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王家騒動編
第127話 王様ゲーム?
しおりを挟む「……メル、この情報は確かか? お前がいつものように間違えて得た情報ではないのか? むしろそうであって欲しいんだが」
「違います! 間違いなく真実です!」
俺は執務室で暗部? のメルの報告を受けて、その内容に震えていた。
あり得ない。いや可能性としてはあったが今まで無視してきたのだ。
最低最悪の未来、人生の墓場、奴隷契約すら生ぬるい束縛。
こんなことを認めてたまるものか。認めたら最後、俺の人生は終了してしまう。
「嘘だと言ってくれ! 俺が! レスタンブルクの次期国王を押し付けられるなんて!」
「次期国王を押し付けられるって言う人、初めて見ました」
何を言うか。こんなの押し付けられるという表現しかないだろ。
……俺を次期レスタンブルク国王にする動きがある。そうメルが報告してきた時、俺は危うく過呼吸で倒れそうになった。
あまりに嫌すぎて今も冷や汗がすごいことになっている。
考えても見ろ。レスタンブルク国は今もなお飢饉、そして借金まみれの地獄だ。
そんな国をもらって何になるのだっ! それより裕福になったフォルン領でぬくぬく暮らしたい!
「カーマ様やラーク様、それに王家も動いてますよ」
「メル! 嘘だと言え! お前が有能暗部みたいに動けるわけがないっ! どうせいつものようにガセ情報をつかまされたんだろっ!」
「違います! 今回は間違いないですっ! 絶対絶対です! だって……!」
メルは小さな胸を張ってふんぞり変えると。
「だってカーマ様たちに確認しましたから!」
「お前はバカか!? 本人に確認してどうする!? 俺がこのことを知ったのを、把握されてるだろうが!」
「あっ」
メルは「あちゃー」と顔を手でおさえる。
「あちゃー」じゃないだろうがっ! だからお前はメルなんだよ!
「くっ! すぐに動かないと! 家臣から味方を集めるんだ、買収される前にっ!」
「家臣なのに買収されるの前提なんですね」
「当たり前だろうがっ! 俺の家臣に、俺の言うことを素直に聞いてくれる奴なんぞいるかっ!」
机を勢いよく叩いた衝撃で、今日やる予定だった書類が床に散らばっていく。
こんな書類はどうでもよい! それよりも早急に俺の味方を増やさねば!
「カーマやラークは敵だ。セバスチャンも俺が王になるのを望むか……」
「瞬時にフォルン領重臣の約半数が敵に回る計算。人望ないですね」
「やかましい! 冷静に状況を考慮しているだけだっ! メル、お前は更に王家の情報を……いややっぱりいいや。どうせこれ以上無理そうだし」
「なんでですかっ! 私がこの話を報告したのにっ!」
メルが怒りながら子犬のようにキャンキャン吠えてくる。
だがこの情報の入手箇所だってだいたい予測がつくぞ。
「どうせカーマたちが食堂で話してるのでも、偶然盗み聞きしたんだろ! 口元にケーキついてるぞ」
「えっ!? ちゃんと拭いたはず……! あっ」
口周りを手で押さえながら驚くメル。
カマかけただけなのにマジでそうだったのかよ。暗部の情報仕入れ場所が自宅の屋敷……やはりメルはメルであった。
「……覚えてやがれですーっ!」
メルは敗走して部屋から出て行った。あいつは毒にも薬にもならん、味方に引き入れる必要はない!
チワワなんぞ賑やかしにしかならん!
それよりもまずはエフィルンだ。あいつなら俺の味方になってくれるはず!
俺は急いでエフィルンがいそうな場所を総当たりする。
執務室、俺のベッドの布団の中、ベッドの下、風呂、食堂と確認するがいない。
くっ……万事休すか……大抵どこかにいるのに……。
こうなれば必殺、外でマシュマロ焼き作戦を行うしか……。
「主様、いかがされました?」
そんなことを考えながら廊下で立ち止まっていると、後ろからエフィルンの声。
「エフィルン!? どこにいたんだ!?」
「ちょうど仕事が終わりましたので、主様のベッドに潜り込もうと」
「潜り込むのはやめような! でも今日はちょうどよかった! エフィルン、俺の味方になれっ! カーマたちの圧政に反逆するんだ!」
「私は常に主様の味方です」
エフィルンが仲間になった!
これでカーマとラーク相手でも戦えるな! とりあえず無条件降伏せずに済む武力を得た。
「エフィルン。セサルを俺達の仲間に引き込めないか?」
「兄はアトラス様が王になった時の肖像画を描いてました」
「くっ! すでに王家の魔の手が! セサルも敵か!」
「兄は大抵の人に手を差し伸べますので、主様のお願いも聞くと思います」
エフィルンは無表情のまま淡々と告げる。
なるほどセサルは中立という名のコウモリか。ならば捨ておくしかあるまい。
俺の肖像画は何とかして処分したいところだが、後で考えるとしよう。
「後はセンダイ様だけですね」
「飲んだくれがどれくらい役立つか微妙だけどな……まあ数合わせくらいにはなるか。問題はセンダイがどこにいるかだな。知ってるか?」
エフィルンは首を横に振った。
センダイを手掛かりなしで探すのは至難の業だ。奴はそこらの道端で眠っているような奴なので、どこにいるか皆目見当がつかない。
普段からすれ違った荷車で運ばれていたり、ドラゴンに紛れて一緒に寝ていたり、屋敷の廊下で寝ていたりとパターン化できないのだ。
逆にどこにでもいる、まるでシュレディンガーの猫。
ここは探すよりもおびき寄せたほうが良い。
俺達は屋敷の庭に出て、【異世界ショップ】でバーベキューセットを購入。
更にハマグリとかサザエとかと酒を購入し急いで焼く。貝が開いてきたら酒をドバドバ投入!
貝からこぼれた酒が網の下に落ちていくが知らん! 酒の匂いが充満すれば何でもよいのだ!
「むむっ! 酒のよき匂い!」
見事に釣られたセンダイが、俺達の元へとやって来た。
奴はハマグリを見てゴクリと喉を鳴らした。
「センダイ! この貝が欲しくば俺の味方につけ!」
これでセンダイは俺の味方になる。そう思っていたのだが、センダイは少し難色を示している。
「拙者、カーマ殿たちに忠誠を尽くす身でござる」
センダイは大事そうに酒瓶を抱えている。あれはたしか王家御用達の高級酒だ。
くそ、すでに買収されていたかっ! だがまだだ!
「センダイ! 俺達のほうにつけば更に凄い酒をやるぞ! ほれほれ!」
俺はウイスキーとかビールとかワインとか、とりあえず高かったり美味しい酒を【異世界ショップ】から購入しまくる。
「拙者の主君はやはりアトラス殿でござる」
裏切りのクズやろ……センダイが仲間になった!
センダイは持っていた酒瓶を一気に飲み干すと、俺の出した酒たちに手をつけはじめた。
……一番得してるのこいつだなおい。
「てか裏切るならカーマたちには酒を返すべきでは?」
「そんなことをするなら死んだ方がマシでござる」
酷い。買収した俺が言うのもなんだが酷い。
「酒の料理とは素晴らしいでござる。これこそ人が生み出せる文化の極みでござろう」
センダイはハマグリを食べながら、酒を飲んで悦に浸っている。
「ところでアトラス殿。ここからどう動くでござるか?」
「俺にもまだ味方になる奴に心当たりがある」
そう。俺にはまだ味方になりそうな奴がいる。
普段ならば絶対にあり得ないが今回は別だ。簡単に言うと……敵の敵は味方ってやつだな。
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