついでに塩をまぶしつつ、凍った魔法使いを【異世界ショップ】に送ると。
『ちょっと!? すごい形相の凍り付いた人間が大量に送られてきたんだけど!?』
脳内にミーレの声が響き渡る。前に送った血まみれドラゴンよりだいぶマシだろうに。
「クール便だ」
『冷凍してたら何でもクール便で通じると思わないでよ!?』
「まあまあ。細かいことは気にするな」
ミーレをなだめつつヘリに乗り込んで上空へと飛び上がる。
そしてオマケとばかりにラークが雹をまき散らし、カーマが追加で渡したこんぺいとうを食べていた。
「おい。こんぺいとうも撒けよ」
「これ結構美味しいから……」
結局追加で渡したこんぺいとうは、全てカーマが食べてしまった。
0
あなたにおすすめの小説
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!
武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。
しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。
『ハズレスキルだ!』
同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。
そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』
異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?
お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。
飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい?
自重して目立たないようにする?
無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ!
お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は?
主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。
(実践出来るかどうかは別だけど)
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。
秋田ノ介
ファンタジー
88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。
異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。
その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。
飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。
完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる