【異世界ショップ】無双 ~廃絶直前の貴族からの成り上がり~

クロン

文字の大きさ
135 / 220
王家騒動編

第129話 王手

しおりを挟む

「何かないか!? 俺の評判が下がらない上に、王にさせるのはないなと思わせる妙案は!?」

 俺とセンダイとエフィルンはクズどもを成敗した後、屋敷に戻って執務室にこもっていた。

 入口に鍵をかけているので、扉が粉砕されるまでは侵入に対して時間が稼げる。

 ようやく一息ついたと椅子に腰かけるが、状況はまるで好転していない。

「ちなみに先ほどの屑族《くぞく》を連行したことで、更にアトラス殿の評判は上がったでござるよ。法で裁けなかった者たちを捕らえたと」
「くそぅ! あいつら最後まで俺の邪魔にしかならねぇ!」

 センダイの言葉に思わず悲鳴をあげてしまう。

 このままでは本当に王にされてしまうぞ!? 俺の老後の計画が全てパーになってしまう!

「まずい……こんなレスタンブルクなんぞの王にされては……! せめて後十年くらいは経って、この国が立ち直ってから継がないと罰ゲームだぞ!」
「この国、十年で立ち直るでござるか?」
「立ち直らなければ、その時は崩壊してるから継がなくてすむ!」
「自国の貴族の言葉とは思えぬでござる」
「そりゃ地獄の貴族の言葉だし」

 この国、どれだけ終わってたと思ってるんだよ。

 俺がいなかったらとっくの昔に飢饉で国が崩壊。もしくはベフォメットに滅ぼされてる説があるくらいだぞ。 

 これは自惚れではない、まじで両方とも可能性あったと思う。

 俺の芋がなければ飢饉はもっと酷かっただろう。俺がいなかったらエフィルンを止められる奴がいなくて、ベフォメットに負けていただろう。

 あれ? 俺って実は救世主では? わりと英雄なんじゃないのか!?

「そういうわけで王を継承しなくてよい。もしくは十年は時間を稼げる方法を考えて欲しい」
「アトラス殿の評判を落とさずには無理でござるよ。今や王都でもアトラス=サンが広まりまくってるでござる」
「あれは完全フィクションだって言ってるだろうが! あんな聖人がこの世にいてたまるかっ!」

 アトラス=サン。それは俺のペルソナ……制御できない俺の別側面。

 ……ようは伝記として出版された俺が、完全に別キャラで書かれて出版されているのだ。

 それが何故か国民にうけまくって、俺の評価が民の中でうなぎのぼり。

 大量に増刷している上に、次は三巻『ベフォメット救済編』が発売されるらしい。

 おかしいな? すでにうさんくさい宗教じみたタイトルである。

「ちなみに私も取材を受けました。三巻の最後に主様の妻になります」
「事実捏造してる!?」

 そんな本が出版されて人気になったら、マジでエフィルンが暗黙の了解で妻になるのでは!?

 別にエフィルン嫌いじゃないけどマズイと思う!

 ……アトラス=サンめ。冗談抜きで制御できない俺の別側面になってやがる。

「もう諦めて王を継ぐでござるよ。何、アトラス殿が王になろうが拙者はいつまでも酒の友でござる」
「俺が王になっても酒タカリに来るだけだろうが!」
「はっはっは」

 センダイは笑いながら酒瓶を口に含む。

 どうすればよいのだ! なんか何をしてもムダな気がしてきたぞ!

「主様。私に策があります」
「エフィルン……お前はやはり俺の忠臣だ。その策を教えてくれ」

 エフィルンは無表情のまま、俺の味方をしてくれる。やはり彼女こそ俺の忠臣だ。

 アトラス=サンの取材に協力したので、実は敵なのではと思ったけど流すことにしよう。

 ここでエフィルンが敵だったら、俺の味方がいなくなるっ……!

「アトラス様の伝記の書き手と直接交渉して、無難な出来にさせるのです。そして本で宣言させるのです、私は王になるつもりはない。そして私を妻にしてくれると」
「最後はともかく、わりとよい手かもしれないな……」

 エフィルンの提案は結構よい線をいってると思う。

 なんかそれっぽくだ。「私はレスタンブルクだけではなく、全ての人を救う!」とかなんとかのたまわせれば、わりとワンチャンあるのでは?

 少なくとも何もしないよりはだいぶマシだ。

「そうと決まれば早く動かねば! カーマたちに買収される前に、俺の伝記の著者を買収せねば!」

 そう叫んで俺は椅子から立ち上がり走り出す。だがすぐに行先が分からずにすぐ止まった。

「……伝記の著者って誰だったっけ。なんか聞いたような記憶はあったんだが……ゴーストライターなことは覚えてるんだが」
「リズ様です」

 リズ……リズ……誰だったか。どこかで聞いたような聞かなかったような。

 思い出せ。確か著者は身体が物凄く弱かったはずだ。

 そして何かヤバイ特徴があったはずだ……何か……。

「セバスチャンさんの孫です」
「敵じゃねぇか!」

 よりによってセバスチャンの孫かよ!? 敵の主軸じゃねぇか!

 そういやセバスチャンの孫は常に病床に臥せってたな!? 

 以前にも勝手にアトラス=サンを書かれたあげく、文句を言おうにも床に伏したと逃げられたのだ。

「……リズの元へ向かう。戦いは免れないだろう、覚悟してかかれ」
「家臣の孫に会いに行くだけで大げさでござるなぁ」
「軽口を叩くな! フォルン領と俺の命運、この一戦にありだ!」

 思わず叫ぶ。ここで俺の伝記を悪く書かせなければ、完璧に詰んでしまうのだから。

 まるでマスメディアを敵に回したかのような恐ろしさだ。

 ……普通なら悪く書かれるのを食い止めるのだが、俺の場合は今まで通りにべた褒めに書かれるとまずい。

「大丈夫でござるよ。フォルン領はこれからも発展するから、アトラス殿の今後の暇な時間が減る程度でござる」
「それが嫌だって言ってるんだろうが! 俺が王にされて胃痛と過労で倒れたらどうする!」
「はははは。アトラス殿が倒れるほどなら、今の王様は胃痛でくたばってるでござるよ」
「どういう意味だこの野郎」

 それではまるで俺が無敵の人みたいではないか。

 この繊細な俺によくもそんな心無いことを! 俺はか弱いんだぞ!

「行くぞ! 敵はセバスチャンの家にあり!」
「あ、拙者どうでもよく眠くなってきたのでパスで」
「裏切り者がぁ!」

 センダイは床でいびきをかいて眠り始めてしまった。なんて野郎だ、何の役にも立たなかったぞ!

 タダ酒飲まれただけじゃねぇか!

 仕方がないのでエフィルンと二人で、セバスチャンの家へと向かった。

 セバスチャンは日中は走り回ってるので家にいないはずだ。あいつは背中に電動式ゼンマイと、ソーラーパネルつけてるようなものだから。

 なので今いるのは、セバスチャンの孫娘のみ! 

俺はセバスチャンの自宅の前につくと、【異世界ショップ】から拡声器を取り出す。

「聞こえるか! 俺はアトラス! 俺の伝記の作者よ、速やかに降伏して自首せよ! さもなくば反撃するから大人しくしてくれ!」
「犯罪者扱いなんですね」
「セバスチャンの孫だぞ? 大人しく捕まるわけが……来るぞっ!」

 家の扉が開かれて、そこから殺人鬼の孫が現れた。

 その孫はすごく身体が細く色白だ。とても健康な見た目とは思えない。

 いやむしろ病人と言った方がしっくりくるだろう。そんな彼女は扉にもたれかかり、何とか立っている状態だ。

「あ、あの……けほっ。アトラス様……ようこそいらっしゃいまし……」
「えっ、ちょっ」

 セバスチャンの孫は力尽きたかのように、地面に倒れ伏した。
 
「リズ様は超虚弱ですよ。セバスチャン様と同じ種族として扱うのは……」
「先に言おう!? いや聞いてたけど信用ならなかったというか!?」
しおりを挟む
感想 61

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

処理中です...