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ライダン領との争い
第99話 本を売ろう①
しおりを挟む見本市を王都で行うことを決めた後、会議はとりあえず解散した。
各自出品するに相応しい物を考えるようにと言っておいたので、何かいい案を出してくれるだろう。
どうせアイスとケーキと酒は確定だが。
今回の見本市は【異世界ショップ】フル稼働……は避ける予定だ。
もちろん【異世界ショップ】の力は使う。だがなるべくフォルン領で用意できる品物で勝負したい。
王都で見本市を行うならばフォルン領の評判を上げるチャンスだ。
フォルン領で自給自足できているものを広めて、今後の売り上げを伸ばしたい。
そんなわけで屋敷の庭をカーマと歩きながら、何となく見本市のことを考えていた。
まだ朝のためラークは惰眠を貪っていることだろう。
「芋、砂糖、酒、鉄、着物、香辛料、菓子……これだけあれば勝負もできるはずだ」
「名産品が多くなったよね、フォルン領」
今回の見本市では今まで秘匿していた鉄製農具も出すつもりだ。
そろそろ周囲も真似し始めるころだ。ならばさっさと放出して、フォルン領の評判向上に役立てたほうがよい。
ボウガンなどの軍事機密は出さないが、農具ならばまあよいだろう。
……鉄製農具なので下手に小作人に広めると、一揆時に彼らの攻撃力が上がるのは黙っておこう。
「もう少し何か目玉が欲しいところだな。大量に作れて高額で売れる物はないものか……」
我ながら矛盾した発言だ。大量に作れるならば単価は安くなるのが世の常である。
だがフォルン領の今後の発展のためには、金をもうける必要があるのだ。
ライダン領主のような血統第一主義のクズ野郎は、今後も事あるごとに出てくる。
その時に俺が取れる対抗策……それは敵の頬を札ならぬ札束で打ち払うことだ。悪霊退散ならぬクズ退散。
この時代に札束はないので金貨の銭投げで攻撃することになる。ようは財力でぶちのめす、もしくは最初から逆らえないようにする。
武力ではこちらが勝っているのだから、敵は力づくの手段はとれない。
所詮は血などまやかしにすぎない。家柄や血統など金で買えるべきなのだ、馬のように。
日本でも豊臣秀吉が貴族の養子に入って家柄を手に入れてた気がする。
だいたい血統とかほざくなら、今度血を採取して俺の血と比較してやろうか。
奴らの血はさぞかし豪華なんだろうなぁ! 輸血したら体力が回復するとかさぁ!
そんなことを考えているとカーマが不思議そうな顔をしている。
「紙のお金って何? そんなの誰もありがたがらないと思うんだけど」
カーマの疑問ももっともである。
金貨、銀貨、銅貨は貨幣そのものに価値がある。だって金や銀で作られているから。
仮に今日、レスタンブルクがなくなってたとする。それでもレスタンブルクの貨幣は他国でも価値があるのだ。
これが紙のお金ならば紙切れになってしまう。まるで哀れに空高く舞う、外れた馬券のように。
逆に考えると外れる前の馬券は、札束とも言えるかもしれない。いや言えない。
「あー……まあそうだな。金貨とかに比べてその物の価値が薄いもんな。だが紙のお金には大量生産できるメリットが……それだ」
「? なにが?」
「紙なら大量生産できる。つまりベストセラーの本を出せばもうかる!」
我ながら完璧な案である。自分の才能が怖い。
本を売ればフォルン領の技術と文化教養のどれも示せるではないか!
本って知的だし、なんかそれっぽく書けば教養ありそうだし!
「善は急げだ! フォルン領で本を作るぞ! 今すぐに生産ルートを作成する! 紙作りからだな!」
さっそく生産ラインを整えるために走り出そうとすると、慌ててカーマが俺の腕を引っ張って来た。
「ちょっ!? 本作るのってそんなに簡単じゃないよ!? 印刷用の木板に紙に……それに本を書ける人がいないと!?」
「大丈夫だ! こういうのは動き出したら何とかなるもんなんだよ! 本はいいぞ! こっそりとライダン領主の悪口を本の内容に忍ばせてやる!」
「ダメだと思う!」
カーマが俺の腕に抱き着く形で必死に俺の動きを抑えてくる。
……力で引きはがそうとしたが勝てなかった。
仕方がないのでとりあえずセサル変人に相談してから、という話にして解放してもらえた。
おかしいな? 何で細身の少女に力で負けてるんだろ……。
そんなわけでセサルハウスにやってきて、セサルに本を作りたいと相談したところ。
「任せるサッ! ミーはこれでも本作りには自信があるっ! 作ったこともあるさっ!」
「ほら見ろ! 何とかなったろ!」
俺はカーマに対してドヤ顔を浮かべた。
こういうのは何だかんだで何とかなるもんなんだよ。
これで生産ラインも本の著者も万事解決だ。
「しかし紙とかどうやって用意したんだ。高いだろうに」
「紙ならエフィルンの魔法で作れるのサッ。植物だからね」
まじかよ。エフィルンの魔法が便利過ぎる。
個人の魔法に頼ってばかりはいられないので、魔法なしで紙を作れる必要はある。
だが今回売り出す本の紙はエフィルンに頼むか。
「ちなみにどんな本を作ったんだ?」
「ああ、これサッ!」
セサルは近くの机から一冊の本を手に取り、俺に渡してくる。
その本は皮で作られた豪華な背表紙、本自体も歪みなどなく質が良い。
まさに完璧な造りと言えたらよかった。
問題は表紙のイラストがセサルで、本のタイトルが『世界に祝福されしセサル、ここにその歴史を記す』という内容でなければ……。
更に恐る恐る本を開いてページを見ていくと、『何月何日 セサルは~をした』みたいな内容ばかりだ。
危うく破り捨てそうになる衝動を何とか抑え、俺は本をセサルに返すと。
「小学生の日記かっ!」
「小学生の日記が何かは知らないが、これはミーの伝記! 無論、木版で掘ってるので大量生産も可能!」
「高いゴミを大量生産して何になると!?」
あまりにも才能の無駄遣い過ぎる……。
それと木版印刷なのも非効率だな。今後は本を売りまくって儲けたいので、活版印刷で作ってもらおう。
確か木版印刷はその本の文章自体を掘って印刷していく。
活版印刷は各文字を作成して、それを組み合わせて印刷する。
木版印刷はその本専用の木板を作らねばならぬが、活版印刷は他の本でも自由に使えるとかだった気がする。
詳しいことは後で【異世界ショップ】で知識を仕入れておこう。
とりあえず活版印刷の概要だけ話してセサルに相談すると。
「素晴らしい発想サッ! それならミーの伝記の続巻もすぐに作れる!」
「活版印刷の冒涜はやめろっ!」
セサルを戒めつつ、とりあえず本は作れそうなことはわかった。
活版印刷もセサルなら何とかするだろう。最悪木版印刷でもいいし。
「さてと。これで本を作れるな!」
「肝心の著者がいないよ」
「カーマ、本とは個性だ。何のためにフォルン領に変人……個性的なメンバーが集まっていると思っている?」
カーマからのツッコミを華麗に受け流す。
うちの変わったメンバーならば、きっとよい本を書ける人間がいるはずだ。
いなかったら俺が日本昔話を書くことにする。桃太郎とか……この世界に桃はないからリンゴ太郎になりそうだ。
一気に日本昔話が和洋折衷になってしまったが仕方あるまい。
それで各自に本を書けそうな人物を聞いて回ったところ。
「ボクは無理」
「無理」
「拙者、最近は文字を書こうとすると手が震えるでござる」
「ミーに任せるサッ。ミーの伝記の続刊を」
「主様の恰好よさをつづります」
予想を裏切って誰も書いてくれようとしなかった。
彼らの部下にも本が書けそうな人物に心当たりはないという。……フォルン領、知識人じゃなくて蛮族が集まってる疑惑が……。
そんな俺の疑惑を予想外の人物が打ち破った。
「お任せください。本を書ける人物に心当たりがございます」
「なんだと!? フォルン領に封印されたセバスチャンに、何故そんな心当たりが!?」
なんとセバスチャンに本を書ける人物に心当たりがあるという。
セバスチャンは基本的に直属の部下を持っていない。本人が書けないならばいないと思っていたが……。
驚きながらもダメ元で紙に本の内容を書いてきてとお願いしておいた。
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