【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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ライダン領との争い

第105話 ライダン領の妨害

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 見本市の簡易建物の中で、ライダン領主は怒り狂っていた。

「ふざけるな! 何故フォルン領風情が、我が領地よりも売り上げが高いのだ!」
「フォルン領は領特有の物が多くそれに質もよいので……我らの領地の特産品は宝石ですが、希少性に欠けて目立たず……」
「フォルン領だぞ!? あんな田舎領地の物など!」

 ライダン領主は執事に対して、顔を真っ赤にして声を荒げる。

「フォルン領風情が、俺にたてつくこと自体が道理に反しているのだ! 目ざわりにもほどがある!」
「どうしますか? やはり更なる妨害を?」
「当然だ! 次は奴らの出店の近くに冒険者を雇って脅せ! 更に周囲の貴族にも協力させて、フォルン領の悪評を広めっ……!」

 地団太を踏んで激怒していたライダン領主は、血管が切れたかのように急に大人しくなる。

 怒りが消え去ったかのように、無表情になった後。

「直接的な小さな妨害は無意味だ。ここは致命的な傷を与えてやろう」
「具体的にはどうすればよろしいでしょうか?」

 執事はそんなライダン領主の姿は慣れっことばかりに、恭しく礼を繰り出す。

「商品が売れない期間が発生すれば、我らに有利になるだろう? それと我らの商品の売上も伸ばす策がある」
 
 先ほどまでとは別人のようなライダン領主。その指揮でフォルン領への対抗を開始した。




ーーーーーーーー




「アトラス様、大変でございます! ライダン領の売り上げが明らかに上がっております!」
「何? 今度はどんな卑怯千万なことを?」

 見本市三日目。途中売上高集計がフォルン領の圧勝で、かなり優位に立っている。

 機嫌よく出店を見回っていた俺に、セバスチャンが駆け寄って来た。

 ライダン領め、今度はどんな卑劣な策を繰り出してきたのか。

 だがその全てを俺が粉砕してやる。そしてフォルン領の完全勝利だ。

「いえ、それが……宝石を普段の四割引きで売っております!」
「……マジ?」

 セバスチャンの言うことが本当ならば、ライダン領は捨て身で来たことになる。

 この見本市の勝敗は売上高であり利益ではない。売った金額の分がスコアになるのだ。

 宝石は高いので四割引きだろうが大きなスコアだ。しかもそれだけ割り引けば購入者は殺到するのは間違いない。

 だが四割引きともなれば売れば売るほど赤字になるはず。

 ……赤字ではある。しかしこの見本市での売上勝負のことだけ考えれば、極めて有効な手段となる。

 そしてこの方法はフォルン領には取れない。俺達の売り物は基本的に高くないものが多い。

 それに数もそこまで多くないので、値段を下げなくても売り切れる可能性も十分ある。

 そうなれば値下げしただけ売上高も下がってしまうわけで。

「ちっ、これは流石にぼうが……邪魔はできないな。敵が反則してるわけでもないし……何か対策は考えておく」

 ……さてどうするかな。いざとなれば【異世界ショップ】から、売る物を用意するのもありだ。

 なるべく【異世界ショップ】は使わない予定だが、負けるくらいならフル活用する。

「とはいえ大丈夫でございましょう。四割引きでも宝石は高級品でございます。爆発的に売るのは無理なはずですぞ」
「後先考えない自爆特攻みたいなもんだしな……」

 たぶん見本市が終わった後、売上明細とか見て泣くんじゃなかろうか。

 完全に気分がハイになって衝動買いした野郎だもんな。後でクレジットカードの明細を見て真っ青になるタイプの。

 そんな愚かなライダン領主に対して、俺ができることは僅かしかない。

 せめてもの俺の優しさを是非受け取って欲しい。

「フォルン領の売り上げを伸ばしまくって、ライダン領の宝石安売りを加速させるぞ。ここで破産させてやろう!」
「トドメを刺すのでございますな!」
「違うぞセバスチャン。トドメを刺すのではない、敵が切腹するのを見届けるだけだ。俺達は決して加害者ではない。敵が勝手に滅んでいくと心がけろ」
「はっ!」

 俺の言葉にセバスチャンはどこかに走り去っていく。

 たぶんライダン領を焦らせるために、噂でもばらまきに行ったのだろう。

 敵の火だるま抱き着き戦法に付き合う必要はない。俺達は優雅にこのまま商品を売り続けて勝つ。

 優雅な気分になるためにペットボトルの紅茶を【異世界ショップ】から買う。

 フタを外して飲もうと口をつけると。

「アトラスさまぁぁぁぁ! 緊急事態でございますぅぅ!」
「ぶふぉっ!? ま、待て。気管に、気管に入った!?」

 セバスチャンが凄まじい形相で戻ってきて、思わずむせてしまった。

 せ、咳が止まらん……苦しい……。

「アトラス様、大変でございますっ!?」
「お、俺も、今大変なんだけどっ!?」
「そんなことはどうでもよいですぞっ!」

 主君が苦しんでいるのにどうでもよいって酷くない? 

 だがセバスチャンの一言はそんな俺の考えを吹っ飛ばした。

「売り物を置いていた倉庫が燃えております!」
「なんだとっ!?」
「エフィルン様とカーマ様が近くにいたのでとりあえず伝えました。ですが成す術がない様子でっ!」

 そりゃそうだ。植物の魔法が火事にできるのは、薪をくべることくらいだろう……。

 炎の魔法など火事を引き起こす側だし……。

「ラークを呼べ! 俺もすぐ向かう!」
「はっ!」

 急いで火事の現場に向かい、消火器やラークの魔法で消火した。

 だが倉庫はほぼ全焼。中にあった食材やら道具やらも全て燃えてしまっている。

 その様子を茫然と見ていると、王城の兵士が俺の元に近づいてきて頭を下げてきた。

「申し訳ございません! 火をつけられてしまいました!」

 本当に申し訳ないんだよなぁ……。

 他領の商品を売ったりなどしないようにと、倉庫の中身の確認と守りは国が担当をしていたのだ。

 それで燃やされました、なんて言われてもどうしようもない。 

「……火事の被害者や死者は?」
「幸いにも出ておりません」
「わかった。この見本市はフォルン領の勝利、そしてこの燃えた商品の損害の賠償で手を打とう」
「何をふざけたことを言っているのかね?」

 俺が兵士に対して圧をかけようとすると、後ろから不快な声が聞こえてきた。

 そこにいたのはライダン領主。十中八九、この火事を引き起こした犯人だ。

「ふざけたこと? 順当に行けばフォルン領が勝っていた。それを俺達がどうしようもないところで商品が燃やされた。当然、国は賠償と勝ちを与える義務がある」

 俺の言葉をライダン領主は鼻で笑った後、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「そんなことは我らには関係ない。このまま勝負は続行して最終売上高での勝負が筋だ。売る物がないなら新たに用意すればよい。我らは仮に今倉庫にある商品が全損しても更に追加できる」
「……」
「そもそもこの火事も自演の説もある。我らライダン領が本気を出して、勝ち目がなくて怯えたのだろう? 身の程を知れというやつだ」

 なんて野郎だ。明らかにこいつが犯人だろこれ。

 勝つためなら手段を選ばないクズだとしても、まさか建物に火をつけるまで引き起こすとは思わなかった。

 こいつはクズじゃない。人として分類すべきではないモノだ。

 俺は物を見る目でライダン領主を睨みつける。

「この火事で最も得をした人間は、俺の目の前にいるがな」
「私が犯人と? それはないな、何故なら犯人ならすでに殺した。逃げようとしたので矢を飛ばしてな」

 ライダン領主は下卑た笑みを浮かべて、こちらを煽ってくる。

 死人に口なし、実行犯を口封じに殺しただけだろ。

 こいつの心をカーマに読ませてもムダだろう。どうせ自分は直接指示していない。

 部下に言外に伝えて実行させてとかだ。

「まあ精々頑張ってくれたまえ。元から勝ち目のなかった勝負だ。負けのよい言い訳ができてよかったではないか」

 笑いながら去っていくライダン領主。

 いいだろう、ここまでやってくれたのだ。俺も本気を出してやる。

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