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ライダン領との争い
第103話 見本市開催①
しおりを挟む色々と準備すること二ヶ月。
とうとう待ちに待った見本市の開催日となった。
フォルン領秘蔵の農具や香辛料。砂糖や着物、鉄に菓子に酒にと自慢の品々が出店で売られている。
それを次々に買っていく客たち。無事に大盛況である。
ここに出店しているのはフォルン領の食べ物屋の中で、一番世間で評判がよい店を選んでいない。
俺やカーマたちが最もよいと思った店に出店を許している。世間の評判なんてくそくらえだ。
そんなものいくらでも偽装できる。己の舌を最も信じるべきだ。
決して他の領地の息のかかった商店は拒否ったわけではない。
これは俺の主観的な評価で不正なく商品を判断して決めた、いいね?
「フォルン領がこんな立派な市を王都に……! アドラずざまぁ……! このセバスジャン! 感激のあまり泣きぞうですぞぉぉぉ!」
「安心しろ。すでに号泣してる……」
セバスチャンは人目もはばからず号泣していた。
足もとには塩や水の入った壺があるので、水分塩分補給の準備は万全のようだ。
「あなたは嬉しくないの?」
カーマも少し楽しそうだ。見本市は祭りみたいなもんだからな。
人間のDNAは祭りに対して過剰反応する。だが俺はそこまで盛り上がってなかった。
「なんかセバスチャンに喜びが吸収されたというか……」
隣で超号泣されてはしゃぐ気になれない。
だがこれでちょうどよいのかもしれない。俺は見本市の主催側、カモに商品を売りつけて愉悦……じゃなくてお客様を楽しませる側だ。
そういえば見本市でのライダン領との勝敗は、売上高で決定することになった。
利益ではないのはライダン領がゴリ押ししてきたからだ。
店の場所を勝手に決めたとか、意味不明な戯言で押し切られてしまった。
「ねえねえ。三色アイスちょうだい」
「アイスなら出店に売ってるだろ」
「バニラ味しかないもん」
カーマは少し不満そうだ。だが三色アイスなんて作るのは難易度高すぎるだろ。
この時代の着色料とかないし、素材そのものの色になるはず。
つまり白赤青の三色アイスはバニラ、赤かぶ、そしてゴブリンの血味になる。
……絶対食べたくない。特に最後はもはやグロである。
仕方がないので三色アイスを出して、カーマに渡してやると。
「あ、あれ美味しそう。ママ、買って!」
「あの三色のアイスが欲しいのだけど」
「申し訳ありません。あれは非売品でして……」
アイスの出店に並ぶ子供が、三色アイスを見て母親と店員を困らせていた。
面倒なことになってしまった。ここはカーマが姫として優しさを見せる時。
彼女ならば自分のことを省みず、子供にアイスを渡してあげるはず。
「あなた。もうふたつ三色アイス出して」
自分のことも省みて要求しやがった……! しかもふたつと来た、子供にかこつけてふたつ食べる気かこいつ。
俺は首を大きく横に振ると。
「いいか? 三色アイスはそれきりだ。いくつも用意できるとなったら、みんな欲しがって普通のアイスが売れなくなる」
「そ、そんな……!? あの子供がかわいそうだよ!」
「自分が食べる前提かい!」
そこは優しいお姉さんを見せるところだろう。
流石に冗談だったようでカーマは物凄く、それはもう物凄く三色アイスを睨んだ後。
「ぼ、ボクのアイス……あげる……」
「わーい!」
手を震わせながらカーマが差し出したアイスを、子供はひったくるようにとって食べ始める。
「うう……ボクのアイス……」
カーマは涙目でそれを見続けていた。
……なんか心がいたたまれる。仕方がない、見本市の全日程終了後の後夜祭で出してやるか。
周囲を見回すがフォルン領の出店はやはり盛況……と言えるほどではなかった。
先ほどに比べて少し客が減ってきている。おかしいな、俺の取らぬ狸の皮算ではもっと客が多いはずだが……。
よく周りを観察すると、フォルン領の出店を興味深そうに眺めてる人が大勢いる。
明らかにこちらに興味を持っている視線を向けてくる。だがみんないちように近づいてこない。
彼らは俺と目が合った瞬間、逃げるように去っていく。
「……怪しい。カーマ、あの去っていた者の考えを教えてくれ」
「アイス食べたい……」
「お前のだだ漏れの思考を話せとは言ってない」
「うう……ライダン領に働き先が脅されてるみたい。フォルン領の品物買ったら二度と取引しないって」
なるほど。やはりライダン領、やってることが小物である。
卑怯という言葉はライダン領のためにある。今度出版する本に記載しておこう。
「やりやがったな! 自分たちに関係ある奴らを脅しやがって!」
「どうするの? ライダン領の圧力に対抗して、ボクたちもフォルン領として圧をかける?」
「そんな圧力鍋でシチュー作るんじゃあるまいし……」
それで柔らかくなるのは肉ではなくて民衆の涙腺くらいだろう。
圧に圧とは浅はかな考えだ。争いは同レベルの間でしか発生しない。
あのクズライダンと俺ではレベルが違いすぎるのだから。
この状況を簡単に打破する策があるのだ、俺には。
「俺には必殺の最強呪文がある!」
「流石です、主様」
いつの間にかエフィルンが近づいてきて、俺をほめちぎってくる。
そんな彼女の期待には応えねばなるまい。
「主様、是非その最強呪文をお教えください」
「いいだろう。最強呪文とは……王に言いつける」
「……まるで学校の先生に言うみたいなやつだね」
「カーマ、権力は使っても使わなくても腐りにごっていくんだ。なら使い倒すべきだ」
「酷い」
まあ真面目に話すと。仮にフォルン領の力で、ライダン領に脅されているギルドなどに更に圧をかけるとする。
そうなると彼らは俺かライダン領主のどちらかに従う必要があるのだ。
彼らからすれば退くも地獄、進むも地獄だ。今後フォルン領が更に発展した時、ここで従わなかったら当然大損をすることになる。
だがライダン領に逆らっても大損をする。どちらにしても大損をする。
ここでフォルン領ではなく王が命令を下せばどうなるか。
彼らは王の命令だからと、どちらにも従わなくて済む言い訳が手に入るのだ。
つまりこの方法は俺の慈愛の心によるもの。決して面倒だから王に丸投げしたわけではない。
そんな俺の崇高な考えにエフィルンは拍手をしてくる。
「素晴らしい考えです、主様。王をも利用する……もはや主様は王を越えたと言っても過言ではありません」
「はっはっは……いや待て流石に過言だ」
エフィルンは俺が何をしようとべた褒めしてくるのだ。
前は俺が呼吸してることを褒めてきた。そこまでして褒めなくていいのよ?
他にも風呂を覗いたら気づかれて、褒められた後に一緒に風呂にいれられそうになった。
迫りくる木の触手を死ぬ気で避けて何とか難を逃れたが……捕まってたらヤバかったかもしれない。
そんなこんなで王に告げ口して、ライダン領の妨害を封じることに成功。
なんと王は即座に王命を広場に出して、ライダン領とフォルン領双方に民衆への脅しや妨害を禁じた。
俺達は脅すつもりはないので、奴らにしかダメージはない。
「…………やばいな」
「何が? ライダン領の脅しがなくなったのに?」
何がヤバイってそんなの決まっている。
俺は今までにないことに恐怖を覚えていた。背中に感じるは冷や汗だ。
これまででも最大クラスに不気味なこと、それは……。
「……珍しく王が俺の味方をしている!? 何が狙いだっ!? もしくは天変地異の前触れかっ!?」
「父様はあなたの敵じゃないからね!?」
言うほど味方なのかは怪しいところである。
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