【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

文字の大きさ
97 / 220
ベフォメット争乱編

第93話 つかぬことを伺いますが

しおりを挟む

 俺達はクズ王子を掘り返した後、バフォールの街に帰還した。

 なおクズ王子はすでに元の大きさの身体に戻っている。

 土にクズ要素が分解されてしまったのだろう。あの巨大化はクズが肥大化したものだったのだ。

 これで少しは真人間になっているわけもないか。

 そう考えながらバフォール領主屋敷の執務室に戻ると。

「アトラス君! 我が妹は!? エフィルンはどうなった!?」

 変人がすごい剣幕で俺に襲い掛かって来た!? 奴は変な服を着ていて、身体中に不気味な色の液体の入ったガラス瓶を装備している。

 すごく闇の科学者が似合う姿だ。むしろそれ以外に形容のしようがない。

「落ち着け!」

 俺は変人をいさめるが、奴はなおも食い下がって俺の肩を掴んでくる。

「エフィルンは!? 私のかわいい妹のエフィルンはどこだい!? 昔みたいに一緒に遊んだりお風呂に入って身体を洗ってあげたり、身体を測って服を作ってあげたりしたいんだが私の愛しいエフィルンはどこ」
「くたばれぇ!」
「ぐふぅ!?」

 俺はセサルの頬に強烈と思いたいビンタを放った。

 なんて奴だ! あのボディを誇るエフィルンと風呂!? 身体を測る!? 

 そんなの犯罪ではないか! 俺にやらせ……フォルン領主として見逃すわけにはいかない!

「安心しろ。エフィルンなら拉致監禁している」
「そうか、それなら安心だね。洗脳解除薬は効果があったかい?」
「倒れながらビタンビタンと飛び跳ねてたらしいが」

 ミーレから聞いただけで実際に見てはいない。だが苦しみのあまり顔を真っ赤にして、水にあげられて死ぬ間際の魚のようだと聞いた。

 そんな俺の言葉にセサルはにっこりと笑みを浮かべると。

「うん! 想像通りの効果があったようだね!」
「お前、お兄さんというより鬼さんだろ。もしくは悪魔」

 本当にこいつは妹のことを思ってるのだろうか?

「仕方がない。私もエフィルンを助けるために、様々な文献を探って無数の方法を考えたんだ」
「……その結果が洗脳解除薬という名の超激辛剤かよ」

 様々なことを考えた結果、物理で殴るのが一番早いですみたいな結論やめろ。

「まあ結果的に抑えられたようだしよかったよ。最終兵器を使わずに済んだ」

 セサル変人は全身につけているガラス瓶のひとつを手に取る。

 その中の液体はボコボコと気泡を立てていた……前に床溶かしてたやつでは?

「ちなみにその最終兵器はどういった薬で……」
「かければ身体の余分なものを全て消し飛ばすものさ。これを使えば洗脳もエフィルンの膨張させられた魔力や、急成長させられた身体も戻る。いざとなれば特攻するつもりだった」
「最初からそれやれよ」
「副作用で服とかも消し飛ばしてしまうんだ。妹が衆人の前で裸になるのは流石に……」

 何故……それを最初から渡さないっ……!

 植物のない環境を作るより、人のいない場所作る方がよっぽど楽だろうが!

 そしたら俺だけしか見る人いなかったろ!?

「セサル、実はエフィルンはまだ少し洗脳が残っている。その薬を使う必要がある」
「大丈夫だ。洗脳解除薬を飲ませたなら絶対に治っている。私の誇りにかけて保証しよう」

 セサルは真剣な顔で答えてくる。

 これは説得しても無駄だ……ちいっ! これだから技術に誇りを持つプロフェッショナルは!

 そういえばエフィルンの今の状態はどんな感じだろうか。

 少し気になったのでミーレに確認してみるか。

 セサルにちょっとトイレと言って執務室から抜け出すと、ミーレにコンタクトをとる。

「ミーレ、エフィルンの様子はどうだ?」

 ちなみに今の俺は傍から見ると、ひとりで脳内会話している極めて痛い人である。

 なので執務室から出る必要があった。

『意識を取り戻したよ。洗脳も溶けてるね』
「そうか。なら迎えに行く」
『あ、今はダメだよ!?』

 入店しようとするとミーレに止められる。はて、何でダメなのだろうか。

 洗脳も溶けて意識も戻ってるなら問題ないのでは……。

『エフィルンちゃん、すごく汗かいてて、服脱がして身体拭いてるところだから……』
「【異世界ショップ】、開店せよ! 【異世界ショップ】、開店せよ! はよ開け【異世界ショップ】!」

 俺は超早口で【異世界ショップ】に入店する呪文を唱える。

 周囲の景色がねじ曲がっていつものチェーン店の姿になる。

 そしてそこには濡れた布巾を持ったミーレと……。

 詳細は省くが天国《エデン》がそこにあった。俺はこの日を忘れないだろう。

「神よ……俺が転生したのはこの日、この瞬間のためだったのですね……」
「いやそんなわけないでしょ……」

 しばらく先ほどの状況を脳裏に刻んで天に祈っていると、ミーレが話しかけてくる。

 服を着替えたようでエフィルンも黙ってこちらを見ていた。

「…………はじめまして?」

 俺はエフィルンに声をかける。

 彼女は洗脳されていた。つまり俺のことを覚えていない可能性がある。

 いやむしろ忘れていたほうが都合がよい。特に胸揉んだことだけでも忘れていて欲しい。

「いえ、洗脳された間の記憶も全てあります。特に助けて頂いた時のことは特にくっきりと」
「すんませんでした! これつまらないものですがっ!」

 俺は即座に頭を下げながら、高級マシュマロの入った箱をエフィルンに手渡す。

 これは間違いなく暗に責められている! ならば先手必勝だ。
 
 先に謝罪の意を示すことで相手に許しを請う! 地面に頭こすりつけて主導権を握ればこちらのものだっ!

 俺はエフィルンが箱を受け取った瞬間、土下座を繰り出せるように構えるが。

「私こそ感謝しても感謝しきれません。助けて頂いてありがとうございます、主様」

 エフィルンはそう告げると頭を下げてくる。たわわな胸が少し揺れて眼福……主様?

「主様?」
「私は主様に全てを救って頂きました。ですので私の全てをもって、生涯主様に尽くします」

 俺はエフィルンの言いたいことはわかったが、あまり理解したくはなかった。

 生涯尽くすって重すぎるだろ。そんなことしたら彼女の人生はどうなるのか。

 俺だったら絶対に御免である。こんな奴に生涯尽くすとかマジ勘弁。

「やめておけ。俺は人間ができていない」
「すごい自己申告するね」

 ミーレからツッコミを受けるが事実なので仕方がない。

 俺は決して聖人君子ではない。カーマたちがあられもない姿になっていると思えば、カメラを持って撮影しに行く。

 エフィルンの胸を揉めると思えばしっかりと揉む。

 ……我ながら思ったより酷いなー。少し自らを省みるべきかも……。

「まあそういうわけだからやめておけ」
「大丈夫です。主様の肉奴隷になるつもりです」
「大丈夫な理由どこ!?」

 エフィルンは無表情のままそう宣言した。少女の言うセリフじゃねぇ……。

 まだ洗脳薬残ってるぞこいつ。もしくは正気じゃなくて変な方向に目覚めてるだろ

 うーん……どうするか。彼女の様子を見る限り冗談じゃなさそうだ。

 ………………とりあえずこの場は流してセサル変人に説得してもらうか。

 妹が肉奴隷になるなどどう考えてもダメだし、必死になって止めるだろう。

「まあこの話は置いておいて、ひとまず元の世界に戻るぞ。……いや待て」

 俺は凄まじく問題のある可能性に気づき、言葉を選びながら慎重に口を開く。

「つかぬことを聞くが……兄っている?」
「います。いつも優しく立派で、皆のために尽くす理想の兄さんです」

 …………やべぇ、兄の名前聞きづらい。もしこれでセサルの名前を出して違うって言われたらどうしよう。

 あんな変人と、理想の兄さんを一緒にしたのかとキレられたら困る。

 聞くべきか聞かざるべきか……しばらく逡巡したが、どうせ変人が会いに来るからバレる……。

「あのですね。もしお気を悪くしたら申し訳ないのですが……お兄さんの名前はセサルという名だったりします……?」
「はい。ご存じなんですか?」
「たぶん……」

 理想の兄さんかは極めて疑問が残り、歯切れの悪い返事になってしまった。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...