【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

文字の大きさ
111 / 220
ライダン領との争い

第107話 決着はほろ辛い

しおりを挟む

 見本市のライダン領の倉庫。

「緊急事態です。フォルン領が……」
「何だ? 今更ライダン領に逆らったことを詫びて自殺でもしたか?」
「フォルン領が正体不明のスープを売りさばき、恐ろしい売上をあげております! 我らとの差をどんどん広げていき……」
「…………は?」

 ライダン領主は執事から報告を受けて茫然としている。

 しばらくの間、押し黙った後に顔を真っ赤に紅潮させると。

「そんなバカなことがあるか! 奴らの物資は全て燃やしたのだぞ! 仮に他の物を用意できたとしても、いくらなんでも早過ぎる!」
「し、しかし現に……大量に香辛料をいれたスープで民衆の心をつかみました! ライダン領の客まで盗られております! これがそのスープでございます!」

 執事はカレーの入った皿をライダン領主に差し出す。

 倉庫の中にカレーのスパイスの香りが広まっていき、ライダン領主は顔をしかめた。

「バカな! 香辛料をふんだんに使ったスープだと!? どれだけの値段を取っているのだ!? 民衆風情が買えるわけが……」
「そ、それが銀貨4枚で!」
「奴らはバカか!? 我らの宝石四割引きよりも更に上だと!? フォルン領風情がふざけよって……!」

 ライダン領主は顔を真っ赤にして地団太を踏む。またもや顔の血管が切れるのではと思うほど、顔が赤く染まった後。

「……宝石を売るのをやめろ。売り切れとして正常価格の商品のみ売れ」
「よろしいのですか?」

 ライダン領主の顔色はすでに元に戻り、先ほどまで激怒していたとは思えぬほど落ち着いている。

 そんな男は小さく頷いた後、皮肉げに笑みを浮かべると。

「見本市の売上に負けたとして、ここまでの高級品を利益度外視で売ったフォルン領の財政はズタボロだ。破産に追い込むのは容易い。ならばこれ以上、我らが損する道理はない」
「承知いたしました」

 執事は深々と頭を下げた後、倉庫から出ていく。

 それを見ながらライダン領主はさらにほくそ笑む。

「所詮は若輩者の田舎貴族。目先の勝利に焦って、大局を見誤る愚か者よ。借金で首が回らなくなったところで、魔法使いは奪ってやろう」

 そう呟きながらカレーにパンをつけて口に入れた。気に入ったようで目を丸くして、更に何口か食べた後。

「美味だな。やはり田舎領地だけあって食材などはよいか。まあ全て、私の物になるわけだが」




ーーーーーーーーーーーーーー




「大変でございます!」

 見本市の広場。カレーを売りさばいていた俺に、セバスチャンが駆け寄ってくる。

 ……セバスチャン、常に走ってるんだけど。こいつは止まると死ぬマグロか何か?

「ライダン領がダイヤの販売を取りやめました!」
「……なにっ?」

 ライダン領がダイヤを売るのをやめた? それが本当なら奴らの最大の売上商品がなくなったことになる。

 つまり降参したと言ったに等しい。だがそんなわけがない。

 あの少し煽っただけで顔真っ赤のライダン領主が、瞬間湯沸かし器顔負けの顔面アイロンが諦めるわけがない。

 仮に優秀なブレインがいたとしても、あの男が諦めると思わない限りは宝石を売るのをやめないだろうし……。

「不気味だな……ライダン領は何を狙っている?」
「わかりませぬ……。ただ宝石を売るのはやめているのは確かです」

 ……薄気味悪い。俺達のほうが現状、売上は勝っているのだ。

 仮にライダン領が凄まじい妨害策を施して、俺達の今後の売上をゼロにできたとする。

 だがそれができたとしても、現状ではライダン領自体が売上を伸ばさないと勝ちはない。

 なのに一番の主戦力の宝石を売るのをやめた。矛盾しているのだ。

「このまま警戒を続けろ。何を仕掛けてくるか分からん」
「承知しました。アトラス様はどうされるおつもりですぞ?」
「カレー売りさばく。せっかくだからここで物凄く大儲けしてやろうと」

 俺はセバスチャンに自信満々に告げる。

 このカレー、一皿売るごとの利益が銀貨3枚以上。

 利益率がやば過ぎて笑いが止まらん。更に民衆たちからすれば香辛料ふんだんの料理を、すごく安い値段で売ってくれる名君に見られるのだ。

 こんな美味しい商売そうはないぞ。売れるだけ売りつくしてやる。

「承知しました。ライダン領に何かあれば、即座に襲い掛かります」
「いや報告に戻ってこい!?」

 昂るセバスチャンをなだめつつ、カレーを売る作業に戻った。

 結局見本市最終日までカレーを売りに売りまくったが、ライダン領は何も仕掛けてこなかった。

 ……もしかして宝石が弾切れだったのだろうか?

 まあ見本市の売上は比較するまでもなく、フォルン領の勝利で幕を閉じたわけだ。

 少し気持ち悪さを残しながらも俺達は見本市から撤収。

 そして勝利祝いとして翌日に王都をウロウロすることにした。

「今日は俺のおごりだ。各自、好きな物を買っていいぞ」
「拙者、高級酒を百年分買うでござる」
「ただしセンダイはお小遣い制な!?」

 あ、あぶねぇ……いきなり見本市の儲けが削られるところだった。

 見本市の収益、計算したらなんと金貨約1万5千枚も売り上げていたらしい。

 ……王都の金をかなり巻き上げてしまったことになる。これ、使わずに貯金してたら怒られそうだ。

 ちなみに一番売上がよかったのはもちろんカレーだ。だが二番目はなんと俺の伝記だった。

 ……つまり王都にアトラス=サンのお話が広まってしまったことになる。

 見本市で俺を見た人たちは、その時点でアトラス=サンが偽物であると気づくだろう。

 幸いなのは伝記に挿絵がないことだ。あの本では俺の見た目はわからないので、無事に王都を歩くことが出来ている。

 仮に俺の写真でも貼ってあったなら、二度と王都を歩けないところだった。

 俺の顔が知れ渡っていたら、子供たちから嘘つきアトラスと指さされただろう。

 そんなことを考えながら歩いていると、少女にぶつかってしまう。

「すまない、失礼した」
「いえこちらこそ……あれ?」

 少女は俺の顔をマジマジと見つめてくる。なんだ? 俺の顔にホレたか?

「どうした? 俺の顔になにか?」
「……いえ、ちょっと本で書かれた人に特徴が似ていて。ごめんなさい、勘違いです」

 少女は俺の伝記を大事そうに抱えていた。違う、勘違いじゃない。

 何と言おうか迷っている間に、少女は俺から離れていってしまう。

「……アトラス様はもっと恰好いいもんね。あんな人なわけない」

 去り際に小さく呟いた少女の言葉に、俺の心が大ダメージを受けた。

 アトラス=サンめ……奴とはいずれ雌雄を決する必要があるようだな……!

「どうやって雌雄を決するの?」

 カーマが呆れ笑いで俺に尋ねてくる。

 確かに創作上の敵を倒すのは難しい。だが俺には原作者権限がある。

「著者に命令して本当の俺を伝記に出させる。そしてアトラス=サンを倒す」
「それ絶対ダメだと思う……大荒れ間違いないよ」

 だって創作上の奴にどう戦えと言うのか。

 一休さんの屏風の虎を退治しろ、くらいのトンチではないか。

 あのトンチも屏風の虎が負ける絵を描けばダメかなと思っている。
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...