【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

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ライダン領との争い

閑話 メルの苦悩

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 私はメル。フォルン領の暗部の最高責任者。

 元ライダン領でも華麗に暗殺を成功し続けて、フォルン領でもその才能をいかんなく発揮。

 今後も素晴らしい待遇が約束されている……そう思っていた。

「メル殿。薪割りをお願いしますぞ」

 メイドとしてアトラス伯爵の屋敷の掃除をしていると、セバスチャン様がお願いをしてきた。

 薪割りも普段の業務である。薪がないと火が炊けなくて困る。

「はい、わかりました!」

 そう返事して屋敷の庭に出て、斧で薪を割り始める。

 これでも暗殺者なのでそこらの男兵士よりも強いし力もある。斧も特に問題なく振れる。

 しばらく薪を割ってから、空を見上げてひたいの汗をぬぐう。

「ふう、今日も風が気持ちいいですねぇ……じゃないです!」

 思わず持っていた斧を地面にたたきつけてしまった。慌てて斧を拾って壊れてないのを確認して一息つくと

「なんで!? 暗部の最高責任者がメイドで薪割りやってるんですかぁ! 絶対おかしいですよこれ!」

 そう、私はフォルン領の暗部の最高責任者! 屋敷でメイドをやらせておくような人材ではない!

 薪割りなんて誰でも出来るではないか! 私は暗殺者として武芸にも優れているのに!

 使用人をやる人材ではないことを、アトラス様にアピールしなければ……。

 ここは私の実力をセバスチャン様に見せて、そこから申告してもらえばいい。

 少し剣の扱いでも見せれば簡単に認めてもらえるはずだ。

 さっそくセバスチャン様が歩いてるのを発見。

「セバスチャン様! このメル、少しお見せしたいものが…………」
「なんですかな? 今は薪用の木を伐採するのに忙しいのですが」

 セバスチャン様は斧の一振りで、大きな木を根本から伐採した。

 地面に倒れて大きく音を立てる木……私が薪用に割った木よりも遥かに太い。

 ……こんな化け物相手に、多少剣技見せても無意味ですねこれ。

「あ、あの……その、薪を割った後に仕事ありますか?」
「いえ、今日は薪が終わったら休んでいただいて大丈夫ですぞ」

 セバスチャン様は笑いながら返事してくれる。

 そう、ここの仕事は恐ろしく待遇がよい。仕事はきつくない、給料は高い。

 しかも仕事中に菓子などが食べられるし、何故か年に数日は休んでも給料がもらえる日まである。

 あまりに待遇がよすぎて困惑してしまうレベルだ。未だに騙されているのではと思ってしまう。

 もっと活躍せねばと焦ってしまう要因でもある。こんな職場から離れたくないのだ。

「あ、あのもっと働きたいのです。メイド以外でも暗殺とかできますよ!」
「暗殺はアトラス様が望まれてませんので。それに休むのも仕事の内ですぞ」
「私もっと働けます! アトラス様にもお伝えいただけませんか!」
「……なるほど。アトラス様のために全てを捧げてでも役に立ちたいと……承知しました。ならばお伝えしておきます」

 どうやらアトラス様に私の意思を伝えてもらえるようだ……なんか言葉が捻じ曲げられた気はするが。

 そうしてその日の夕方、私は執務室に呼び出された。




ーーーーーーーーーーーーーー


 俺は執務室でメルを待っていた。なんかセバスチャンから、メルが俺のために更に働きたいと訴えがあったと聞いたのだ。

 なんで自分から仕事を増やすのかバカなの? 金でも困っているのだろうか?

 そんなことを考えていると、こんこんとノックが聞こえてくる。

 「入れ」と告げると、メルが部屋の中に入って来た。

「来たな。更に仕事が欲しいとのことだが……お前は正気か?」
「はい。私は暗部の最高責任者です! メイドをしていたらその責務も果たせないです! やはり暗殺などで殺しまくるなど、成果を出す必要が!」
「そんなキルスコア求めてないんだけどなぁ。うちは暗殺は基本行わない予定だし、お前に求めてるのも暗殺じゃない」

 俺がそう告げるとメルは落ち込んだ表情を見せた。

 何? そんなに暗殺したいの? 血を見ないと困るシリアルキラーなの?

 それにメルに暗殺を任せるなんて馬鹿のやることだ。だって……。

「そもそも……失敗すると分かってるし」
「ちょっ!? 何度でも言いますけど! 私は暗殺を何度も成功して!」
「はいはい」

 メルが必死に叫んでくるが軽く受け流す。

 何度でも言うがこいつが暗殺成功する未来が見えない。失敗が確定していることを任せる必要などない。

「どうやったら信じてもらえるんですか!? そこらの歩いてる人を殺せばいいんですか!?」
「それ暗殺じゃなくてただの通り魔だろ……そもそも無理だろそれも。返り討ちにあうぞ」
「酷い!?」

 寝込みの俺を殺せなかった暗殺者では猫も殺せないだろ。

「そもそも何でそんな殺したいんだよ。お前の言動、狂ってる悪役のそれだぞ。血が欲しいならトマトジュースか献血パックやるから」
「別に血が見たいわけじゃないですっ! 私が優秀なところを見せないと、ここの仕事クビになるから! メイドではとても暗部の仕事を果たしてるとは!」

 メルはとうとう本音をぶちまけたようだ。

 なるほど。暗部っぽい仕事がしたかったということか。

 報告書を見る限り、十分働いてくれてるしクビなんてないのだが……面白そうだからちょっとからかうか!

「いいか、メル。暗殺したいならまずは日頃の仕事をこなせ。そうすればおのずと……」
「おのずと?」
「メイドとしての評価が上がる」
「だからメイドじゃなくて! 私は! 暗部なんですってばぁぁぁぁ! もういいです! 後ですごいことして吠え面かかせてやります!」

 メルはそう言い残して逃げるように部屋から出て行った。

 相変わらず子犬みたいで可愛らしい奴だな。実にからかい甲斐があるというか。

 ちなみに彼女は普段から暗部として成果をあげているのだ。屋敷の中を確認して、侵入者が入りやすそうな場所や潜伏しそうな所を発見し報告している。

 他にも俺の屋敷周囲に鳴子などの防衛を強化したり、暗殺対策をしっかり行ってくれている。

 メルがメイドになってから、泥棒が屋敷に出なくなったとまであるのだ。完璧に結果を出している。

 それに彼女自身も戦えるので、もし屋敷で戦闘などが起きてもメイドなのに戦力になる。

 俺の屋敷はフォルン領の最重要機密拠点なので、そこの防衛力が上がる時点で十分な仕事である。

「アトラス様。先ほどメル様が涙目で敗走しておりましたが」

 セバスチャンが執務室に入ってきて、俺の机に書類の山を追加してきた。

「ああ、なんかすごいことするってさ。ところでセバスチャン、この書類の山は一週間以内に見ておこう」
「いや今日中にお願いしますぞ。しかしメル様は暗部とは思えませんな」
「だからいいんだよ。あんなのが俺の護衛の一員とか誰も思えないだろ。敵も油断する」
「確かにそうですな」

 メルは案外優秀なので今後も是非頑張って欲しい。

 ついでに今後も小物でいて欲しい。そのほうが見ていて楽しいし。

 それとまあ……実はもうひとつ彼女の強みがあるのだ。

 …………メルは変人ではなくて、わりとぼんじ……常識人であることだ。

 フォルン領において常識人というだけで、絶滅危惧種だからすごく貴重なのである。

 今後も是非頑張って欲しい。そう考えながら俺は書類の山をどうやって秘密裡に処分するか考えていた。

 そして仕事を何とか終わらせて、寝室で眠りについた後。

 何かの殺意を感じ取って目を覚ますと、部屋に入ったばかりのメルがいた。

「……何してる?」
「……おはようございます。いえあの……こっそり忍び込んで、ペーパーナイフで寝首をかけば、アトラス様も私を認めてもらえるかなーって……」
「ものの見事に失敗してるな。やっぱり無理だろ」
「…………覚えててくださいっ! 次こそやってやりますからぁ!」

 メルは敗走していった。いやもう諦めたほうがよいと思うぞ。
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